見えなくなった優しさ
またしても、情景が浮かんだので。
それでは、どうぞ。
今日も朝が来た。
……うーん、あまり良く寝れたとは思わなかった。
ここ最近、仕事に追われっぱなし。
重たい身体を起こしつつ、テレビを付ける。
桜の開花、話題になっているのか。
そういや、暦はもう春。
目まぐるしいな、本当に。
▪▪▪
俺は、地元を出て上京した。
まあ、地元に居場所が無かったし。仕方がないと思っていた。
親は「家を継げ」、と言わんばかりだった。
過去の事を知っている、俺の弟が察してくれて実家を継ぐと言ってくれた。
……最近、アイツ。元気にしているかな。
電話もメールも疎遠になりつつある。たまには電話してもバチは当たらんだろう。
そう思った瞬間、弟からメールが来た。
『昨晩、親父が亡くなった。心配するから、兄貴に言うなって母さんが言ってたけど――』
その一文を読んで、血の気が引いた。
奇しくも、今日は俺の誕生日。
それも、丁度30歳を迎えたってのに。
そう思った瞬間、仕事の上司に電話していた。
『今すぐ、地元に帰れ。年度末で仕事が忙しい時期だが、関係ない。社長には俺から言っておくから、心配すっな。』
「ありがとうございます。申し訳ないです……」
『謝るな。それが上司ってもんだろ。……有給分も含めて、5日間休みにするようにも頼んでおく。行ってこい。』
▪▪▪
その足で、直ぐに新幹線の自由席を買って地元に戻ってきた。
成人式以来だから、かれこれ10年も戻って来なかった。
……景色は変わらない。
久々に帰ってきて、そう思った。
実家に帰ると、弟が家の門前に居た。
「兄貴……!仕事、どうしたんだよ。」
その声を聞いて、母が出てきた。
「志都緒?志都緒なのね?」
俺は頷いた。
「光葉から、連絡を貰ったんだ。……親父が亡くなったって。」
―――その時だ。
親父がずっと、俺の事を心配していたって聞いたのは。
光葉も、母さんも言わなかったのは……
親父が言うなって、言っていたらしい。
理由ってのは、そう……過去の話の事だ。
悪さばっかりしていた俺は、いつしか地元の高校を中退する羽目になった。
……それもあってか、実家を継ぐとは到底無理だと感じていた。
で、上京したって話だ。
今までの自分とは変えたかった。
地元に居たら、何も変わらない。
生前、親父の口癖。
「志都緒のヤツ、元気にやっとるかのぉ。」
だったみたいだ。
俺、どうして親父の優しさに気づけなかっただろうか。
もう少し、親父と面と向かって話をしても良かった。
今となって、そう思うのは遅すぎた。
俺は、決めた。
絶対に、春になったら実家に帰ろう。
「元気にやってるよ」、そう親父に伝えよう。
見えなくなった優しさを、恩返し……
今からでも、遅くは無いだろうか。
読んで頂き、ありがとうございました。