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【短編エッセイ】都合のいい関係

作者: 青いひつじ




今、私の目の前にビニールの袋が落ちている。コンビニの袋くらいの大きさで、それほど汚れてはいない。捨てられホヤホヤだと推測する。


こういった場面に遭遇した時、私は神様に試されている気がしてならない。

あなたはこのゴミを拾いますか?と問われているような気がする。今私の立っている場所にゴミ箱はないので、拾えば家まで持ち帰ることになる。

このように目に留まったゴミを拾うことを私は"徳貯金"と呼んでいる。そして時々気まぐれで実行するのだが、通帳があるわけではないので、どれくらい徳が貯まっているかは分からない。5年以上継続しているので、結構貯まっていていないと割に合わないと思う。

貯まった徳は人生の運として還元されるシステムである。これはあくまでも私の中での設定。



このように徳貯金に関しての色々は、自分の中で消化する他ない。

例えば、金額の設定。ゴミが全て一律の金額とは考えづらい。

人通りの多い道端のビニール袋とマンションのエントランスに落ちているチラシだったら、前者の方がハードルが高いように思える。すなわち貯金額で考えた場合、前者の方が高額になる可能性が高い。なので躊躇するような状況であればあるほど、すすんで拾うように私は努めている。


しかし今回ばかりは少し状況が違う。

私が今足を踏み出したのは渋谷の交差点。信号が青になった瞬間、対岸に止まっていた大勢の人々が堰を切ったように溢れ出してこちらに向かってくる。この状況で横断歩道の真ん中に落ちているゴミを拾うのはなかなか勇気のいるものである。いい人アピールかよと思われるかもしれない。汚いと思われるかも。または単純に変な人だと軽蔑されるかもしれない。ゴミを拾って軽蔑されるのもおかしな話だが。


と、あれこれ悩んでいるうちに、ビニール袋は風に飛ばされ、別の誰かの元へと向かってしまうがいつものパターン。

逃した徳に、私は小さく後悔する。やはり神は私を試していたのか。恥ずかしさなど捨て、堂々と拾えばよかったと。


この話を夫にすると、妻が変な宗教に入れ込んでいるのでは、あるいは今から勧誘されるのではないかと表情を曇らせるのだが、その心配はない。

むしろ私は非常に軽薄で、うつろいやすい人間である。

特定のなにかを信仰していないし、かといって無神論者というわけでもない。

都合のいい時だけ、都合のいい神を状況に応じて浮上させることにしている。

この状態が私にとっては1番健全なのだ。


7月、ショッピングモールの笹にぶら下がる短冊を見れば、

「願っているようじゃ叶わないでしょ、自分で掴み取らないと」と、熱血系の誰かが顔を出す。神社の絵馬でも似たような現象が起こる。参拝で言うことは「今年もありがとうございました」だけと決めている。いきなり訪ねて来た人に重たい頼み事をされても、神様も困るだろう。


一方、車通りの少ない道で赤信号を待っている時は、脳裏に神様の存在が浮かび上がる。これを渡れば今まで積み上げてきた神様との信頼が崩れるのではないか、と。


こうしてみると、私が自身の湧き上がる欲望を制御するために神様を利用していることが分かる。

それと同時に、私という存在は神様にとっても都合がいい人間なのではと考えた。


ある時は神様を信じてゴミを拾い、ルールも基本的には守る。ゴミ拾いの代償として徳という見返りは求めてくるものの、5円を差し出し「良いご縁をください」なんて親父ギャグみたいなことは言わないし、「億万長者にしてください」「アイドルと結婚したい」なんて無理難題を言うこともない。


時々少額の小遣いを与えるくらいで喜んでルールを守ってくれるなら、これ以上楽なことはない。


私も神様にとって都合のいい存在ということか。

だとすると、私と神はお互いに都合のいい関係を保っていることになる。




夜18時。もうすっかり秋の匂いである。

マンションのエントランスに入ると、床に落ちた水道工事の広告のマグネットが視界に入り、それを拾った。


私は「マンションのエントランスは少額なんだよな」と心の中で呟いて、インターホンの横に設置されたゴミ箱に投げ捨てた。






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