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公爵令嬢は今日も筋肉で愛を語る. ~好きって伝えたいだけなのに、破壊オチになる件~  作者: 灰色テッポ


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第十八話 ガールズトーク

「ヘルミンも大変だねぇ、マッドリーみたいなお兄ちゃんがいるとぉー」

「お兄ちゃんとか気持ち悪いから言わないでよ。でもね、何かホンと大変」

「否定してあげないんだぁ」

「無理でしょ……」

「まぁ、病的なシスコンだもんねぇー」


 今日エリスティアがロックス公爵邸を訪問した理由は、公式にはヘルミーネが誘拐事件に巻き込まれた事へのお見舞である。

 エリスティアは事件当日にヘルミーネと会う約束をしていたが、当然ながら白紙となってしまった。


 その日以来なかなか会う事の出来なかった二人は、今日をとても楽しみにしていたのだ。

 それゆえヘルミーネはかなり気合いを入れてエリスティアを持て成す準備をした。彼女の私室には綺麗な花が沢山飾られ、お茶やお菓子も贅沢なものが取り揃えられている。


「このぉフレッシュチーズと木苺のタルト、すっごく美味しいねぇー」

「そうなのよ! こっちのカヌレも食べてみて、私大好きなの」


 二人っきりで気兼ねなくお喋りとお菓子を楽しんでいると、時おり庭から軍団の撤収作業の音が届いてくる。

 その音の中にはマッドリーの声が混じっている事もあり、ヘルミーネはそれを聞く度に唇を尖らせた。


「エリスンはいいよ、まともな兄上で」

「はぁ? グロリエンお兄様がまともぉ? そんなのあり得ないしぃー」

「そうかなあ。子供の頃からグロリエン様の事は知っているけど、異常なところとか無かったよ?」

「異常が無いからまともとかぁ、その発想がすでにヤバいんですけどぉ……」

「えっ! そうなの?」

「てかぁヘルミン知らないのぉ? 子供の頃のお兄様の口癖はぁ、『ハハハ、人間などゴミと同じだな』だよぉー」

「うそっ! じゃあ私のこともゴミだと思ってたのかな!?」

「まさかぁ、ヘルミンのことをぉゴミだなんて思うわけ無いよぉー」

「そ、そうだよね。良かった……」

「だってぇヘルミンはぁ、お兄様のサンドバッグだもんねぇー」

「もっと悪いじゃないっ!」

「そっかなぁ?」

「そうだよ! というかサンドバッグにしてやってたのはこっちだしっ!」


 そう言うとヘルミーネはシャドーボクシングを始めて、鋭いパンチと見事なフットワークをエリスティアに披露した。

 もっともエリスティアはそんなの無視して、次に食べる菓子を物色していたが。


「そういえばぁ、お兄様がヘルミンとぉまた勝負したいって言ってたよぉー」

「シュッシュッ! えっ、本当に?」


 ヘルミーネはシャドーボクシングをしていた手を止めてエリスティアへと振り返ると、パッと明るい顔をしたようだ。


「へぇー、ヘルミン嬉しいんだぁ」

「う、嬉しくなんかないよ!」

「ねぇヘルミン知ってるぅ?」

「何を?」

「犬ってぇ嬉しいとぉ、おしっこ漏らしちゃうんだってぇー」

「……そ、それが何よ」

「クンクンクン」

「ちょっ!? 匂いを嗅ぐのやめてッ!」


 エリスティアは本気で慌てているヘルミーネの反応を見て、鈴を転がすように笑った。

 彼女にとってヘルミーネとグロリエンは、実にからかい甲斐のある二人である。からかわれる方としては迷惑な話だが、ヘルミーネはそれを憎く思った事が不思議と一度もない。


「それにしてもグロリエン様は、何であんなに私と勝負をしたがるのかなあ? エリスンは何でだか分かる?」

「もちろん分かるよぉー」

「えっ、ほんとに!?」


 正直ヘルミーネはエリスティアの答えに期待をしていなかった。

 自分とグロリエンの勝負の事なんか興味がないと思っていたからだ。


「エリスンには分かるのっ!?」

「うん。てかぁ、ヘルミンは何で分からないのぉ? そっちの方が謎すぎるぅー」

「だ、だってグロリエン様に聞いても答えてくれないし……」

「全然分からないのぉ? それともヘルミンは鈍感系女子なのぉ?」

「ど、鈍感系女子とかやめてよ! それに全然ってワケじゃないわ」

「ふーん。なら言ってみてぇ」

「自意識過剰だって笑わない?」

「笑わないよぉー」

「えっとね。多分だけど、グロリエン様は私と勝負するのが楽しいんだと思うの」

「どうしてぇそう思うのぉ?」

「だって、何か幸せそうだから……」


 そう答えたヘルミーネに、エリスティアは何も言わなかった。べつに意地悪でそうしたワケではなく、ヘルミーネが言った事の意味を少し考えていたからだ。

 だがヘルミーネにしてみれば、結構勇気を出して言った事なのでエリスティアの沈黙は少々ツラい。


「な、何か言ってよエリスン!」


 エリスティアには想像がついていた。おそらくグロリエンはヘルミーネとの勝負に勝つ事で、彼の愛を伝えようとしているのだろうと。

 奇妙な求愛行為ではあるが、それをとやかく言うつもりは元々ない。


 むしろヘルミーネがその求愛行為をどう受け止めているかの方が、エリスティアには気になった。

 グロリエンが幸せそうだと感じたヘルミーネは、なぜグロリエンが幸せそうなのかまでは分かっていない様に見えたのだ。

 

「ねぇヘルミン」

「な、何っ?」

「もしさぁ、自分の加護とぉコルセットのどちらか一つを世界から消さないといけなくなったらぁ、ヘルミンはどっちを選ぶぅ?」

「コルセットってあのコルセット?」

「そだよぉ、美容の為の拷問器具ぅ」

「うーん、確かにあの拷問からの解放は魅力的だけど、選ぶなら自分の加護かなあ」

「へぇ、どうしてぇ?」

「だって筋力強化の加護って無くても困らないでしょ。でもコルセットは綺麗って思って貰えるものだから、無くなって欲しくないというか。私的にはそっちの方が重要だし、そういう気持ちは大切かなって……」


 ヘルミーネは密かにグロリエンの事を思い浮かべながらそう説明した。

 モジモジとし歯切れ悪く話しているのは、やはり本音を話すのが恥ずかしかったからだろう。


「ヘルミンは乙女だねぇ。じゃあ古今無双の公爵令嬢でなくなっても平気ぃ? もうお兄様と勝負できなくなるかもだよぉ?」

「た、確かに……。でもべつにいいかなあ」

「どうしてぇ?」

「だって、勝負以外のことでもきっと楽しい事は一杯あると思うから。幸せのカタチってさあ、一つじゃないと思うんだ」


 ヘルミーネの言った事は、好きな人を想っていう言葉だ。その人といれば、それだけで幸せだと思える気持ちが表れている。

 エリスティアは心の中で「なーんだぁ」と呟くと、ヘルミーネはちゃんと分かっているのだなと安堵した。


 今はまだヘルミーネにその自覚があって言った言葉ではないだろう。だがそれが無自覚だとしても、ヘルミーネにはグロリエンの愛情が、ちゃんと伝わっているのに違いない。

 二人にとっての勝負とは、もはやデートと同じものなのだなとエリスティアは思った。


「そっかぁ、じゃあヘルミンはきっとぉ大丈夫だねぇー」

「何が大丈夫なの?」


 エリスティアはヘルミーネの問には答えずに、ベッドにボフッと飛び込んだ。


「何かぁ眠くなってきたぁー」

「もう! 私に答えさせるばかりで、エリスンは何も答えてくれてないじゃん!」


 ヘルミーネは少し拗ねた顔をして「エリスンのケチンボ」と文句を言う。

 それに対してエリスティアは、枕に顔を埋めながら「ところでぇ」と話をはぐらかす。


「ヘルミンにとってぇ、勝負以外の楽しい事ってなあにぃ?」

「え? えっと、それは……乙女っぽい事かな?」

「具体的にはぁ?」

「具体的には……えっと、うんと……」


 だが、いくら考えてもヘルミーネは何も思いつかなかったようだ。来る日も来る日も、グロリエンと会うのは勝負の時ばかり。もちろん二人がする事といえば戦う事だけだった。

 拳で語り合う友情なんてモノもこの世に存在するらしいが、そもそもヘルミーネはそんなモノは求めていないのだ。

 

「どうしよう。私、乙女失格かも……」

「なんでぇ?」

「だって、乙女っぽい事が何も浮かんでこないんだもん!」


 エリスティアはもうその発想自体が乙女だろうと突っ込みたかったが、ここはあえて水を差さずにヘルミーネの話に乗る事にした。


「てかぁ、乙女っぽいってどんな事ぉ?」

「拳で語り合う必要のない事だよ!」

「いゃ意味わかんないしぃ」

「だから、普通の貴族令嬢がするみたいな」

「えっとぉ、観劇とかぁピクニックとかぁ、あと舞踏会みたいな事ぉ?」

「そ、それっ! それよっ!」

「ふーん。ヘルミンはぁ、そういうのをお兄様としたいんだぁ」

「ちょまっ!? ど、どうしてグロリエン様とする話になってるのよっ!」

「えぇーっ? さっきそういう話をしてたのはぁ、ヘルミンじゃんかぁー」

「ち、違っ! あれは勝負以外って話で、グロリエン様のことってワケじゃないの!」


 しどろもどろに言い訳をするヘルミーネを見て、エリスティアは吹き出しそうになる。

 本気で誤魔化そうとしている彼女が面白くて仕方がないのだ。だからエリスティアはわざと話を合わせる事にした。


「じゃあヘルミンはぁ、その乙女っぽい事を誰としたいのぉ?」

「だ、誰とおっ!? そ、それは……エリスンにも秘密だよっ!」

「ふーん。じゃあその秘密の誰かさんを、自分からデートに誘ってみたらぁ?」

「そ、そんな事したら、はしたない女と思われちゃうよっ!」

「ヘルミン時代遅れ過ぎぃ、今時の乙女はぁみんなやってる事だよぉー」

「そ、そうなのっ!?」


 ベッドで足をバタつかせているエリスティアは、もう楽しくて仕方がない。

 こんなにもからかい甲斐のある親友を持てた自分の幸運を、心から神に感謝していた。

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