一期一会
夜。
そろそろ眠るかと消灯しようとしたその時。
部屋の扉がゆっくりと開かれる。
あまりにも突然で、近くにあったクリアファイルを構える。
扉の向こうに居るのは結華。
突然俺の部屋にやってくるなんてどういう風の吹き回しなのだろうか。
というか、このクリアファイルでどう自分の体守るつもりだったのか。
投げる? 叩く? 盾代わり?
良く分からない。
「ん、どうした?」
「お兄ちゃんには一応えっちゃんの話しておかなきゃなと思って」
「……? 話って何かそんな改まって話さなきゃいけないことあるのか?」
そう言われると構えてしまう。
もしかして、萌がセックスしたことをバラしたんじゃないかと勘繰ってしまう。
「あー、うん」
「まぁ、なんだ。そこにクッションあるだろ。使って良いぞ」
「ありがとう」
黒色のクッションを床に敷き、座る。
「んで、何を話すんだ?」
「えっちゃんを連れてきた理由だよ」
「理由? 普通にお泊まり会とかそんなんじゃないのか」
セックスに纏わる話じゃなく、ひとまず安心だ。
「あのさ、お兄ちゃん。高校生が平日にお泊まり会とかしないから。明日も学校だし」
そっか。
良く考えてみればその通りだと思う。
大学に行っていると、平日とか休日とか気にしなくなってしまう。
一コマしかない日とか実質休日みたいなもんだし。
なんなら全休の日とかもあるしな。
「それもそうだな」
「そうだから」
ふんっと、不機嫌な結華。
そんなにカンカンしてて人生辛くないのかな。
「なんかね、親と喧嘩したみたい。だからウチに連れて来たの」
「家出ってこと?」
「うん。そんな感じ」
なるほど。
状況はなんとなく理解出来た。
泊まりに来たという名目だが、実際は避難しに来たという言葉が正しいのだろう。
「あっちの親はそれ知ってるのか?」
「うん。一応連絡はしたみたい」
「そうか。なら良いんじゃないか?」
捜索届けを出されたりすると、色々面倒なことになる。
警察が動いた瞬間に誘拐犯扱いだろう。
親の承諾こそ命。
「じゃあ。私は帰るから」
「そっか。おやすみ」
「うん」
結華は部屋へと戻って行った。
「おはようッス! 海さん。朝から元気ッスね」
生理現象で元気になったアレをおもむろに掴む。
「仕方ねぇーだろ。男はみんなこうなんだよ」
「へー。そうなんスね。自分女なんで知らなかったッス」
「そりゃそうだろ。あー、なんか喋ってたら目覚めたわ」
「マジッスか? 自分に感謝してください」
なんだか偉そう。
普通にウザイ。
「で、昨日結華から話聞いたけど。喧嘩して家出したんだって?」
「そうッスね。喧嘩したッス。でも、それもう過去の話ッスよ」
「ほう?」
「今さっきちゃんと和解したッスから。ご飯だけ頂いて直帰ッス」
「そうか」
「あれ、もしかして寂しいんスか?」
「んなわけないだろ。騒がしいやつが家から居なくなって落ち着くわ」
「寂しいこと言うッスね。これでも体と体を重ねた仲じゃないッスか」
「マジでやかましいな」
そんな会話をしつつ、リビングへ向かい朝食を摂る。
ご飯を食べ終えると萌は帰宅する。
「お世話になったッス」
「おう。また縁があったら来いよ」
「首を長くして待ってて欲しいッス」
こうして萌とは別れた。
一期一会という言葉がある。
出会いもあれば別れもある。
一瞬だけ出会い、それ以降出会わない。
そういう縁だってある。
萌がこの後俺の家に来ることは無かった。
結局、俺はワンナイトで童貞を捨てた。
その実績だけしか残らない。
まぁ、未成年に手を出して何も無かったことを有難く思うべきなのだろう。
◇◇◇
三十歳。
都内の商社で働いている。
今日も営業。
面倒な気持ちを抑え、仕事場へ向かう。
相手の会社は自分たちよりも大きい会社。
あまり自覚はないが、ここで契約をもぎ取れるかどうかはかなり大きなポイントとなっている。
多分だが会社の行く末を左右すると言ったって抑え目なくらい。
「おはようございます。本日はお世話になります」
頭を下げる。
大きな会社なだけあって、色んな人が行き交う中会議室へと案内される。
プレゼン資料を改めて頭の中で整理し、説明の取捨選択を行う。
「こちらです……。海さん」
「ありがとうございます」
どこかで見た事のある容姿。
まぁ、どっか街ですれ違ったんだろう。
自己解決した俺は、案内をしてもらったお姉さんを残して、会議室へと乗り込んだのだった。
テーマ : 人の出会いと別れ
こう人生を歩んでいると、実は色んなところで他人と関わっています。
例えば、道や駅ですれ違う人。電車で隣の席になった人。
話したりはしませんが、それでもチラッと顔を見て、「カッコイイ」とか「可愛い」とか「臭い」とか「デブ」とか「ハゲ」とか色んな感情を抱くと思います。
今のはあまりにも極端な例でありましたが、このように目に入った人に関して何かを思い、考える。
これも立派な人と人との関わり合いだと考えてます。
身近且つ関係値が深いもので考えるのなら、仕事とかになるでしょう。
たまたま向かった、普段とは違う仕事場。
そこではいつもとは違う人が勤務しているわけで、見知らぬ人と一緒に仕事をするという「関係」が生まれています。
じゃあ、その人といつもの勤務地に戻った時に出会うかと言われれば出会わないでしょう。
一日の関係で連絡先を交換するとも考えにくいです。
つまり、それっきりということになります。
ラノベや漫画だと、会話のある登場人物は基本的に再登場します。
こういうチョロっと出てきた女性が実はキーマンでした。
そういうパターンも結構あります。
ですが、現実で置き換えるとどうか。
あまりにも不自然です。
理由は明快で、人と人はそんな簡単に強い繋がりを得ないからです。
学校という集団、クラスという集団、部署という集団。
このように人との繋がりを絶対に保たなきゃいけない場合もありますが、その場合はごく一部です。
ここで最初の話に戻りますが、私たちが人生で関わる人の数は膨大です。
道や駅ですれ違う人や電車にて隣に座った人。
こういう人もカウントされるべきであるから。
運命的に強い繋がりをもって、関わらざるを得ない人達は極わずか。
基本的には出会ってそのままさような。
これが普通だと私は思っていました。
だからこそ、出会って、セックスして、仲良さそうにしながらそれっきり。
そういう関係の作品があっても良いんじゃないかなと思ったわけです。
もう深夜なので、思ったことを整理もせずつらつら後書きに書いてしまいました。
一応言いたいことをまとめておきます。
ワンナイトラブな作品もありだよね。
以上です。
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様ありがとうございます。
また思いついた時に作品を載せると思いますので、その時はぜひ、またお付き合い頂けると嬉しく思います。




