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45勝手目 東北の新撰組と京都の新選組(1)

「そないに警戒せんでええのに。毎年ここで会うてるやろ? 神霊庁職員って事以外は、ただの売店のお兄さんなんやけど」

「その神霊庁職員ってのが厄介なんだよ」


 相馬志蓮と名乗る男は、自分に害は無いと言わんばかりににこにこと話しかけてくる。

 眠たそうなトロンとしたタレ目、センター分けに顎ほどまで伸びた横紙をばっつりと切った黒髪、そしてあどけなさを感じさせるそばかす。


 そして眠気を誘うような穏やかでおっとりとした京都弁。 


 一見すれば普通の売店の人なのだが、神霊庁職員というのがよくない。

 会うのは初めてではない。が、職員だと知れば無条件で呪われた沖田を嫌っているだろうし、今度こそ監禁だなんだと騒ぐかも知れない。


 晴太曰く、過激な職員なら沖田を使って地方に伝わる伝承や伝説のために利用するだろうと言っていた。

 神霊庁管轄の土地にある開かずの扉や、入ると神隠しに合う曰くつきの場所、暫く誰も足を踏み入れていない神霊地への執行――


 リスクの伴う仕事を、死なない沖田に任せようとする連中がいるならば、喧嘩を売った京都支部なんて特にだろう。

 腹いせに……なんて事もあるだろうし、何かされたら太刀打ちするくらいの気持ちでいなければ。


「で、売ったん? 喧嘩」


 相馬の問いかけに沖田が答えようとするが、手を出して俺が話すとアイコンタクトを取る。


「宣戦布告したのは確かに沖田だ。だが、近藤が煽られた事を考えるとお互い様じゃないか」

「せやねぇ……でも、沖田はんは喧嘩売る相手を間違えたかもしれへんね。言うても、親の七光りみたいなもんやさかい、そないに怖がらんでもええんやけど。ただ、えらい厄介ってだけでなぁ……」


 相馬は肩にかけた紺色の羽織を抑えながらゆっくりと立ち上がり、売店の外へと出て来た。


 身長は然程高くなく、170センチは無いだろう。その上小柄で華奢な体をしている。カリカリという言葉はこの男のためにあるんじゃないか?


「ここやと他のお客さんに迷惑かけるさかい、外で話そか」

「アタシの買い物は!?」

「後でいいだろ! 沖田が喧嘩売ったんだから、少しは自分でなんとかしようとしろ!」


 全くコイツは。チェッとわざと声にだし、早く話し終われと相馬に悪態をつく。

 相馬はニコニコと表情を変えぬまま、楽しい子やねぇと好意的に言うのだ。


 沖田の態度に、嫌な顔をしないだと……!?


 まさかコイツも沖田に(のろわ)れて――いや、余裕を見せて喧嘩の報復をしてくるかもわからんぞ。腹の底は真っ黒な人間なんてゴロゴロいる。


 そうであれ! どいつもこいつも沖田の容姿に騙されるなと言ってやりたい。

 自分の感情を自覚してから、俺はうんと嫌な奴になった気がする。あぁ胃がキリキリする。

 

 なんだ? 何でこんな感情に振り回されているんだ? もうわからん。胃に手を当てて痛みが治るのを待つ。


「土方、顔怖いぞ。腹でも痛いのか?」

「お前のせいで胃が痛い」

「ハァ?」


 喧嘩売ってんのかと睨んでくる。あぁ、こんな事なら自覚しなきゃよかった。


 しかし沖田は胃の辺りに手をそっと添え、時計回りに優しく摩る。くすぐったさもあったが、沖田がこんな事をしてくるなんてと驚きの方が勝る。


「ほら、治ったか?」

「痛いの痛いの飛んでいけぇ、やね」


 沖田は医者じゃないんだから治る訳ないだろうと思っても、不思議とキリキリとした不快感はなくなった。


 晴太みたいにチョロいのか……そう思うと恥ずかしくなって、穴に入りたくなる。


「……外に行こう。そこまで痛くないから」


 首の後ろに手を回して照れを誤魔化す。相馬はフフと息を漏らして笑うと、外はこっちと歩き出した。


 快晴の下、相馬が歩いて行くのは新撰組隊士の墓――沖田が京都で最も長居する場所だ。

 相馬は俺達が毎年観光するのを見ていたというから、ここへ連れて来たのだろう。


「待って」

「なん? 沖田はん、ここが1番好きなんやろ?」


 誰よりも先に駆けていくと思っていた。しかし沖田は立ち止まり、深刻な顔で相馬を見つめるのだ。

 

「ここで話したら、皆がゆっくり寝られないだろ。話しても大丈夫そうな所に行こうぜ」


 今度は沖田らしく背を向けて、1人でその場を離れていく。使い込んだ黄色いウエストポーチについた、沖田総司のキーホルダーが静かに揺れていた。


「新撰組の事は気遣えるのに、どうして近しい人間には我儘なんだか……」

「ええやないの。ボクは好きよ」

「俺は苦労してるんだ。沖田の容姿に騙されるなよ」 

「あら、ボクの好きはそういうんと違うよ? 土方はんも好きやし、ね?」

「……は?」


 伊東とはまた違った、心情が全く読めない奴だ。ゾゾゾと背中に虫が這うような感覚が走り、コイツと2人でいるのはよそうと決めた。俺にそういう趣味はない。


 相馬より少し早足で歩き、沖田がここならと言うところで立ち話をする事にした。本堂脇、撮影スポットにもならない端っこだ。


 3人で向かい合うように円になる。その方が話しやすかろうと思ったのだが。

 相馬は薄くて太い眉毛を顰めて、おかしな事を言うんである。


「2人は並んどらんと……もっとピタって。そうそう。ええねぇ、ええねぇ」


 沖田と並ばせられ、フラつけば体が当たる距離に寄せられる。また変な奴……が。


 相馬は満足そうに微笑むと、いけないと顔を叩く。そして、本題に入ろうかと目付きに力を込めた。


「沖田はんが喧嘩を売ったのは"新見"ちゅう京都支部長の娘……苗字で察する通り、彼女も自身を新撰組や思てる厄介な子ぉでね。

 神霊庁の中から新撰組隊士とおんなじ苗字を持つ男性を漁ってるんよ。

 けれど新見が思うメンバーを集めるより先に、東北で新撰組出来てもうた……もうカンカンで、治めるのにえらい苦労してなぁ。

 支部長の娘って立ち場を利用して、どないして潰そうと奮闘してる訳よ」


 聞いているだけで厄介な女だ。なんだ、男を漁ってるって。


「じゃあ全国会議を開いて、うちの近藤を晒しあげたのも?」

「お察しの通り。リーダーが心折れて解散する思うとったのに、わざわざ厄介者が出てきて解らせに行く、なんて言われるとは予想してへんかったみたいだけど」


 さすが新撰組、とでも言うべきか。根強い人気があるだけに、俺達と似たような思考を持つ人間もいる。


 新見といえば酒癖の悪い狼藉者という印象が強い。正直、その印象を持たれながら新撰組と名乗るのは嫌じゃないのか? と問うてみたいもんだ。


「新見も局長だったもんな」

「沖田は自分が新見だったら新撰組を集めたいと思うのか?」

「さぁな。でも集めたいってんだから集めたいんだろ?」

「そやけど……ちなみに、沖田はんはどないな気持ちで解らす言うたん?」

「それは……」


 相馬の問い掛けに、沖田は俺をチラリと見た。まさかコイツ、考えなしに適当言ったのか? だから俺を見てるのか?

 

「まぁ、今はいいじゃん? 明日教えてやるよ。で、京都こっちの新撰組は誰がいる訳?」


 明日まで考えておきます――って意味だろうな。切っていた携帯やスマートウォッチの電源を付け、意識を他に向ける。


 焦ってるのが丸わかりだ。俺はわざと携帯を取り上げて、話に混ざって目で訴える。沖田は舌先をチロっと出し、悪びれもしないのだ。


 このバカ。その舌引っ張ってやろうか!


「ええなぁ。仲良しで。ずっと見てられるわぁ……」


 うっとりと顔を赤くして俺達を眺める相馬。酔いしれるように頬に両手を添えて首を傾けている。じゅるっと涎まで啜るんだ、さすがの沖田も一歩引く。


「あぁ、堪忍してな。ボクの好きにドストライクな2人なんよ……で、誰がおるか、やったっけ?」

「うん……」


 もういい。触れないでおこう。きっと碌な理由じゃない。相馬は羽織の内側から、売店で販売している新撰組よ扇子を取り出して顔を仰ぐ。


 そりぁ、暑かろうよ。顔が真っ赤で汗まで掻いてるぞ。神霊庁には癖の強い奴しかいないのか?


「まずボク、相馬。京都支部の清水寺本部におるんやけどなぁ。窮屈やから、いろんなお寺さんや神社さんの売店に顔を出すんよ。で、お客さんと話すのが好きなんやわ」

「サボりじゃん。本部で何してんの?」

「視察って言うて欲しいなあ。普段は新見の補佐。昔はただの新卒で入った寺務員やったんやけど、新見に引っこ抜かれてなぁ。今やお世話係よ」


 新見の話になると少し機嫌の悪そうな顔をする。目の辺りに暗い影を落とし、出来るなら関わりたくないと声色も変わるのだ。


 俺が沖田に対して苦労しているのとは違い、嫌悪の混ざるもの。なんか、俺は沖田で良かったなと安心してしまった。


「それからおんなじ本部に尾形と松原もおるよ。他にはおいなり屋の服部、藤森神社の息子の谷。皆癖はあるけど、ええ人や思うで。新見以外は、ね」


 4人の名前が出て来るが、相馬が新実を嫌っているせいで他の人間の情報が薄い。彼にとって新見とは、日常の平穏を脅かす脅威なのだろう。


 それがわかると、俺達に向ける笑顔は偽りのない物だと信じていい。


「新見はいけずやから明日の場所も教えてくれへんかったやろう? ボクから他の人間に連絡しとくから、2人の連絡先教えてくれる? 電話番号とメールアドレスとSNS全部。2人でやってるアカウントやらもある?」

「アタシSNSとかやってないぞ?」

「ほなやろう!? 土方はんとさぁ! 2人の生活ダダ漏れにして、ボクに教えてや」


 目に星を散りばめ、鼻息を荒くする。鼻からツウと鼻血を垂らしているのも気付きやしない。


 少し癖のある男だが、相馬のおかげで明日は無事に京都支部と対面できそうだ。


 あとは、沖田が何を考えているのか。何を解らせるつもりなのか――言葉に詰まった時に助けてやるくらいは、してやるか。

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