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事後に興味を

ブックマークありがとうございます^^

 「あれえっちゃんは?」


 帰宅した結華は1度自室へ向かい、リビングへ踵を返してきた。

 片手にスマホを持って心ここに在らずという感じ。

 まぁ、今日に限った話じゃないのであまり気にしてはいない。


 「横原さんならお風呂入ったよ。さっき『シャワー浴びてくるッス』って言ってたから」

 「ふーん」


 周りをキョロキョロと見渡す。


 「お兄ちゃん。えっちゃんにちょっかい出てないよね?」

 「出してねぇーって。そんな信用ならないか?」

 「別に」


 ふんっとまた自室へ向かった。


 大丈夫だ。

 俺は嘘を吐いていない。

 うん、事実を話しただけ。


 こちらからアクションを起こしたわけじゃない。

 そう、言い寄られただけなのだ。

 ちょっかいは出てない。

 うん、出てないったら出てない。





 「海さん、お風呂サンキューッス」

 「おう」


 気持ち良さそうに髪の毛をタオルで乾かす。

 パジャマ代わりに体操服を着ている。

 割と用意周到だな。

 裸で風呂場へ向かったからてっきり着替えるもの無いんじゃないかと思っていた。


 「あ、そうだ。結華帰ってきたよ」

 「マジっスか? 思ってたより早かったッスね。自分的にはあと数十分くらい必要かなと思ってたッス」


 萌は「ドライヤー……、ドライヤー……」と右往左往する。

 俺は洗面所の方指さすとそっちへ向かい、ドライヤーを手に取って帰ってきた。


 「なんで洗面所で乾かさないんだよ」

 「だって、あっちで乾かしたら海さんと会話できないじゃないッスか。流石にその辺の頭は回るっスよ。受験生舐めないで欲しいッスね」


 俺は舐めているなんて一言も発していない。

 多少の自覚はあるのだろう。


 「あー、舐めてない舐めてない。あと、ドライヤー使ったら音で声聞こえないだろ」

 「それもそうッスね。流石は大学生じゃないッスか」

 「お前の方こそ舐めてるだろ、大学生を!」

 「えー。なんで褒めたのに怒られなきゃいけないんスか」


 むくっと頬を膨らまし、当てつけと言わんばかりにドライヤーを使い始める。

 あの、動画の良いところでやるのやめて貰えませんかね。

 ゲーム実況全く声聞こえないんですけど。






 「ふぅ。暑いッスね。冷房でも付けたらどうッスか?」

 「暑いのは今君がここでドライヤーを使ったからだよ」

 「ケチッスね」

 「この時期から冷房なんか使ったら親に怒られるから勘弁してくれ」

 「そういうことッスか。それなら自分も引き下がるしかないッスね」


 思ったよりも簡単に引き下がった。

 うーん、もしかして親には弱いのかな。

 まぁ、結華の友達なわけだし、結華と敵対するようなことはしたがらないのはある意味当然かもね。


 「そうだ。横原さん――」

 「別に萌で大丈夫ッスよ。あ、それともえっちゃんって呼びたいッスか?」


 クスクスと一人楽しそうに笑う。


 「でもそれはダメッスよ」

 「なんでだ?」


 全く呼ぶ気は無かったが、そう言われてしまうと気になってしまう。

 これは人間の性だ。

仕方ない。


 「気になるんッスね」


 ちょっといじわるな笑みを浮かべる。

 なんか癪に触るが我慢する。


 「ゆーちゃんからしか呼ばれてない呼び方だからッスよ。所謂特別ってやつッスね」

 「なんだそれ」

 「仲間になりたくなっちゃったッスか?」

 「な、わけあるか」

 「ふふ。可愛いッスね」


 一通り弄ばれた。

 もうお婿に行けない。


 「そうだ。萌はなんか部活とかやってるのか?」

 「そうッスね。陸上ッスよ。陸上。こう見えて長距離走ってるッスから」

 「長距離!?」


 筋肉の作り方からして、運動部なのは何となく察していたが、長距離をやっているのは思わなかった。

 肌の白さもそうだが、とても長距離走り切れそうな体つきじゃない。

 三百メートル走ったらもう息が上がって、リタイアしてそうな感じの見た目。

 まぁ、要するに貧弱ってことだ。


 「ゆーちゃんと同じッスよ」

 「そうか……」

 「そんな驚くもんッスかね。なんかそこまで驚かれると悲しいんスけど」

 「いや。すまん」


 見た目との乖離で驚くのは普通に失礼だなと思って謝る。


 「別に良いッスよ。気にしてないッスし」


 と言いつつも、視線は動く。

 多分気にしているんだろうな。


 「ちなみに自分地区の大会で一位何回も取ってるッスから。結局は見た目じゃなくて実力ッスよね」


 ドヤ顔。

 どうやら本当に気にしていないらしい。

 ちょっと申し訳なく思った自分が馬鹿らしい。


 「お兄ちゃん! えっちゃんにちょっかい出さないでって言ったでしょ!」


 部屋からリビングへやってきた結華は迷うことなく俺に雷を落とし、萌を引っ張って自室へ連れ戻す。


 「海さん、また話すッスよ!」

 「お、おう」


 このまま一生顔を合わせないことを祈ろう。

 ほら、今まで顔合わせて来なかったわけだし、これから顔を合わせないで生活するのはそこまで難しくないはず。

 一晩……いや、一瞬だけの関係。

 メリハリが大事って言うしね。

 うん。


 自分にそう言い聞かせて、俺は動画視聴へと戻る。

 気付けば知らぬ話をしているゲーム実況。

 どうやらドライヤーで音を掻き消されている間に会話が変わったらしい。


 「クソ……」


 少し巻き戻して、見直したのだった。

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