41勝手目 京都支部をボコろう(1)
共同生活が始まって1週間。
僕は次なる困難に直面している。不慣れなパソコンでのリモート会議。愛想よく振る舞わないと――と思っても、ついた肩書きが僕を苦しめる。
僕以外は声だけの参加。だけどね、声色で表情がわかっちゃうの。嫌だよね。
画面の向こうから伝わる殺気。全国の神霊庁職員に僕ら「新撰組」の事を公で話す場が設けられた。
勿論、歓迎なんてされていない。簡単に言えば厄介者を囲う非行集団。神霊庁が僕らを受け入れた大きな理由に、伊東さんの存在がある。
巨額のお金を神霊庁へ献金している会社の息子さんってのもあるけど、なんせそのお父さん――つまり社長がその厄介者の味方をし始めた。
そうなれば黙るしかないのが神霊庁。ダメだとは言わないけれど、白い目で見られているのは確かなんだよね。
洋斗さんは洋の血縁者だとわかって信頼が地の底に落ちているし、樺恋ちゃんの一件を話したら悲鳴が上がったしね。
僕が怖かったのはコレだよ。47都道府県から1人だけ参加していたとしても、46人の敵が居るんだよ。
質問や罵倒に近い言葉が投げかけられるんだ、僕のハートは壊れちゃうよ。
質疑応答も止まらないし……会議アプリがランダムに質問者を指名していくと、京都支部に当たる。
うわぁ……すごい嫌な予感がする。
『京都支部の我々差し置いて"新撰組"を名乗るとは……礼儀ちゅうもんがなってまへんなぁ』
物腰柔らか、穏やかではんなりした女性の声。でも言ってることはチクチクの棘。
「そ、それは! 集まった隊士……じゃない、職員の苗字がたまたま新撰組と同じだったからで。京都支部の方を不快にさせるつもりは全くないんですよ!」
『そうですか。そやけどな、うちの隊士は黙ってへんのよ。せめて挨拶しに来てくれてもええ思うんけどなぁ。まあ東北はえらい遠いし、京都は来られへんもんねぇ。無理言いましたな』
あぁ……すごい嫌味っぽい……。穏やかに流れる川かと思ったら、目の前滝壺でした! みたいな嫌味。
確かに京都は遠いけど、交通手段が多いからそんなに時間はかからない。
気遣うふりをしてバカにされたのが悔しい。
頭に来て退室しちゃおうかと思って、マウスのカーソルを退室ボタンに合わせた。押す勇気はないけどね。
『随分へこへこした近藤はんやわ。近藤は近藤でも、どえらい違くてびっくりしましたわ。あぁ、失礼。人それぞれ……やねぇ』
京都支部の人、すごい追い打ちをかけて来る。名前を聞いても名乗らないし、どんな顔か見てやりたいよ。
近藤なんてその辺にゴロゴロいるじゃんか。
直接文句を言ってやりたいと思ったら、僕に名案が降りて来る。
丁度数日後に洋の誕生日と合わせて京都へ行くんだし、ついでに挨拶しちゃえばいいんじゃ?
皆で行けば様になって、京都支部を言い負かせるんじゃ?
そうしよう。そうする。
『来れるのやったらいつでもええですけどね。おっと、また無理な事を……』
「なら11月11日に伺いますから。全員で」
『随分急やねぇ』
「いつでもいいも言われたので! じゃ、そういう事で! ありがとうございましたッ!」
これ以上は血管かぶつぶつ切れていきそう。他に質問者が居たけれど、僕は耐え切れず会議から逃げ出した。
目の前のペットボトルに入った水を容器を潰しながら一気飲み。それだけじゃ足りなくて台所へ向かい、飲み物だけがストックされた冷蔵庫から水を数本取り出す。
「晴太くん、なんか汗やばいんだけど……」
「うん、そう」
洋がキッチンの影に隠れるようにして、庶民にはお高いリッチなアイスを食べていた。
僕は会議の緊張から解かれたものの、ストレスやイライラが溜まりまくっている。洋へ感情ぶつけないようにするので精一杯。
僕には珍しく、適当に返事を返してキッチンから離れた。
自室の引戸を足で締めて、持って来たペットボトルを一気飲み。
やる事は沢山ある。報告書、始末書、宇吉さんの推薦状。事務仕事がストレスを倍増させる。
ベッドに身を投げて、枕に顔を埋めて思い切り叫んだ。
一頻り叫び、満足してから顔を上げる。仰向けに体制を変えると、ヌッと黄色い目が僕を見下ろした。
「大丈夫?」
「びっくりした! ……洋? なんで部屋にいるのさ」
「開いてたよ」
足で締めたから施錠の事なんて気にしてなかったや。僕は起き上がり、リモート会議のためだけに着たスーツのジャケットとネクタイを解いて投げ捨てた。
洋は正座を崩して座り、べっとの縁に両手を組むようにして顎を置いて話す。
珍しいなぁと思っても、イライラが勝ってときめいたり出来なかった。
「素っ気なかったから。なんか嫌な事あったのかなと思って」
「心配してくれてるの?」
「一応……一緒に住んでるし、いろいろやってもらってるし……」
口を尖らせて、ちょっと照れくさそう。会議に参加する事は知っていたから、そこで何かあったのだろうと察してくれたのかな。
会議で嫌味を言われてねと軽く笑って言うと、洋は口元を隠して目だけを動かす。
「もしかしてアタシのせい?」
「何度も言うけど、洋は悪くないよ。好きで呪われてる訳じゃないんだし、それをどうにかしようとしない神霊庁が嫌な所なだけ。今回の嫌味は……」
「何?」
京都的な? と言いかけたけど、これって偏見にならないだろうか。言葉を選ぼうにも京都っぽい嫌味だったとしか言えないや。オブラートにも包めないし。
そういえば、勢いで洋の誕生日に京都支部に挨拶へ行くと言っちゃった。
その経緯を洋に説明した。洋は「なぁに私の誕生日に面倒な事してんだ!」と噴火するかと思ったけれど、表情は変えずに聞いているだけ。
「お、怒らないのかい?」
思わず聞いてしまった。だって洋らしくないんだもん。洋は体を起こして腕を組み、鼻で息を吐いた。
「ボコりに行くか、京都支部」
「ボコ……ボコる!?」
てっきり言葉だけかと思いきや、左手の掌に拳をパチンと合わせ、挑戦的な顔でニヤリと笑う。
やめてよ、洋。そんな顔で京都に行って喧嘩でもしたら、いよいよ僕の胃が壊れちゃうよ。




