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弱み

 「……。なんスか。自分疲れたんスけど」


 萌を起こす。

 少し不機嫌そうだが、そんなこと知ったこっちゃない。


 「なぁ、横原さん。今何歳だ?」

 「え、自分スカ? 十七歳ッスよ。ピチピチの高校三年生ッスね」

 「うーん。いや、まぁ、そうだよなぁ……」


 もしかしたら十八歳になっているんじゃないかという淡い期待を抱いたが、儚く散った。

 高校一年生とか言われなかっただけマシだと思った方が良いのかもしれない。

 ヤッてしまったという事実。

 これだけはもうどう頑張ったって覆すことは出来ない。

 それこそ、過去に戻るチート能力みたいなものがあれば出来るのかもしれないが俺は平凡な大学生だ。


 「何をそんなに焦ってるんスカ?」


 萌は「よいしょ」とオッサンみたいなセリフで起き上がり、首を傾げた。


 「体を見せあった仲じゃないスカ。そんな焦るようなことないスよ」


 あらやだ、この子ったら煽る才能ピカイチなんじゃないかしら。


 「いや、今。俺が犯罪者になったから」

 「なんで……。あーそういうことッスね。確かに海さん犯罪者ッスよ」


 胸元を掛布団で隠しながら、ニマニマ笑う。


 「海さん。でもあれッスよ」

 「ん?」

 「犯罪ってバレなきゃ犯罪じゃないんスよ」

 「それはそうだな」

 「つまり、自分がヤッたこと口にしなきゃ海さんは犯罪者にならないってわけッスよ」


 何か言いたげだ。

 いや、うん。

 何を言いたいのかは分かる。

 伝わってくる。


 だが、首を縦には振りたくない。

 俺にだって多少のプライドはある。


 「まぁ、横原さんが大声で『私はこの男で処女捨てました』って宣言するようなもんだからな。そりゃ、恥ずかしいし周りには言えないだろ」


 とりあえずプライドを守るために、適当に思いついたことを口にする。

 萌は眉間に皺を寄せた。


 「別にそんなことどうだって良いッスよ。教室の前でオ○ニーしろって言われたらするし、ただの処女捨てた宣言くらいじゃ痛くも痒くもないッスよ」

 「女の子がオ○ニーとか言わないで。せめて自慰って言おうよ」


 なんか俺の中にあった理想の女の子像がどんどんと破壊されていく気がする。

 元々結華のせいで、俺の中にある女の子の理想像、幻想は半壊していたがそれが今この瞬間完全に崩れ落ちた。

 そんな音が聞こえた。


 「なんか海さんってお母さんみたいッスね。良く言われたりしないッスか?」

 「何を思ってそう思ったのか考えたくもないけど、とりあえず言われたことは無いね」

 「そうなんスね。意外ッス」


 萌はスマホを取り出した。


 「今から警察に電話するか、ゆーちゃんに電話するかどっちが良いッスか?」

 「いや、ちょっと待てちょっと待て」


 ちゃんと電話アプリを起動している。


 「あー。ビデオ通話の方が良いッスかね? でも、警察にビデオ通話で繋げられないッスもんね」

 「そういう問題じゃないから。電話するのやめてくれ。俺が社会的に死んじまう」

 「えー。そうッスね。それじゃあ海さんなりの誠意を見せて欲しいッス」

 「誠意……」

 「そうッス。海さんなりの誠意ッス」


 腹を割らなければならない。

 多分だが、ここでちゃんと萌の求めることをやらないと本当に電話しかねない。

 コイツはやる。

 絶対にやる。

 間違いない。


 「分かった。分かったから。忠実な下僕にでもなろう。だから、電話はやめてくれ」

 「うーん。そうッスね。自分はそんなこと期待してなかったんッスけど、それはそれで面白そうですし、それで行くッスよ」


 なんか悪い方向に転がしてしまった気がする。

 まぁ、何はともあれ萌のご機嫌取りは必須だ。


 萌の機嫌を取る人生を送るか、社会的に死亡する人生を送るかの2択。

 どっちも嫌だが、強いて言えば前者の方が良い。

 社会的に死ぬか否かの違いは大きいと思う。

 周りから軽蔑の視線を浴びないという一点だけで、差はかなりある。


 「じゃあ自分はシャワー浴びてくるッス」

 「はいはい。行ってらっしゃい」

 「そろそろゆーちゃん帰ってくるからここには戻ってこないッスよ。あ、自分的には第二戦に突入しても良いんスけど、ゆーちゃんにバレるッスよ」

 「やらないから。早くシャワー浴びてきて」

 「つまんないっすね」


 プイッとそっぽを向いた萌は裸のままスタスタとお風呂場へと向かった。

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