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44勝手目 駆け出したのはいいけれど

「樺恋様。京都は歩き慣れておりませんのでね、宇吉から離れないようにお願いしますね」

「大人だからはぐれたって平気よ! あたしが新撰組を見つけて、洋達のことびっくりさせるんだから!」


 毎日握って来た手は日に日に大きくなって行く。早く、と駆け出して行く足は速くなり、顔も大人になって行く。

 大変喜ばしい事です。思わず涙ぐんでしまいます。


 5年前――地震のあったあの日、永倉様の訃報を受けた宇吉はどうしようかと迷いに迷いました。宇吉は永倉様のただの秘書であり、家政夫でしたから、樺恋様を引き取るという考えもございませんでした。


 しかし、両親を亡くした樺恋様は大変気丈に振舞われておりました。こんな小さな子が何故と不思議でした。両親がいないのですぞ、泣くなり騒ぐなりするでしょう。

 その強い精神力は気味が悪いとさえ思いましてな。


 樺恋様に訳を聞くと、土埃がついた浅葱色のパーカーを抱きしめ、洋殿を探すとまっすぐな目で仰られまして。

 その時に決心したんですなぁ。宇吉は樺恋様が成人なさるまでお側に居ようと。


 宇吉は永倉様に拾って頂いた身。よくある話ですが、家が貧しくて学校へも行けず、働きに出た東京で永倉様と出会いましてなぁ。


 有難いことに家族も人並みの暮らしを送れるようになりまして、その日食うのにも困らなくなり――感謝しかないのでございますよ。


 その生前の永倉様にも樺恋様をよろしくと何度も何度も言われておりましたから、その使命を全う出来ればご恩も返せるはず。


 宇吉も全力で探させて頂きますぞ!


「しかし、樺恋様。宇吉らは皆様の元へ来たばかりの新参者。故に新撰組や神霊庁の事は詳しくはわかりません。如何して探しましょうなぁ」


 と、9歳に少し意地悪な質問をしてみる宇吉。力強い足取りに確かな気迫。樺恋様は9歳ながら聡明で賢いお方ですから、きっと何かお考えがあるはずなのです。


 宇吉はそれを知っておりますからなぁ。樺恋様はフフンと得意げに宇吉の手を強く握り返すのです。


「それはアレよ! いっぱい聞けばいいのよ!」

「はぁあ! さすが樺恋様! 沢山の方に声をかけて情報を集めると! いやぁ、宇吉は人見知り故そのような事は思いつきませんでしたなぁ!」

「あたしを誰だと思ってるのよ。新撰組の永倉樺恋なのよ! こんくらい、どぉってことないんだから!」


 さすがですと拍手が止まりません。樺恋様と腰に手を当て、鼻高々なご様子。大人でしたら当たり前に浮かぶ方法かもしれませんがな、なんせ樺恋様は9歳ですから。


 9歳で人見知りせず情報収集しようと思う事が素晴らしい事なのです。あっぱれです。


「でも……」

「およ? どうされましたかな?」


 樺恋様は上唇を尖らせて、伏し目がちにこう申し上げるのです。


「あたし、神社とかお寺の事わかんないの。なんか決まりとかあるのかな……神社に入る時のお辞儀とかあるんでしょ? 間違えないで出来るかな……」

 

 な、なんと……! 宇吉は思わずよろめいて尻餅をついてしまいます。そしてブルブルと腕が震え、涙腺も緩むのです。


「素晴らしいッ! 樺恋様は他の方を気遣えるお方になられて……! ご安心ください、宇吉がおります! 樺恋様がきちんと新撰組探しに専念できるよう、しっかりお手伝い致しますからなぁ!」


 胸元に仕込んでおいた扇子を素早く開き、樺恋様のお顔の周りでひらひらとそのお気遣いを称えるのです。


 俯いていた樺恋様の顔は明るくなり、またいつも通りの力強く凛々しいお顔立ちへ。


「宇吉! 行くわよ!」

「はい、樺恋様! しかし何処へ?」

「……それは……何処……に行けばいいのかわかんないわ! 宇吉! 探しなさい!」


 そんな事もあろうかと、宇吉は頭の中で候補をいくつかあげておりました。樺恋様のご要望に即座にお答えできなければ行けませんからな。


 秀喜殿曰く、本来設置された京都支部はかの有名な清水寺にあるとの事。であれば、新撰組を名乗る職員がそこへ居らずとも、どこの寺院仏閣に所属しているかはわかるのでは――と、宇吉は思ったわけですな。


 あちこち歩けば樺恋様もお疲れになられ、折角の京都をお楽しみ頂けませんからなぁ。

 守殿のエリア分けには感謝申し上げたい所存。


「樺恋様! 清水の舞台から飛び降りると致しましょう!」

「清水寺ね! あたし行って見たかったの!」


 おやおや、目的が変わりそうな目の輝き。それでもよいのです。手掛かりがなければないで、それもまた収穫ですからな。



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