43勝手目 禁忌は京都で犯すもの(1)
見渡すだけでゴーンと、梵鐘が聞こえてきそうな街並み。
あっちへこっちへ人が入り混じる昼過ぎの京都駅前。何度も来ている場所なのに、今回は心がざわざわと落ち着かない。
大勢での旅行が楽しみだとか、特別京都が好きなどの理由ではない。
「京都までの運転、ご苦労だったな」
「助手席が洋だったので頑張れたんですよ」
「ん? アタシ何かしたか?」
「何もしなくていいんです」
隣に洋がいるんだから楽しいと言えたらどんなにいいか。大勢いる手前だから言えないだけ。
許されるなら、誰の目にも付かないように箱に入れて連れて歩きたいんですから。
しかし、明日は洋の誕生日。愛妻家な父親からのアドバイスを受け、京都で思い付く限りのもてなしを考えに考えた。
新撰組屯所跡地にあるホテルも1番良い部屋を取った。着物は動きづらくて嫌いだと言うから、京友禅で浅葱色の羽織を仕立てて貰っている。
それから人力車や一見さんお断りの料亭での食事――他にもプレゼントだって準備してあるし、あとは明日の誕生日を祝うだけ。
前回来た時には人が群がるだけに見えた観光地も、今回は華やかな京の都と言いたくなる。気持ちが昂って落ち着かず、柄にもなく走り出したくなった。
京都支部へ行くのも明日なら、今日の残り時間は自由でいいはず。
洋の左手にそっとふれ、耳元で良い所を知っているから行こうと誘う。彼女はどこ? と興味を持って聞き返してくれた。
それはついて来てからでないと教えませんと、意地悪してみる。教えてしまったら断られるだろうし、場合によっては他までついてくる。
それは嫌だ。この日のために携帯も新調して容量も1番多い物にした。カメラロールを全て洋で埋め尽くす勢いで来たんです。
金に糸目はつけなかったし、今日明日でなんとかして洋に異性として意識してもらいたい。絶好のチャンス!
洋は遅れて、じゃあ行くと言ってくれた。そっと話の長い宇吉の目を盗みながら、輪から外れる。
「秀喜殿、洋殿を連れてどちらへ!? さては宇吉のしおりを見ておりませんなぁ!? 樺恋様と宇吉は貴方の会社の株主ですぞ!」
「そうよ! ひとりでぬくぬくしようってんなら許さないわよ!」
「樺恋様、そこは抜け駆けですな」
全員がこちらを見る。余計な事を……このまま走り去りたいものの、オレも経営者の息子。株主という言葉には弱い。
ここは黙って居るしかないんです。最近来たばかりの2人のせいで生活しにくいったらありゃしない。
そして手製のしおりを開けと言われて開けば、今日を含めた5日間のスケジュールが分刻みで決められている。
自由時間は夜くらい。夜なら――夜になんとかして洋と2人にならないと。
父親だって母親に見向きもされなかったけれど、夜の雰囲気でなんとか、あぁしてこうしたらどうにかなったと言っていた訳ですし。
「という訳で、今から樺恋様ご希望の水族館に……」
「局長ルール発動しまぁす」
宇吉のアナウンスを遮る晴太。文句を言う様子はなさそうなのに、言葉の並びから仕事の匂いが。
局長と言うくらいなんですから、新撰組全員に関係あるぞと言いたいのです。
「京都支部を探すよ。明日行くって言っちゃったし」
「えぇ!? つまんなぁい!」
樺恋は頬を膨らまして機嫌を損ねる。9歳には確かにつまらないでしょうが、23歳にもつまりません。
「樺恋ちゃんも新撰組に居るんだから我儘はダメだよ。僕らと一緒に居るって事はね、こういうことなの」
「洋と居たいだけなのにぃ……」
「アタシだって仕事すんぞ? ま、アタシは大人だからなぁ。お子様には難しいよなぁ」
樺恋に目線を合わせる晴太と腕を組んで煽る洋。樺恋は地団駄を踏み、キィと軋むような甲高い声を出した。
子供の声って耳に刺さって痛いな……。
「あたしも大人だもん! いいわ、宇吉! あたし達が1番最初にキョート支部の人間を見つけるわよ!」
「お、おぉっと!? 樺恋様! 1人で行ってはなりませぬッ!」
巻き髪のツインテールを揺らし、プライドが高いお嬢様は人混みの中へ溶けていく。
宇吉が慌てて追いかければ、必然的に京都支部の捜索が始まる。
「観光マップを頼りに、5つのエリアを手分けして探そう。宇吉は樺恋と一緒だからあまりさばけんだろうが……さて、2人ずつか」
守が当たり前のように仕切り出す。探すのは良いとして、また班決め。2人なんて絶好のチャンスじゃないですか。
テーラージャケットの腕をまくり、引いてやりますよと意気込んだ時だけ。
「アタシ、晴太くんとがいい」
「え……え!? 何!? また、僕の事を揶揄ってるの!?」
洋は晴太の右腕に両腕を通し、びったりと体をくっつけた。近い近い近い。いつもは圧が強いと引いているのに!
「揶揄ってないよ? 一緒に探そうよ」
「うん……いいよ……?」
「じゃ、アタシ達は洛中の方を回るから。あとはよろしく」
黄色の大きなリュックを背負い、ヒラヒラと手を振りながら晴太と五条駅方面へと歩いて行く。後ろ姿を眺めては、呆気に取られて見送る事しか出来ない。
「ま、まあね、支部を探すだけだから! じゃあ私達はくじ引きで――」
舐めないでくださいよ。こっちはね、洋のスマートウォッチにGPS仕込ませてるんですからね。
祈がくじを出し切る前に、守が祈も学をくっつけて、洋斗とネリーもくっつける。
そして宇吉へ急いで電話をかけて「お前は洛東!」と一言で切り、祈達へは洛北エリア、洋斗らへは洛南エリアへ行くように指示した。
「伊東、行くぞ!」
有無を言わさず洛西エリアへ連れて行かれる。他の4人はポカンと置いてけぼり。構わず守は足を踏み出して、洋達の向かった方向へとダッシュする。
結局この人も必死なのだと思うと、強いストレスを感じた。守が必死だと洋は強くなるというか、言葉で言い表せない信頼関係を見せつけられる。
それだけは金じゃどうしようもできない。あぁ、もどかしい。
面白くないなと思いながら並走すると、守はかなり焦ってた様子だ。
「沖田の背負ってたリュック、絶対に何か大きな物が入ってるぞ! しかも突然晴太を誘うなんておかしいと思わないか!」
「何か特別おかしい事ありますか?」
洋は言動も行動も突拍子もない。いつもの事ではと思うのに、幼馴染の感というマウント取りなのか、違う! と首を振り、前髪を靡かせる。
「沖田が積極的に京都支部を探す気があるとは思えん! しかも沖田の言うことを聞く晴太とだぞ? そして、壬生寺のある洛中を希望した。それってつまり――」
続く台詞を聞けば「それはマズイ」と焦りが襲う。早く追いつかねばと、京都の地面を蹴り進む。




