第2話 1
「金が…ねえ…。」
とても深刻な悩みを親友のソルトに相談した。
目の前でバクバクと飯を食っている大親友に。
「そりゃあお前無職だからな。」
笑いながら飯を食う。
「お前なぁ、こっちは深刻な悩みなんだよ!今日だって何とか飯を食えてるくらいだぞ!」
「お前が馬鹿をしたからいけないんだよ。反省期間中だろ?下手なことしなきゃすぐにまた仕事もらえるさ。」
「んなこと言ったってよぉ。あれは仕方ないだろぉ。」
最近毎晩こうして愚痴っている気がする。
ここは地下休息所。
日中プレイヤーがいる間働いたNPCが夜、休息を取る場所だ。
夜は夜のNPCが働いてくれているのでいわゆる二部制というやつだ。
「なあソルト金貸してくれよぉ。」
「あいにく、俺は金の貸し借りはしない主義なんだ。知ってるだろ?だからこうして酒くらいは奢ってやってるだろ?」
「それは有り難いけどよぉ…。」
テーブルにベターっとうなだれる。
すると一人の男が近づいた来た。
「おうシュガー、お前やっちまったらしいな!まあお前らしいっちゃらしいけどよ。」
「なんだ、デンデンか。」
こいつは田中。俺の幼馴染である。
特に自分で名乗っているわけではないが俺等が付けたニックネームからデンデンで皆認知している。
「昔っからお前は我慢がたりねぇ。すぐにカッとなるからいけねぇんだよ。バーカ!」
酔っているのかゲラゲラと笑いながら絡んでくる。
コイツは酒が入ると別人のように人が変わる。
「お前みたいな酔っ払いに構ってる暇はないんだよ。構ってほしいならシラフの時に来やがれ。」
「俺は酔ってねぇ!」
「酔ってんだよ。お前シラフの時一人称僕じゃねぇか。」
そうなのだ。
コイツは普段自分の事を僕と言い、その小柄な身体と童顔さ故に女の子と間違われることも少なくない。
しかし酒が入るとあたかも大柄な暴れ者の様な性格になる。実際には小柄な童顔僕っ子なので全く怖くない。ただ…。
「酔ってねぇって言ってんだろ?おう、シュガー!表にでろや!今日こそお前に一泡吹かせてやるぜ。」
こんな感じで無駄に喧嘩っ早くなる。
まあ、いつもわかったわかったと適当に流している。
「オラ立てよ!」
デンデンが胸ぐらを掴んできた。
もー、面倒くさい酔っ払いだなぁ。
「わかった、わかったから。」
その時胸元から何かが落ちた。
「あれ?これは…?」
明らかに自分のものではない…ボタン?
「なんだ?これ?」
「マントか何かの留め具…的なやつじゃないか?」
ソルトが手に取り調べる。
「あー、それお前がぶん殴ったやつの着てた服のやつだなぁ。」
デンデンがボケーっとした顔をしながら言う。
「え?お前俺がぶん殴ったやつの事知ってるの?」
「だってお前が追いかけ回してる時何度かすれ違ってるしな。」
「じゃあこれはあのプレイヤーのってことか…。ぶん殴った時に外れて引っかかってたんだな。お前これいる?」
「いらねぇよ。こんなん金にもならんだろぉ。もっと熟練のプレイヤーの持ち物ならなるかもしれないけど。」
「まあそうだよなぁ。ソルト、そのまま捨てちゃって…」
ん?おや?おやおやおや?
「シュガーどうした?」
コイツ何か思い付いたな?そんな顔で俺を見てくる。
そうなのだ。思い付いたのだ。
「ククククク…。フヒヒヒヒヒ…。」
「なんだよ気持ちワリィな。」
「ソルト、デンデン…、明日の夜ちょっと付き合ってくれ。」
「夜?夜は俺等外に出るのは禁止されてるだろ。勘弁してくれよ。」
「そうだよ、俺等まで謹慎になったら洒落にならないよ。」
「大丈夫、顔を隠して近くにいてくれるだけでいい。俺はどうせ謹慎中だしいつ終わるかも分からねぇし。ククククク…。」
またコイツは何をしでかす気だよ。そんな顔してお互いを見るソルトとデンデン。
「よーし!今日は飲むぜぇ!!」
気分が良くなった俺は残りの金を使い切る勢いで飲んでやった。