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第10話「新年会と期末試験に怯える部員たち」(2020年1月)

冬休みが終わり、再び新学期が始まった県立東陽大学。窓の外には銀世界が広がり、朝夕の冷え込みは厳しい。部室の暖房はフル稼働し、七人の息で窓ガラスが曇っていた。


「新年あけましておめでとう!ということで、サブカル部新年会、開催!」


佐伯が元気よく宣言すると、皆から「おめでとう!」の声が返ってきた。テーブルには大きなお餅と汁物、各自持ち寄った正月菓子が並んでいる。


「まずは恒例の今年の抱負を一人ずつ言っていこう」佐伯が提案した。「俺からいくと…今年は無事卒業して、出版社に就職すること!」


「就活、どうなってるの?」小野寺が心配そうに尋ねた。


「まあ、それなりに」佐伯が曖昧に笑った。「あと二社、最終面接が残ってる」


「がんばって」高橋が珍しく声援を送った。


「ありがとう」佐伯が感謝した。「高橋はどうだ?抱負は?」


「俺は大学院試験に合格することだな」高橋が眼鏡を直しながら言った。「あとはガンプラコンテストで入賞じゃなく受賞を狙う」


「おお、気合い入ってるね!」小野寺が感心した。「私は…同人誌の部数を増やして、できれば商業誌のイラストの仕事も取りたいな」


「小野寺ちゃん、絵上手いもんね」藤井がうなずいた。「私は今年こそ推しに会うこと!あと、フォロワー1万人突破!」


「SNS、順調なんだね」小野寺が言った。


「松田くんは?」佐伯が振った。


「プログラミングスキル向上」松田は短く答えた。「ゲーム開発したい」


「おお!」佐伯が目を輝かせた。「それはいいな。どんなゲーム?」


「レトロ風アクションRPG」松田が珍しく詳しく答えた。「80年代テイストで」


「松田くんらしい」小野寺が笑った。「中村くんは?」


「私は…」中村が少し考えてから言った。「マンガ研究の論文を学内誌に投稿したいです。あと、自分でも同人誌を作ってみたい」


「おー!」佐伯が拍手した。「それはいいね!何かテーマは?」


「はい」中村がうなずいた。「『教育漫画の歴史と可能性』というテーマで…」


「期待してるよ!」小野寺が励ました。「山田ちゃんは?」


「私は小説投稿サイトのコンテストに応募しようと思っています」山田が静かに答えた。「あとは…もう少し積極的になりたいです」


「山田さん、最近随分積極的になったじゃん」藤井が言った。「入部した頃より、ずっと話すようになったし」


「そう…ですか?」山田が少し照れた様子。


「そうだよ」佐伯もうなずいた。「皆、成長してるよな」


「それもこれも佐伯さんのおかげです」中村が静かに言った。


「いやいや」佐伯が手を振った。「俺は何もしてないよ。皆が自分で頑張ったんだ」


「でも」小野寺が真剣に言った。「佐伯さんがいなかったら、今のサブカル部はなかったと思う」


部室が静かになった。佐伯の卒業が近づいていることを、また全員が感じた瞬間だった。


「あ、そうだ」佐伯が話題を変えるように言った。「冬休み、皆は何してた?」


「私は実家に帰って」小野寺が答えた。「ずっと絵を描いてた。新作の同人誌の下書き終わったよ」


「私も帰省」藤井が言った。「でも途中で東京に戻って、推しのカウントダウンライブに行ったの!」


「松田は?」佐伯が尋ねた。


「家族でスキー」松田が答えた。「あとはゲームプログラミングの勉強」


「高橋は実家?」佐伯が続けた。


「ああ」高橋がうなずいた。「実家でガンプラ製作三昧だった。親が呆れてたよ」


「中村くんと山田さんは?」佐伯が最後に尋ねた。


「私は地元の古本屋でバイトをしていました」中村が言った。「そこで見つけた古い教育漫画が面白くて…」


「私も実家で過ごしました」山田が言った。「創作と、あとは冬アニメのチェック」


「ああ、冬アニメ始まったね!」佐伯が目を輝かせた。「『映像研には手を出すな!』とか『へやキャン△』とか、面白そうなのいっぱいある」


「私は『22/7』が気になります」藤井が言った。「アイドルものの新作だから」


「あ、今期はアニメの話…」高橋がいきなり険しい表情になった。「その前に皆に言っておかなければならないことがある」


部室の空気が変わった。


「どうした?」佐伯が心配そうに尋ねた。


「期末試験まであと3週間だ」高橋が厳粛に言った。「皆、勉強の準備はできているか?」


「うっ」小野寺が苦しそうな声を上げた。「思い出させないでよ…」


「そうだった…」藤井が頭を抱えた。「全然勉強してない…」


「ヤバい…」佐伯もため息をついた。「卒論もまだ終わってないのに…」


「皆さん…」中村が驚いた様子で見回した。「試験対策はまだ…?」


「中村くんは?」小野寺が希望を持って尋ねた。


「私はある程度準備していますが…」中村が控えめに言った。


「流石!」小野寺が感心した。「教育学部だもんね」


「私も一応、計画は立てています」山田も静かに言った。


「松田は?」佐伯が尋ねた。


「プログラミングの実技は自信あり」松田が言った。「座学は…」言葉が途切れた。


「皆、やばいのか」高橋が冷静に言った。「もう試験範囲も発表されてるぞ」


「どうしよう…」小野寺が呟いた。「芸術学科だけど、美術史の試験があるんだよね…」


「私の所は、マーケティング理論がヤバい」藤井が頭を抱えた。


「俺は卒論以外に卒業試験もあるから…」佐伯も暗い顔をした。「文学史は暗記が多くて…」


「こうなったら…」高橋が立ち上がった。「サブカル部緊急企画、試験対策勉強会をしよう」


「え?」全員が驚いた顔で高橋を見た。


「アニメの話をするのはその後だ」高橋が厳しい口調で言った。「まずは皆で勉強する。各自、教科書と参考書を持ってこい」


「なんか高橋、急に先生みたいになってる…」小野寺が小声で言った。


「でも、それいいかも」佐伯が立ち直った様子で言った。「皆で勉強すれば、捗るかもしれない」


「私、文学系なら少しお手伝いできるかも」山田が申し出た。


「私も教育学の勉強法ならアドバイスできます」中村も加わった。


「じゃあ決まりだな!」佐伯が声を上げた。「来週から試験まで、週3回は勉強会をやろう!」


「その代わり、試験終わったら思いっきりアニメ鑑賞会な!」小野寺が条件をつけた。


「もちろん!」佐伯が笑った。「冬アニメマラソンだ!」


「はあ…」藤井がため息をついた。「帰ってノート出してくるよ…」


「俺も教科書取ってくる」松田も立ち上がった。


***


二時間後、部室は勉強モードに変わっていた。テーブルの上には教科書とノート、参考書が山積みになり、お菓子の代わりに消しゴムやペンが散らばっている。


「この公式、どう使うの?」小野寺が高橋に質問していた。


「ここに代入して…」高橋が丁寧に説明する。


「佐伯さん、この文学理論について…」山田が佐伯の卒論を手伝っていた。


「中村くん、この教育心理学の概念…」佐伯が今度は中村に質問していた。


「プログラミング、教えて」藤井が松田の隣に座っていた。


部室は静かな熱気に包まれ、時折誰かの「わかった!」という声や、ページをめくる音だけが聞こえる。


窓の外では雪が静かに降り始めていた。この光景は、いつものアニメやマンガの話で盛り上がる部室とは違うが、七人の真剣な表情には同じ熱量があった。


「あの…」中村が静かに言った。「みんなで勉強するのって、なんだか楽しいですね」


「そうだね」小野寺も笑った。「一人だと絶対サボっちゃうけど」


「これも青春だよな」佐伯がノートから顔を上げて言った。


「まだ感傷に浸るな」高橋が注意した。「次の項目に進むぞ」


「はーい」小野寺が冗談めかして言った。


部室の時計が午後9時を指す頃、七人は疲れた表情ながらも、何かを成し遂げた満足感に包まれていた。


「今日はここまでにしよう」佐伯が伸びをしながら言った。「皆、お疲れ様」


「次はいつにする?」小野寺が尋ねた。


「明後日はどうだ?」高橋が提案した。「各自、必要な教材を持ってくること」


「了解」全員がうなずいた。


「あのさ」藤井が片付けながら言った。「試験終わった後のアニメマラソン、本当にやるよね?約束だよ?」


「もちろん!」佐伯が笑った。「それを励みに頑張ろう!」


「今期注目のアニメは?」小野寺が話題を振った。


「それは勉強終わってからな」高橋が厳しく言った。「今は試験に集中だ」


「分かってるよ〜」小野寺が笑いながら鞄を持った。


七人は静かに部室を後にした。窓の外の雪は積もり始め、キャンパスは白く染まっていた。佐伯は最後に振り返り、消灯スイッチに手をかけた。


試験の不安と、その後に待つ楽しい時間への期待と…そして、自分の卒業が迫っているという寂しさが入り混じる複雑な気持ちで、佐伯は部室のドアを閉めた。


「さあ、試験を乗り越えよう」


部室の明かりが消え、七人はそれぞれの帰路についた。大学生活の冬の試練が、彼らの前に立ちはだかっていた。

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