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ギャグ短編

九尾「尻尾を切除しようと思ってるんじゃが」

作者: 頭いたお
掲載日:2025/06/23

「今日は美容外科に行ってな、この尻尾をぜんぶ切ってくるのじゃ!」



 九尾のタマモは、満面の笑みでそう語った。

 切除されるという金色の尻尾は、嬉しそうにふわふわと揺れていた。




 ――親友が、狂った。

 この爆弾発言を聞いた狸娘、ポン子はそう確信した。


 しっぽを、切る? 常軌を逸した発言を、飲み込めなかった。

 九本の美しき金色は、やはり楽しそうに揺れている。これを――切る?



「あ、そろそろ時間じゃ! それでは行くとするかの! また明日な、ポン――」



 ポン子は、友の腰をがっちりと掴んだ。

 万力を込めて、掴んだ。決して行かせまいと。


 タマモは全てを察した。

 九本の尾に埋もれ、幸せそうにしていたポン子の姿を、思い出していた。


 それでも、タマモの決意は変わらぬ。

 予約時間まで、あと一時間。

 早く行かねばならぬ。――何を犠牲にしても。




「ワシは行く。尾を、切る」



 何故。ポン子は問う。

 邪魔が故。タマモは応じる。



 一層の力が込められる、ポン子の腕。

 腰がギリギリと痛む。たまらず足で蹴る。ポン子は怯まぬ。

 もう一度、力強く蹴る。ポン子は決して――怯まない。




「――離せポン子ぉおおぉワシは行くうううぅぅ!」


「行かないでタマモちゃぁぁああんんっ!!」


「切るんじゃああああこのクソ邪魔な尻尾全部切るんじゃあああ!!」


「切っちゃ嫌あぁあぁあぁぁ! 絶対イヤアああああ!!」


「ぐああああああああああああ!!?」



 引きずり倒される九尾。

 そこから狸が、己が身体に回転を加える。

 ポン子必殺。タヌキ・デスロール――。



「ぐあああああああああああやめろポン子おおおおおぉぉぉ!」


「絶対やめないタマモちゃあぁぁあぁぁああん!!」



 止まらぬ高速回転。餌食となるタマモ。

 ビタンビタンと身体を床にぶつけ続ける無間地獄。

 背面は尻尾がクッションとなるが、正面へ蓄積されるダメージは計り知れない。



「あがががががががああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛゛!!?!?」


「タマモちゃああああああああああぁぁぁぁぁん!!!!」







* * * * *








「――落ち着いて話し合わんかポン子……」


「そうだねタマモちゃん……」



 タマモ渾身のタップにより、とうとう死の回転は止まった。

 吹き出す鼻血を抑えながら、決意に至った理由を語り出す。



「至極単純な理由なんじゃ。生活をする上でとにかく邪魔なんじゃよ、これ……」


「確かに重そうに見えるけども……」


「そう! 純粋に重いんじゃ! 一本一本がデカいのに、それが九本!!」


「でもそれが妖怪としての迫力に……」


「迫力より生活じゃ!! 毎日腰が痛いんじゃ!! 痛すぎるんじゃあ……!」



 悲痛な叫びであった。

 自分の一部を切除するという決断。軽い訳が無いのである。

 日々苦痛に喘ぎ、耐え、そうして迎えた限界であったのだ。


 ポン子とて、気持ちが分からぬ訳ではなかった。

 一本のおおきな尻尾が、悲しげに揺れた。



「ボクも気持ちは分かるよ……。実は同じ悩みを抱えてて……」


「そうじゃろ!? そうじゃろ!? でかい尻尾って大変じゃろ!?」


「ボクも爆乳(Kカップ)のせいで毎日肩が凝ってて……」


「そっちかよ」


「でもさ……ボクがこのデカパイ(Kカップ)を切除するっていったら……タマモちゃんだって悲しいでしょ?」


「なにひとつ悲しくねえ」


「タマモちゃんのふさふさ尻尾はボクの豊乳(Kカップ)とおんなじ大切な宝物! 捨てるだなんてもったいなさすぎるよ!?」


「殴りたくなってきたなこいつ」


「あ、触っていいよ!? 好きに触って!? タマモちゃんおっぱい無いし――」



 タマモ本気の鉄拳が、ポン子のパイオツにめり込んだ。

 ぐげえと倒れ伏す狸。隙ありと、医院へ向かわんとする狐。

 しかしKカップは伊達ではない。鉄拳の衝撃を吸収――ポン子の手は彼女の足首をギリギリで掴む。



「ぐあああああああ離せポン子おおおおおおおお!!!!」


「タマモちゃあああああああああぁぁあん!!!!」



 そのままタマモを倒し、回転。

 必殺奥義。タヌキ・デスロール。



 ……否。今度は逆回転。名付けるならば、そう。

 裏奥義。タヌキ・デスロール・リバース――。



「ごごごががががががあああ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?!?」


「タマモちゃああああああああああああああああん!!!!」



 破壊されし平衡感覚。

 上のお口から飲んだお茶が、上のお口から出てきそうなタマモ。

 ポン子の鍛え抜かれし三半規管の前に、なすすべなく再度のタップ――。






* * * * * 





「――ひとまずそれ禁じ手にせんか……?」


「タヌキ・デスロールの事? それともタヌキ・デスロール・リバースの事?」


「どっちも……」




 鼻血と共にゲボ(緑茶・羊羹・煎餅)まで吹き出し、尊厳を破壊されし大妖怪。

 親友の執念を前に、さしもの九尾とて怯まざるを得ない。九本の尾は微かに震えた。対してポン子の双球はどたぷんっ❤どたぷんっ❤と揺れる。



「突然エロ漫画みてえな表現ぶっこんでくるんじゃねえ」


「それより尻尾切らないでよタマモちゃん……っ。ボク、それ大好きなんだから……!」


「そうは言うがな……。座るだけでも大変なんじゃぞ……」


「え、でも普通に座れてるよね……? ケツ穴から尻尾が生えてる訳じゃないんだから……」


「ケツ穴とか言うな下品じゃろ」


「アナルから尻尾が生えてる訳じゃないんだから……」


「より下品にすんな」



 「本当に後者の方が下品なんだろうか」

 ポン子は疑問に思うが、この際どうでもいい。捨て置いた。



「正座や胡座は別に構わぬ。しかし背もたれ付きの椅子がな……。座れんのじゃよ……」


「そんな洒落臭いものに座らなくたっていいじゃん!? タマモちゃんはずっと正座してればいいんだから!!」


「ワシなんか悪い事したんかよ……」



 のたまうポン子に、彼女は指さして見せた。

 その先には、大きな椅子。

 マッサージチェアである。



「腰が本当に痛うてのう……。たまらずにこいつを買ったんじゃが、座れんかった……」


「クーリングオフ制度っていうのがあって……」


「あれは訪問販売にしか使えん技で……。というかそういう問題じゃないわ! 生活が大幅に制限されとる言うとんじゃ!!」


「確かにボクも生まれつきの爆乳のせいで生活が……」


「もう一度乳の話したらマジで殺すからな」


「はい」



 このご時世、こういう話はよくない事だ。

 そう諭すタマモの顔は、確実に憎しみに満ちていた。

 胸部へのコンプレックスは最早明白である。



「おぬしがワシの尻尾を好きなのは知っておる……。だがな、親友だからこそ受け入れてはくれぬか……?」


「親友だからこそ止めなきゃいけない事ってあるじゃん! 自分の身体を切っちゃうって、大変な事なんだよ!?」


「しかし腰痛がどうしてもな……」


「マ、マッサージ! ボクが毎日、マッサージしてあげるからっ!」


「按摩はもう頼んどるが……。結局、この元凶がなくならん限り意味ないじゃろうて……」


「……っボクの爆乳揉みしだいていいから! 癒しで痛みもブッ飛ぶからッッッ!!」



 タマモ渾身の鉄山靠(てつざんこう)が爆乳を襲う。Kカップですら衝撃は止められぬ。

 臓腑への深刻なダメージ。ぐげえと血を吐きながら倒れ伏すポン子。

 過去、この技ひとつで日ノ本を掌中に収めし奥義である。勝負は決したかに思われた。




 ――それでもポン子の手は、タマモの足をしかと掴んでいた。




「!! 禁じ手! 禁じ手!」 


「タマモちゃあああああああああああああああん!!!!」


「っっっああああああああああああああ!!?!?」



 倒す。そして回転。ポン子は約束を破ったのか?

 否。ただの回転ではない。そこに加わるは……推進力。


 障子を破り、壁を壊し、柱を倒し、なおも止まらぬ狸の螺旋。

 秘奥義。タヌキ・デススパイラル――。




「ぐぎゃあああああ゛あ゛ああ゛あ゛ああ゛あ゛゛ポン子おお゛お゛おっ゛お゛おお゛おお゛゛!!!!!11」


「タマモちゃあああああああああぁぁぁあん!!!!!111」



 全ては、親友を止める為。

 ポン子は鬼と化すのだ――。





* * * * * *





「――だからそれ禁じ手じゃろ……?」


「デスロールはワニをコンセプトにした技だけど、デススパイラルはライフル銃のコンセプチュアル・アーツだから……」


「現代アーティストか何か……?」



 屋敷を半壊させ、ようやく止まったスパイラル。

 恐ろしき威力である。己が鉄山靠では最早太刀打ち出来ぬ事を、タマモは悟った。


 タマモは考える。

 これを続けていれば、ポン子は戦いの中で一層の進化を遂げ、誰にも止められなくなるであろう。そうなってしまえば、尻尾がポン子の管理下におかれた恐怖親交が始まってしまう。

 彼女のまるくてきれいな瞳が、タマモにとっては戦慄の対象となりつつあった。


 力では駄目だ。

 知恵だ。知恵で上回らなければならぬ。

 屁理屈でこいつを圧倒し、なんとかしなければならぬ――。



「……のうポン子。さっきおぬしは言ったのう、尻尾と乳は同じぐらい大切なものと……」


「うん」


「もしおぬしの乳をワシにくれるというのなら。この尻尾は切らないでおいてやる」


「え!?」


「要はバランスじゃな。背面と正面の重量バランスさえ均衡すれば、ワシのクオリティ・オブ・ライフは向上する……」



 タマモは見逃さなかった。ポン子の、乳房への自尊心を。

 乳を引き換えにした上、でまかせのバランス論を用いて正論をも装う策。

 これならばポン子もきっと諦める。そう考えたのだが。



「わかった! あげる!!」



 快諾。

 あれほど爆乳爆乳のたまっていた彼女であったが、こうもあっさりと。

 予想外の態度に、窮する九尾(韻を踏んでいる)。

 が、仮にも海千山千の大妖怪。機転が閃く。



 ……そもそも、他人の乳をそのまま移植するなど聞いた事がない。

 というか、やる技術的メリットなどなにひとつない。

 そんな施術、行う医者など居ようはずもない。



「よし! では先生に、乳の移植をお願いしてこようぞ!!」


「うん!!」



 かくして、自然と医院へ足を運ぶ理由まで作った。これぞ策士。

 美容外科まで辿り着けば、あとはどうにでもなる。

 タマモの勝利は間近であった――。






* * * * * *






「――はい、できますよ」


「できるんかい」



 即答であった。

 術式の説明をされる両者。乳の移植が間近に迫る。



「ま、待ってくれ先生。……できるんか?」


「できます」


「よかったねタマモちゃん!!」


「……」



 よく見たらこの美容外科医。顔面に縫合痕がある。そのうえ髪色が黒白二色である。二頭身の舌っ足らずの助手までいる。明らかに名医の風貌。まずい。

 乳どころか脳まで移植しそうな雰囲気である。



 しかし流石の大妖怪たる九尾。機転は尽きない。

 魅了の術で推定ブラック・ジャックを洗脳――しかる後にポン子に全身麻酔をかけ、尻尾の切除を行えば良い。完璧な策であった。

 思えば原作でもブラック・クイーンとかいうぽっと出の女医に求愛せんとしていた輩だ、恐らく簡単に落ちるだろう。

 狐の目が、怪しく光りだした――。










 ――狸のまるい目も、光った。











「……タマモちゃあああああああああああああああん!!!!11」


「っがあああああああああポン子おおおおぉおおおおおお!!!!?!?」



 陰謀の露見。

 掴まれる足。倒される狐。

 回転。推進。――揚力。



「やめろおおおおおおポンっ子おおごああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛゛ああ゛゛゛ああ゛!!!?!!?」


「タマモちゃああああああああああああああああん!!!!111」



 回転は螺旋となり、螺旋は空へ、高く高く上昇していく。

 幾度も幾度も廻り廻る狸と狐の様相はさながら……輪廻。




 最終奥義。

 タヌキ・デスリインカーネーション――。




「っあ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛ああ゛゛゛ああ゛ああああ゛ああ゛あ゛ああ゛゛゛゛あ゛ああ゛゛!!!!1111」


「タマモっちゃあああああああああああああっっあああああ!!!!!1111」




 全ては友のため。

 鬼はとうとう、修羅となる――。





* * * * *





「――はい、それじゃいきますね」


「お願いしまあす!!」


「…………」



 全壊した医院にて、乳房の移植手術が始まる。

 満身創痍。もはや言葉は出てこない。そもそも集中治療室に運んでほしい。

 されるがままに、脂肪のない胸を晒す。



「後生じゃ、全身麻酔で頼む……」



 薄れゆく意識の中。タマモの目は、ポン子を捉えた。

 己の爆乳との別れ。悲しくはないのだろうか?

 自分であれば、断固として拒絶するのに。ポン子は嫌じゃないのか?

 ポン子は何故、こうもあっさり――。




「ボク達、ようやく繋がれたね……❤」




 ――最初から、全てが墓穴だった。

 ポン子のねっとりとした視線。判明せし邪心。

 腕力、知恵、業、全てで上回られた。



 大妖怪は完全敗北を悟った後、意識を失った――。






* * * * *






 ――確かにバランスがよくなった、ポン子はそう思った。

 後方はふさふさの尻尾。前方はゆさゆさの乳房。

 巷間にて語られる艶めかしき九尾の姿、そのものであった。



 全く同じ事を、タマモも思っていた。

 じっと姿見で己を見続けては、ポーズを取る。

 九尾のイメージに、ようやく似つかわしくなった。



「でっへへへ……」



 施術前の態度とは、まるきり違っていた。

 あれほど嫌がっていたのに、実際に出来上がってみると。

 それはもう。良かった。すごく良かった。良いのである。



 でまかせであった「バランス論」も、あながち誤りではなかった。

 歩行はしやすくなったし、身体への負担も格段に減っていた。

 大分マシになった腰の痛み。それだけでも大満足である。


 満たされた自尊心と、改善した生活。

 タマモは幸せであった。それを見るポン子も幸せであった。



「よかったねタマモちゃあん……❤」



 ポン子の幸せは、邪気に満ちていた。

 己の身体の一部が、今は親友の身体に――。

 そう考えるだけで、狸の脳内では麻薬物質がドバッドバ溢れ出した。

 世界が極彩色に視えていた。



 この淫猥な視線すら、タマモは受け入れ、許した。

 九尾として完成を迎えた自分が、とにかく誇らしかったのだ。

 あれほど尻尾を切ろうとあくせくしていた自分が、おかしくすら思えてきた。

 切らずに良かったと、心の底から思った。



「それでのう、それでのう! 今日は人里まで繰り出そうと思ってのう!!」


「一緒にいこうねタマモちゃっはあん……❤」



 お茶会中のタマモは、別人のごとく明るくなっていた。

 お茶会中のポン子も、別人のごとく明るくなっていた(アッパー系)。



 かくして尻尾切除を巡る事件は、一段落したかに見えたのだが――。






* * * * *






「――この乳、やっぱり返そうと思っての……」


「えッ!!?」



 数ヶ月のち。

 親友の意外な言葉に、ポン子は驚愕した。



「ど、どうしたのタマモちゃん!? ……あ、揉もうか!? おっぱい揉んであげよっか!?」


「近寄んな。……いや、ちょっと憂鬱な事になってのう……」



 九本の金色は、悄然として垂れている。

 威厳ある大妖怪の姿が、幾分と小さく見えた。



 乳とてそうであった。

 あれほどゆさっ❤ゆさっ❤と揺らしていた乳房だったのに。

 ある時ばるんっ❤ばるんっ❤

 またある時はだぱんっ❤だぱんっ❤とご自慢の乳房だったのに。

 どのような気持ちの変化があったというのだろうか。



「そんな淫乱な揺らし方しとらんわ」


「それより本当にどうしちゃったのタマモちゃん!? あんなに気に入ってたのに……!」


「いやな、その……。周囲がな、ワシを馬鹿にしてるようなんじゃ……」


「え……」



 「九尾に突然、乳が生えてきた」

 そんな噂のため、山々の妖怪はこぞってタマモの乳を拝みにきた。

 その度に陰でコソコソと笑っているのを、彼女の地獄耳は逃さなかった。

 流石にデカすぎたのであった。



 最初は怒ったタマモであったが、いずれそれにも疲れた。

 段々と、大きな乳房が恥ずかしいものに思えてきた。

 なにより、乳の大小を気にしていた事の露呈。それが何より恥であった。


 満たしたはずの自尊心は、満たしたが故に傷つけられたのである。

 移植後はあんなに張っていた背筋も、今や猫背。

 完成されたはずの九尾のシルエットは、見る影もない。



「もう全部嫌になってのう……。はあ、アホみたいに喜んどった自分が恥ずかしい……」


「タマモちゃん……」


「身の丈、というものなのかのう……。ワシには、元の身体がお似合いだったんじゃなあ……」


「……そうだね! タマモちゃんに爆乳は似合わない! 全っ然似合わない!! バランスおかしいっていうか、デッサンレベルで変だもん!!」



 普通に腹がたったが、最早殴る気力もない。そもそも勝てない。

 そんな彼女に、ポン子は続けて言う。



「タマモちゃんは、貧相で、まな板で、ちんちくりんで……たくさんの尻尾をふさふさ揺らしてる方が、素敵だもん!」


「……そうじゃろうか」


「うん! そっちの方が品あるもん! ボク、元のタマモちゃんの方が……だいすき!」


「……そうか。…………そうかぁ」


「だいっすきぃ……❤」


「近寄んな」




 二人はこうして、再建途中の医院へと向かい出した。

 乳房はなくなるであろう。尻尾は生活を苦しめるであろう。

 元の木阿弥(Back to Mokuami)である。



「ボクが毎日、腰揉んであげるよ!」


「目付きがいやらしいから嫌じゃ!」


「代わりにおっぱい揉んでいから! 揉みしだいていいから――ッ」




 全ては巡り巡って、元に戻ってしまう訳であったが。

 それもいいかと、タマモの心は不思議と晴れ晴れしていた。




 九本と一本の尾は、今なお仲良く、ふさふさと揺れている。











芥川「――これが『鼻』の前身となった作品でありまして」


漱石「馬鹿野郎」



 先生はかうして僕の未発表小説の存在を揉み消した。巻煙草を吹かしながら、侘しい気持ちで帰つた夜をずつと覚えてゐる。

 今となつては感謝に堪えぬ事とは云え、僕の中に後悔が無いでは無い。事実、タマモとポン子の幻影は、未だ視界の端に現れては神経を悩ましてゐる。……

 (昭和二・四・八)



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