第5話 prosthetic body
-エリシア SIDE-
「お嬢様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何?」
「一応聞いておきたいんですけど、今後体付きの生活に戻れるとしたら、戻りたいですか?」
「はぁ?戻るわけないでしょ?」
「ですよね…。」
せっかく手に入れたこの生首生活。
普通に生活してたらできないこんな経験、絶対手放すわけないじゃん!
「ってか、急にそんなこと聞いてどうしたの?なんかあったの?」
「いや、それが…。」
執事が言葉を濁らせ半笑いで話しかけてくるときは、大体ろくなことがない。
一応話だけでも聞いてみるか…。
-トワ SIDE-
数時間前
バーク先生に呼び出された私は、地下の研究室にいた。
「ついに完成したぞ!!!今まで何年もの間研究してきた生首研究の集大成が!」
「ついにですか…。私がここに来た頃からすでに研究してたので、結構時間かかりましたね…。」
「ああ。これでやっと私も認められる…。」
「で?その集大成っていうのは何です?」
「そうだったな。それでは、とくとご覧あれ!」
そう言って奥から運ばれてきたのは…。
「これが、私の研究の最終地点!義足ならぬ、義体だ!!」
「おぉぉぉー」
出てきたのは、人間の体そっくりに作られた、機械だった。
「すごいですね…。普通に見てても、本物の体と見間違えるくらいにそっくりですよ…。」
「でしょ?これを生首とつなげて脳の電気信号を受け取ることで、その通りに義体が動いてくれる。」
「つまり、体があるころと変わらない生活を送れると…。」
「そうそう!」
確かに、この技術はすごい。これを使えばお嬢様も普段通りの生活に戻れる。けど…。
「そこで一つトワ君に提案があるんだが、この機械まだ実際に使用はしていないんだ。だから、一回実際に生首をつないでみたいんだ。」
「つまり、お嬢様に協力してほしいと…?」
「その通り!いける?」
「んー…。私的には大丈夫なんですけど、現在お嬢様はかなりこの生首生活を気に入っているようで、体が戻ってくるといっても拒否する可能性が高いかと思われるんですが…。」
「あー。いやでも大丈夫!一応試してみてまた元に戻ることも可能だし、一回お試しで使ってみてくれないか?」
…。一回聞いてみるか…。
-エリシア SIDE-
「で、私に実験台になってもらいたいと…?」
「まぁ。言い方は悪いですけど、そういうことですね。」
正直言うと、体の生活には戻りたくない
だけど、すぐに元に戻れるのなら…。
「一回、試してみようかしら…?」
「え!?いいんですか!?お嬢様?」
「試してみるだけよ!一回つけたらすぐ戻るんだからね!」
こうして、一度義体をつけてみることとなった。
数分して、バーク先生が城にやってきた。
「いやぁ~お忙しい中ご協力ありがとうございます~!!」
明らかにいつもよりも彼のテンションが高い
本当に大丈夫なのか?と執事に視線を送ってみるが、帰ってきた反応は苦笑い。
不安しかない…。
「で?バーク先生。その義体というのは?」
「このケースに入っている。それでは、開封いたしますよ。」
そうして、糞デカいケースのふたが開かれた。
そこには、私の部屋に飾ってあるからだと瓜二つの義体が入っていた。
「やはり、本物の体と見分けがつかないですね…。」
執事も感心するほどの出来だ。かなり信頼がある
だが問題は…。
「それでは、エリシア様。早速この義体と合体させてみましょう!」
しっかり機能するのか…?
義体につなげるのはそこまで時間がかからず、作業はスムーズに進んでいた。
「エリシア様。今から神経を義体に接続するのですけど、その際少し痛みを感じる場合がありますが、少し我慢してください。」
え?神経接続って痛いの?
という心の声が顔に現れていたのだろう。
「お嬢様。怖いなら私が頭でも撫でて差し上げましょうか」
などと執事がにやにやしながら話しかけてくる。
「体動くようになったら即ぶん殴るわよ?」
「おっと、失礼」
後でしばいておくか…。
「それでは、神経を接続いたします」
その瞬間
一瞬ビリっとしびれるような痛みが全身を駆け巡る
「痛っ!?」
「はい。もう大丈夫ですよ。エリシア様。」
痛みの感覚が収まるまでしばらく横になっていると、少しずつ、懐かしい感覚を感じ始める。
試しに腕を動かそうと腕を上げてみると…。
「すごい!!ほんとに動いてる!」
「お嬢様、手が!!」
「成功だぁぁぁ!!!!!」
生首になってから数か月、体を動かしたことが無かったのでこの感覚がとても面白い。
「それでは、一度歩いてみますか。起き上がれますか?」
体に力を入れると、昔のように起き上がれる。歩ける。
なんだかそれがうれしかった。
「お嬢様、なんだか楽しそうですね。」
「まぁね。」
そんなわけで、今日一日は、この体で過ごすことになった。
「また何か不備があれば連絡してくださいね~」
バーク先生を玄関まで見送り、まずはミサにこの体を見せに行こうという話になった。
「ミサ。いったいどんな反応するのかな?」
こうして私たちは、ミサの部屋へ向かっていった。
-トワ SIDE-
「おねえちゃんすご~い!!!!」
「えへへぇ~すごいでしょ~」
仲睦まじい姉妹の笑顔
なぜだろう。こんなにも心が癒されるのは。
「首だけのお姉ちゃんも可愛かったけど、こっちのお姉ちゃんも好き~!」
「ありがと~♪」
あぁ、なんて平和なんだ…。
ちょっと待て。生首のお姉ちゃん可愛いはよくよく考えたら普通にやばいこと言ってない?
いや、でもお嬢様逆に喜んでるし、これでいいのか?
「お姉ちゃん!久しぶりにじゃんけんしよ~」
「いいよ~最初はグ~♪」
「じゃんけんポン!わーい勝った~!」
「わ~負けたー!!」
なんていう平和な時間が1時間ほど続いた。
「それじゃあ、私本読みに言ってくるから、また後でね~」
「またあとで~」
こうして妹様と私たちは別れた。
「お嬢様めちゃくちゃ楽しんでましたね」
「そうね~久しぶりに楽しんだわ~…。」
「?お嬢様?どうかしましたか?」
「いや、なんか今二人っきりになって、急にさっき子ども扱いされたのを思い出してきてなんかイライラしてきたんだけど…。」
「え?まだその話続いてたんですか!?」
「そんなわけで執事!一発殴らせて☆」
「いやいやいやちょっと待ってください!!」
「久々に腕が鳴るぜーー!!」
そう言いながら、私にこぶしを振り上げた瞬間だった。
多分お互いがこの状況を読み込めていないのだろう。
今いったい何が起きたのか、目で見えてわかっているのに、脳の判断が遅れている。
いやいやだって、ふつうこんなこと起きないでしょ
お嬢様がこぶしを振り上げた瞬間だった。
振り上げたお嬢様の腕から煙が噴出し、
炎を出しながらロケットパンチのように飛んで行ったのだ
野球ボールのような速さで飛んで行った腕。
私とお嬢様は、それを目で追いかけるように腕の方向を見る。
しかし、本当の悲劇はここからだった。
飛んで行った腕の先およそ100M
その先には、本を読むために書庫へ向かっているミサが歩いていた。
しかもちょうど後ろを向いていて、飛んできている兵器に気づいていない。
「ミサ!」
「妹様!!」
叫んだがもう遅いと感じた。
このセリフを叫んだ間にもミサとの距離はかなり縮まる。
もうだめだ。
誰もが絶望を確信した時だった。
「妹様!!!危ない!!」
そう言って一人の人影がものすごい速度でミサの前に立ちはばかり、腕はその人影に直撃した。
しかし、衝撃の出来事はこれだけでは終わらなかった。
その人影は、130 km/hレベルで飛んできたこぶしを、自分の手のひらで包み込み、握りつぶした。
こぶしは手の中で破裂しあたりに火花が飛び散る。
しかしその人影…。一人の少女は、兵器を握りつぶした右手をひらひらと振りながらこう言った。
「ちょっと!トワ!ぼっとしてないでこれくらい止めなさいよ!!執事なんだからもっと気を張って行動して!!」
「…。マリー…。」
マリア・スカーレット
22歳
この城のメイド長である。
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