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45勝手目 東北の新撰組と京都の新選組(2)

翌日――相馬から、壬生寺か近い八木邸へ来るように連絡を受けた。


 わざわざ臨時休業にしたのかと問えば、元々休みだと返信が来た。ホームページを見る限り、そんな事は無さそうだが?


 宿泊したホテルから歩いて行ける距離のため、10人で大名行列のように列を成す。

 昨日それぞれのチームでは、すったもんだあったようで皆疲れている様だった。


 とある2人を除いて、は。


「なんでわざわざスーツなんだ? おれ太ったのかな、ジャケットきちぃわ」

「毎日ポテトチップスに炭酸飲んでゴロついてるからよ。禁忌を犯して痩せてくれば? 2度と帰って来ないで」

「まだ怒ってんのかよ。盾にして悪かったって」

「フン」


 学と祈が喧嘩をしている、らしい。おかげで空気もさらに重く、どうしようかと誰も声を発せない状態を作り上げているのだ。


 一緒に居た晴太と伊東から事情を聞くと、刺股に振り回されて逃げている最中、学が祈を盾にして逃げた――と。


 情けねぇったらありゃしない。


 男女問わず、人を盾にするなんてあり得ないだろ。お兄ちゃんキャラを確立させたい割には、肝心な時に頼りない。

 禁忌中の晴太を倒木から守れても、現代で刺股に振り回されて祈を守れないってどういう事なんだ。


 そりゃあ祈も怒るだろう。


「マジでごめんって! 何か奢ります!」

「ハァア!? お金なくて私から5000円借りたの覚えてないわけ!? まずそのお金返しなさいよ!」

「やべぇ……素で忘れてたわ……守、悪ィ! 金貸して!」


 借りた金を借りた金で返そうとするな。そして従兄弟はいえ、年下から借りようとするな!

 絶対返ってこない。返ってこないが親族が故に、他人に迷惑を掛けているのが恥ずかしい!

 

 しかも、祈の機嫌が最高に悪い……仕方がない。此処は返って来ないものだと思うしかない。


 渋々、嫌々。財布から5000円札を取り出して学に渡す。


 と、思ったのに。


「はい」


 何故か沖田が祈に札を渡している。沖田は無表情。祈は戸惑って受け取れないでいるし、他の面子もハテナが止まらないのは明白だ。


「早く。めんどくさいから」


 沖田は祈のジャケットに無理矢理札を捻じ入れて、無言で八木邸へと体を向ける。


 今日の沖田は何か変だ。朝からあまり話さないし、笑いもしないし、怒りもしない。呪いで感情が無くなったのかと疑うレベルだ。


 晴太は京都支部との対面に顔色を悪くし、伊東だけは沖田に絶えず話しかけている。が、話している様子はない。


 樺恋だって「洋、怒ってる?」と朝から幼いながらに悩んでいる。ネリーと宇吉が樺恋を宥め、洋斗は兄としてどう接するべきかと混乱してるくらいだ。


 今日は皆調子が悪い。それに、何か忘れているような――

 

「……おれ、ちゃんと洋に返すわ。祈、ごめんな」

「あぁ……うん。私も、意地になってたわ……」


 問題は一つ解決した様だからいいだろう。思い出せないということは、大したことでは無いはずだ。


 京都支部の連中に負かされない様に、気を引き締めなくては――。

 今日は全員がスーツだ。それぞれがイメージカラーの揃いのネクタイをつけ、10人で1つだと見せつける。


「あぁああ……き、緊張する!」

「頑張れよ、《《局長》》。何かあれば俺も伊東も居るんだ。大事にはしないさ」

「そこは心配してないよ? でもね、局長って響きにプレッシャーを感じるんだよ。洋! あんまりカッカしちゃダメだからね!」


 晴太は手に人と何度も書いては飲みを繰り返しながら沖田を牽制した。

 しかし沖田は伊東の影に隠れて「はい」と素っ気ない返事で済ます。


 コイツも緊張しているのか? あれだけ啖呵を切っておいて?

 いや、沖田も人間だ。突然不安になるなんてあり得る事。


 京都支部と対面すべく、いよいよ聖地である八木邸の門を潜った。



「……えっと、神霊庁しんれいちょう東北地域とうほくちいき災厄対処さいやくたいしょ超常現象ちょうじょうげんしょう調査鎮圧ちょうさちんあつ新撰組しんせんぐみ局長の近藤晴太です……初めまして……」


 日本庭園の見える奥の間。折りたたみの長机の足に布を巻きつけ、文化財が傷付かない配慮がなされている。


 庭に近い方を上座とし、晴太、俺、沖田、伊東、学、祈、洋斗、ネリー、樺恋、宇吉の順で横並びに座る。


 一方、テーブルを挟んだ向こう側には京都支部が4人。相馬以外は面識はないが、他のメンバーはそれぞれ、誰かと面識があるようだった。


「ぶち立派な肩書きじゃのぉ! 新撰組を取っても何も困らんのじゃないか? のぉ、谷!」


 この男はいなり屋の服部司。祈と兄貴の喧嘩の原因を作った張本人だ。後ろには布に包まれた、長い何かが横たわっている。きっと刺股だろうか。


「その話を長く長く長ァくしようぜ。今日も家に帰ったら親父に怒られっからよ。な、洋斗、ネリー!」

「気安く下の名前デ呼ぶんじゃナイ! ネリーは谷が食い逃げしたノ、許してナイ!」

「本当だぁ! トイレに行くなんて言ってぇ、お会計とんずらしてぇ! 1番高いもの食べてたのにぃ!」


 メガネを掛け、膝を立ててヘラヘラするのは谷文人。ネリーと洋斗が探した藤森神社の息子らしい。


 2人がテーブルに乗り上げてギャンギャンと騒ぐんだから、兄貴と同じ様なダラシのない奴なのかもしれない。


 谷はそうだっけと首を小さく傾げて口笛を吹く。アレは確定でクソ野郎だ。俺の勘がそう言っている。


「今日お2人共スーツなんですねぇ。樺恋さん、宇吉さん、昨日はご足労頂いてありがとうございました」

「いえいえ! こちらこそお仕事中にも関わらずご対応して頂き、ありがとうございました」

「御朱印帳もありがとう! あの後ね、宇吉と神社回ったのよ!」

「樺恋さんは意欲的で感心します。またいつでも、清水に来てくださいね」


 艶めく茶色い長髪をサイドに緩く結んで流し、中世的で整った顔立ちの男性。会話を聞く限り1番まともな人間だろう。


 宇吉と樺恋が貰ったという御朱印帳を開いて見せ、清水寺に本部を置く京都支部の事務員、"尾形誠おがたまこと"と微笑ましそうに談笑している。


 見るからにこの中の誰よりも精神年齢が高い。実年齢はわからないが、神霊庁のクセの強さに胃もたれしていた俺には希望に見えた。


「いやぁしかし、誠殿は女性かと思っておりましたが……まさか男性でしたとはなぁ。いやはや、恐れ入った」

「昨日は女の人の格好してたものね。あたしも綺麗になりたぁい!」

「樺恋さんも宇吉さんも顔が整ってますから綺麗になれますよ。特に宇吉さん、女装したら映えると思います」

「えぇ? 本当でござるかぁ?」


 はい、前言撤回。クセの塊だった。趣味は否定しないが仕事中に女装するな。


 で、相馬は――ニコニコして俺と沖田を見ているし、沖田が伊東と話そうものなら「三角関係なん……? それはそれで……」と、ニヤニヤしながら携帯に何かを打ち込む。


 認めたくはないが、四角関係だと訂正してやりたい。ヴッ、胃が……。ズキズキ痛む胃を摩る。


 沖田を横目で見た。別に昨日みたいなのを期待してるんじゃないぞ。


 俺の視線に気づくと、伊東の方にわざとらしく体を寄せて俺には一切話しかけない。今度はなんなんだ。何に不機嫌になっているんだ?


 まさか昨日の夜に伊東と何かあったとか? 旅行に来たテンションで、伊東とまた何かしたのか?


 思わせぶりな態度ばっかり取りやがって……! お隣さんじゃなかったのか!?


「守、大丈夫? さっきから様子がおかしいよ」

「一緒に気を狂わせる覚悟があるなら話すぞ」

「此処に来るだけで気はどうにかなってるよ!」


 晴太はそれどころじゃないようだ。相馬は新見が来なければ話は始められないと、死んだ魚のような目で機械的に告げた。


 そして待つ事数分――閉められた襖の向こうから、畳を擦って歩く音が聞こえてくる。


 京都支部の新見、一体どんな女なんだ? 晴太の喉が鳴る音が大きく聞こえる。

 

 晴太と俺が狙うのは、沖田が戦線布告してしまい不快にさせた事への謝罪、そして互いに折り合いをつける為の対談だ。

 折れると言えば聞こえはいいが、これからも禁忌を冒して呪いを薄めて行くには必要な事。


 頭を下げて許されるなら、何度でも下げてやる。


 そして間もなく、シャッっと襖が勢いよく開いた。


 柄に柄を掛け合わせた朱色を基調とした派手な着物に、和物のアクセサリーを付け、頭にはメイド喫茶を思わせるレースのカチューシャ……に赤く細いリボン。


 大きなヘアアクセの下には、まろ眉、そして目を引く赤縁メガネ。


 重たい一重の下で黒い目玉がコロコロ動く。まるで俺達を見定めている様だ。


「……ふぅん。男は悪くないやん。豊作やね」

「新見、今日はそういう場やないって言うたやろ」


 新見のねっとりとしたニヤケ顔。獲物を見つけたヒョウのように鋭い。

 対して相馬は軽蔑を含んだ言い方で新見を斬るが、何のダメージもないらしい。


 そしてまた樺恋、ネリー、祈、最後に沖田を細目で見る。


「なんや、女はブスばっかやないの」


 その衝撃の一言に、沖田以外の3人は勢いよく立ち上がった。


「あたしのどこがブスなのよ!」

「ドコに目ン玉ツイてる!?」

「鏡見ろゴルァ!」


 祈は新見の胸ぐらを掴みにかかりそうな勢いで激怒した。学と洋斗が必死に体を掴んで止めるが、キレた祈の力は常人を超えている。洋斗は後ろに一回転、学は横へと投げ飛ばされた。


 が――、宇吉がなんとか取り押さえて暴力沙汰にはならず、と言った感じだ。どんだけ力強いんだよ……。


「おぉ、怖い。暴力なんてウチには出来やしまへんわ……ブスにブスと言って何が悪いん?」


 と、口元を着物の袖で隠しながら、高笑いで花柄の扇子を広げる。


 沖田だけが無反応で、まるで新見が居ないかのようにぼうっとしているだけだ。

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