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第一話 2

「オメェよぉぉぉ!何なんだよその口の利き方はよぉ!」


頭を叩かれながら俺は耐える。


「あぁん…ご飯にお茶…」

「んな事は聞いてねぇんだよ!」


今日はやけに絡んでこられるな。

ゲームが人気になるとこういうプレイヤーが増えて困る。

しかし設定上これ以外のセリフを言うわけにはいかない。


周りの人も横目でこちらを見ながら素通りしていく。


『耐えろよ。』

『我慢だからな、我慢。』


そんな言葉が聞こえてくるようだった。

彼らも持ち場、役割を放棄するわけにはいかない。


「ほんとこのゲームNPCのクオリティ低いよなぁ。」


そう言って一発。


「プレイヤーキルは禁止されてるけどNPCも当然ダメージ無いんだよな?」


そう言って二発目。


「そういやさっき覚えた技試し打ちしてみようかな。」

「おお、いいじゃん!どんな技か見せてくれよ!」


冗談じゃない。

一応こっちだって痛いのだ。


「ちょっと抑えててくれや。」


両腕を壁に押さえつけられる。


やめてくれとその一言を言うこともできない。


「じゃあいくぜぇ。」


あー、めんどくせぇ。


もういいか、元はと言えばこんなセリフを言わせるリーダーのせいじゃないか。

俺はなんにも悪くないじゃないか。


あれ?


俺悪くなくないか?


何で我慢してんの?


そうだよ。悪くないじゃん。

幸いにもプレイヤーはこいつらだけ。


運営の監査にバレなきゃ大丈夫なんじゃ?


次の瞬間、プレイヤーの技が繰り出される。

駆け出しに毛の生えたような技で大した威力はない。


斬りかかってくる剣を足で蹴り上げる。


ガキィン!


「はあ!?」


思わず笑ってしまった。


両腕を振り払い、一直線でプレイヤーに…


「調子に乗んなー!」


ガゴォ!


街に鈍い音が響く。


『えー!?』

『あいつ何やってんの!?』


一瞬、街の時間が止まったようだった。


周りのNPCが凄い顔してこっち見てるなぁ。

でもそんな事より…


「気持ちいぃぃぃ。」


殴られたプレイヤーは何が起こったか分かっていない様子だった。


拳をポキポキ鳴らしながら近づく。


「おい、お前NPCだろ!?何でプレイヤーに攻撃してんだよ!ありえねえだろ!」


「あぁん!?そんなもんもう関係ねぇんだよ、好き勝手殴ってくれやがってよぉ。こちらとりゃ今までのストレスめっちゃ溜まってんだよぉぉ…。」


「いや、それ半分以上俺等のせいじゃない…」


その後の街は悲惨だった。


逃げ惑うプレイヤー。


それを追いかけ回す俺。


「ヒャハハハハ!オラオラ!逃げんなよ!!」

「おわわわわ!悪かったよ!どこまで追いかけてくるんだよ!」

「うるせぇ!待てやコラァ!ヒャハハハハ!!」


なんだろうこの爽快感は。

今まで溜め込んできた物が一体に解き放たれていくようだ。

思わず笑みがこぼれる。


狂気の表情で追いかけ回す俺。

後に街の人間はそう語っていた。


「やべっ!」


勢い余って露店にぶち当たる。

売り物の野菜や果物に押しつぶされた。


「へっ、へへっ!あんまり調子乗るからこうなるんだよ!」


プレイヤーは息を切らしながら笑う。


覆いかぶさる食材の隙間から店主の顔が見える。


あー、これめっちゃキレてるやつだ…。


目が笑っていない。

ただNPCとしての仕事上笑顔でいるだけだ。


『おい、佐藤。てめぇ後で分かってるんだろうな。』

『はい…すみません…。すみません…。』


お互い目線だけで語り合う。


食材をかき分けて起き上がる。

少し先に笑いながらこちらを見ているプレイヤーを発見。


「てめぇら…。」

「やべぇ!逃げろ!」

「逃がすかぁ!!」


街の外れで遂に捕まえることに成功。

ゆっくりと時間をかけて分からせてやる。


そして俺は今までのストレスを全てぶつけてやった。


「おい、わかってんだろうな、絶対運営に報告するんじゃねぇぞ?そしたらどうなるかわかってんだろうな?」


「はい、すみません!もうNPCいじりはやめます!」


そう言って泣きながら去っていくプレイヤー。


あー、スッキリしたぁ。


満面の笑みで自宅まで戻る。


そこには厳しい顔をしたリーダーが待ち構えていた。


「お前に話がある。」


そうですよねぇ。


リーダーを部屋に招き入れ話を聞く。


「お前はなんて事をしてくれたんだ。自分のやった事を分かっているのか?」

「わかってますけど全部あいつらが悪くないっすか?俺もずっと我慢してたし…。」


ドンッ!と机をひと叩き。

普段優しいリーダーの行動とは思えなくビクッと体を震わせる。


「これが俺たちの仕事なんだよ。しかもプレイヤーを追いかけ回しやがって。これが運営に知られたらお前はバグとして消されるかもしれないんだぞ?」

「あ!大丈夫っす!脅しに脅して口封じしときましたから!」

「馬鹿野郎!」


はぁとため息をつくとリーダーは告げる。


「とりあえず噂が広まるかもわからねぇ。お前はしばらく謹慎だ。仕事は与えねぇ。大人しくしてろ。」

「え!休みでいいんすか!やったぁ。」

「何喜んでやがる。当然給料もなしだ。反省しろ!」

「え!?何でですか!給料無いと生活できないじゃないですか!」

「お前が悪いんだろ!じゃあな、話はそれだけだ。とりあえず、しばらく大人しくしとけや。じゃあな。」

「ちょっと!そりゃないっすよ!元はと言えばリーダーが決めた俺のセリフに問題が…!」


バタン!


話を中断するように強く扉が閉められる。


まじかぁ。給料もらえないの?性活どうしたらいいの?


やっちまったぁという後悔とぶん殴ってやった時の爽快感に浸りながらその日は寝ることにした。



第一話


ただのNPCの俺だけど…ある日突然無職になった話

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