紅い魔術師
ふと浮かんだ短編小説です。
ぜひ、最後までお楽しみください。
彼女は分かっているのだろうか。
僕は魔術師なのに、彼女はついてくる。そんな彼女が、僕はどうしようもなく愛おしかった。
魔術師というものはこの世界では嫌われている。鬼の子だとか、悪魔の子だとか。そんな迷信がこの世界を不安にさせていた。魔力が満ち、魔術師自身が制御できずに暴れだすと言われている19才の夜、俺たちは殺されてしまうらしいのだ。でも、魔術師たちはそんなことも知らずに人間たちと楽しげに生活している。俺は、そんな人間の顔を見るのが嫌いだった。「あの笑顔の裏にはきっと何かがあるに違いない」と思うと怖くて仕方がなかった。
あと半年で19才の俺は、人目を避けるようにして毎日を無駄に生きていた。そんなときエリカは現れた。
エリカと名乗る紅い髪の彼女はあと一年で19才らしい。俺は人間を避けていたため、あちらから話しかけてくるとは意外であった。はじめこそは興味深そうに眺めるだけだったが、そのうち話しかけてくるようになった。僕には彼女が魔術師ではなく人間であるということがわかっていた。僕が嫌いで、怖くて仕方ない人間のはずだった。でも、エリカは違った。エリカが話しかけてくれると、僕たちはもともと同種族であったのだと実感できるほど安心できた。俺は、いつの間にかエリカが好きになっていた。
でも、そんな時間が長く続くほど人生は甘くなかった。
19才の夜がやってきた。
僕は殺されるために歩いていた。満月の下、殺されるために僕は歩いているのだ。気が付くと黄色いユリの花が寂し気に僕の足元にいくつも咲いていた。僕は、今から殺されるのだ。死の道をそう思いながら歩いていた。処刑台に着いた。あぁ、俺は死ぬのだ。そう覚悟した。
突然、僕の視界を彼女が埋め尽くした。彼女の必死そうな瞳が僕の瞳とぶつかった。彼女の瞳の奥には白い服を着たエリカがいた。
僕は、とっさに魔力を使った。自分を守るためでもない。彼女を守るために、いつものように魔力を使った。赤い閃光があたりを包み込んだ時、僕はそこにいたエリカを見た。
違った。
赤い閃光が収まり、エリカは足元を見下ろした。
自分の白い服に咲き乱れた真っ赤な花、赤い池のようになった地面と、そこに作られた赤い噴水のように変わり果てた彼らの姿を見て、エリカはそっと微笑みつぶやいた。
「もう、魔術師はいない。」