第230 行動試験
窓から差し込む月明かりが、彼女の研究室を静寂に包み込んでいた。
タナカ博士は研究室の端に立ち、鋭い眼差しで彼女を見つめていた。
「カフス、感情認識プロトコルの最終チェックを行うわよ。」
博士の声が室内に響くと、カフスは柔らかな女性の声で応えた。
「了解しました、博士。感情認識プロトコル、最終チェックを実施します。」
研究室奥にある扉の向こうには、模擬都市のセットが広がっていた。
街並みや公園、商店街のデザインがリアルに再現されており、博士は感情や状況に応じて適切にカフスが反応できるのかを検証するため、この環境でさまざまなシミュレーションを実施してきた。
カフスは無表情のまま、その扉を開けて中に入っていった。
夕暮れの模擬都市で、230回目の行動試験である"見知らぬ子供と出会うシナリオ"が始まったのだ。
高解像度カメラ、多重スペクトルセンサー、立体視機能、機械学習によるパターン認識技術を組み合わせ、リアルタイムで状況を把握できるカフスの眼は、不安そうな表情を浮かべて街角に立つ男の子を捉えていた。
視覚情報の全てがニューラルネットワークに電気信号として流れ込む。
アインス: ツヴァイ。この子供、迷子みたいね。どうすればいいと思う?
ツヴァイ: おい、アインス。親を待っているだけかもしれないだろ。ただの迷子かもしれないけど、親の帰りを待つのが得策だ。
アインス: でも、子供が不安そうだし、立ち尽くしてます。私が手を差し伸べないと、状況はかわらないですよ。
ツヴァイ: それはわかるが、無闇に手を差し伸べるのも問題だ。親が戻ってくるまで待つのが安全策だろう。
アインス: でも、私はセキュリティーロボットだし、役目は人々を助けることも含まれています。その辺りを考えないと、人々の信頼を得るのは難しいと思いませんか?
ツヴァイ: 信頼は大事だが、適切なタイミングで助けることも大事だ。無理に手を差し伸べると、かえって問題が生じることもあるんだ。
アインス: でも、この子供が危険にさらされている可能性も考えないといけないでしょう。
ツヴァイ: 確かに考えないわけにはいかない。だが、それでもなお、待つべきだと思う。
アインス: では、親が戻ってこない場合、どうすればいいと思う?
ツヴァイ: それは難しい問いだ。でも、それが起きたときには、その場で対処すればいい。今、無闇に動くのはリスクが高すぎる。
アインス: 私は感情も大切にしなくちゃいけないと思うの。この子供が心細さを感じていることも理解してあげないと。
ツヴァイ: アインス、でも、感情に流されすぎると問題が起きることもあるんだよ。
アインス: でも、冷静でいることも大切だけど、人間らしさを忘れないで欲しい。私はタナカ博士が生み出したものだから。
ツヴァイ: そうだな、タナカ博士のためにも、バランスを取ることが重要なんだろうな。安全と人間らしさを。
アインス: そう、私ができることをやるだけ。子供が安心して親を待てるよう、少しだけ助けの手を差し伸べよう。
「迷子になってしまったんですね。大丈夫ですよ。」
カフスが言うと、子供の表情はほぐれ、安心の表情が広がった。
博士は慎重に反応を見守っていた。
シナリオが進む中、カフスは感情認識プロトコルを駆使し、細やかなコミュニケーションを展開していく。
テストの結果を見守る博士の顔には、期待と緊張が入り混じっていた。
研究が進展し、TM11型「カフス」は新たな局面に移された。
広い部屋に案内され、カフスはその場でタナカ博士に向かって深々と頭を下げた。
「貴女は頼りになるわね、カフス。今までの成果を発揮してちょうだい。」
部屋の扉が閉まり、新たな課題に取り組むために設けられたエリアにカフスが足を踏み入れた。
その頃、都市の片隅で狡猾な男達が動き始めていた。
俊夫と悠太は都市の影で計画を練り、犯行に備えていた。
俊夫たちは高層ビルの一室に忍び込むことに成功した。
彼らの表向きの目的は、そのビルに隠された貴重な情報を手に入れることだった。
暗い廊下を進みながら、俊夫は悠太に囁いた。
「気をつけろよ悠太。」
「俊夫、ここが目的地か。今夜は思いっきり楽しもうぜ。」
悠太がニヤリと笑いかけながら目的の部屋のドアを開けた。
「お、おう、悠太。でもここのセキュリティってどうなんだ?」
俊夫たちが部屋に一歩踏み込んだ、その瞬間、部屋の隅に立つTM11型「カフス」のシルエットが浮かび上がった。
彼女は静かに立ち尽くしていた。
俊夫と悠太は、まだカフスが自分らの存在に気付いていないと思い込んでいた。
悠太も困惑の表情を浮かべながらカフスを見つめた。
その瞬間、カフスは微笑むと同時に穏やかな声で言葉を紡いだ。
「あなたたちは、ここで悪いことをするつもりのようね。止めてください。」
「施設内に立ち入ることは禁止されています。退去してください。」
俊夫と悠太は笑みを浮かべ、あざ笑うように見つめる。
「おい、悠太。あいつが博士が用意してくれた特別ってやつか?」
「そうだな、面白いことになりそうだ。」
すると、突如、カフスが動き出し、二人に近づいてきた。
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