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バグ  作者: 雲崎友来
11/15

バグ⑪山口と小田


土曜日の午後一番。


小田の病院に、過去一番緊張して行ったのは山口だった。

あの日以来、初めて会う。昨日は体調が悪くなり、小林ともう一人女子が会えなかったと聞いたので、自分もダメかもしれないと半ばあきらめていた。遠藤とコガワさんが行った時は急に顔色が悪くなったらしい。そういう時はさっさと帰るように小林に言われていた。彼女も今日来る予定だったが、どうしても抜けられない用事があって、一人で行くように言われたのだった。

「あんまり人数が多いと負担がかかるし、女子が行くと気を使うかもしれないから、山口だけならいいと思う。いい?一人で行くのよ。あんまり安定してないから。」

やたら一人を強調されたが、とりあえず分かったと返事をした。


一人で病院に行くのは少し気まずかったが、到着して、病室を開けたとき、その気持ちは霧散した。

「失礼しまーす。」

「んが、おう、もぐもぐ、久しぶり、山口。」

頭と首にも包帯を巻いた小田が、昼食を口に運んでいた。いつも通りの穏やかな顔に、急に普段の調子に戻った気がした。

「ごめん…ごめんな!小田!」

「えっ!?どうした山口?」

ずっと引っかかっていた。あの時急に走り出してしまったのは、もしかしたら急ぎの用でもあったのかもしれない、と。山口がコガワと帰りたいがために小田をダシにした結果、走り出してしまったのではないか、と。もしかしたら小田がケガをしたのは自分のせいなのかもしれない。

「ちょっと待て山口、お前そんなことずっと心配してたのかよ?全然違うから安心しとけよ。」

苦笑いの小田は、食事の手を止めて山口を見ていた。


「コガワさんも、心配しているみたいだった。お見舞いに来ただろ?」

「えっと、来てた、みたい?だな。」

そう言いつつ、小田はあらぬ方向を向いてしまった。少し汗を搔いていた。

「来てた、みたいって、お前なあ。」

そういえば小田は、クラスの女子の名前はまだ半分も覚えていないと言っていた。それはそれで山口にとってはありがたいことだが、お見舞いに来てくれた女子のことはさすがに認知するだろう。これがきっかけでもしも小田が、彼女を好きになったとしたら。


そうなったら、応援したい。これは全く嘘偽りない気持ちだった。

だから。

「あのさ、小田、俺に、気とか使わなくていいからな。」

「気?」

何のことかさっぱり見当もつかないという顔で、小首を傾げた。

「気、なんて一ミリも使ってないけど。」

「いや、俺に気を使って、コガワさんに話しかけづらいとかだったら、嫌だし。」

「は。」

その時の小田は必死だった。

「ないないないない、それはない、一番ない。どう考えてもあり得ない。」

「コガワさんのことなんとも思ってないの?」

「あり得ないね。俺は、遠藤とお前のどっちが告るか、高みの見物してるわ、俺は。」

全く何もわかってないくせに、たぶん部外者という意味で使っているだろうに。確かに、お前は高みの見物だよ。山口は思わず脱力してしまった。


「第一俺は、コガワ、さんって苦手なんだよ。得体のしれない感じが怖い。」

「お前が苦手とかって珍しいな。」

「ああ、だから、頼みがあるんだけど、二人きりとかマジでやめてほしい。ホントに苦手だから、怖いから、マジでやめてくれ!」

思いっきり左手で腕を掴まれて、半泣きで言われてしまえば了承せざるを得ない。

「わっ。わかったって。あー、だからお前ってコガワさんに対してぎこちないの?なんだ、苦手だったのかよ。」

「うん、そう、まあ怖いし、気味が悪い。」

すっかり肩を落とした小田が、力なくぼそりと言ってから、何かに気が付いたようにはっと顔をあげた。

「あ、悪い、今のは忘れてくれ。ごめんな。」

「え?」

「好きなやつのことそんなふうに言われたら嫌だよな、ほんとごめん。俺考えなしだった。」

真剣な眼差しで、まじめに謝罪している小田を見ていて、ふと思ったことがあった。

『もし、小田がコガワさんのことを好きでも、あいつはお人よしだから、きっと誰にも言わずになかったことにしそうだな。』

遠藤と話したことがあった。それがもし、逆だったら?

「もしかしてお前があの時、走って行ったのって、コガワさんがいたから?」

「あ、いやその。」

しどろもどろでさ迷う視線に、上手い言い訳を考えているのが丸わかりだった。

「おい、小田。」

少し強い口調で小田を見た。彼の肩がびくりと跳ねた。

「苦手なら苦手でいいじゃないか。よけーな気、使わないでいいって。何かに悩んていたとか、コガワさんと何かあった、とか。相談するにしても気を使ってたらできないだろ?俺に気を使わなくていいから言ってみろよ!全く一人でため込みやがって」


「あはははは、山口、ありがとう。」

張りつめていた何かが無くなったのか、小田は今まで手一番穏やかな顔をしていた。

「おい笑うなよ、俺は大事な話をしてたんだからな。」

「うん、すっげー心が軽くなった。」

そう言いながら、んーと伸びをしてベッドに横になった。

「一人で悩むのってよくないな。俺って、本当にバカだよな。」

その時カーテンの隙間から小田の母親が顔を出した。

「天、ちょっといい?先生がお見えになったわ。」

「あ、すいません、俺、今帰ります。」

山口は立ち上がって、小田の顔を覗き込んだ。

「じゃあな小田、また来るから。」

「山口、ありがとな、決心ついた。」

決心?そう思ったがごめんなさいね、山口君、と母親に言われてしまったので、また来ます、とドアのほうへ向かって行った。途中で白衣を着た若い先生とすれ違った。

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