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仕事を押し付けたい女性社員と、その仕事をしたら優秀なことがバレてしまう男性社員

作者: 鈴木君


 社会の歯車それが俺だ。

 言われたことをこなし、言われてないことはやらない。

 けど難しい仕事はやらない。やらされたらわざと失敗して、その仕事がこないようにする。


 会社を楽に生き抜くコツだ。


 けど最近、優秀で凄い美人だと評判の女性社員が、やたらと俺に仕事を振ろうとしてくる。


 たぶん入社したての時に、ムチャ振りされた仕事を助けてしまったのが原因だ。

 俺の先輩社員は、部下の成功は俺の成功、俺の失敗は部下の失敗を地でいく奴だ。


 彼女は新入社員の時にそれをモロにくらってしまっていた。


 内容は先輩社員でもまったく手をつけられないような案件だ。もともと肩書きだけの上司だけどあれは普通できない。


 けど俺には出来てしまったのだ。


「センパイ、この案件ってセンパイの得意分野でしたよね」

「苦手だけど」

「……じゃあこっち」

「苦手だな」


 女性社員はムッと口を尖らせて俺を睨み付ける。


「またそれですか、じゃあ何が得意なんですかセンパイは」


「得意分野はないな、それとお前はもう俺より出世してるんだから、敬語は要らないし、俺は部下であってセンパイじゃないぞ」


「いいんです! センパイは人生のセンパイなんですから! それに私が出世したのだって、センパイが私の代わりにやってくれたからじゃないですか!」


「何のことだ? ……あー! 仕事が終わらないからって、ふて寝してる間に仕事が終わってたって、おとぎ話か? 好きだよなその話し、正直にいえよ自分でやったんだろ?」


「あーもーこれですよ! 私は諦めませんからね! センパイは私よりも、いえ、全社員の中で一番優秀なんですから!」

 

 まーた始まったよ、彼女は俺をどうしても働かせたいらしい。

 と思ったら、ドカドカとでかい足音と鼻息を撒き散らす男がやってきた。


「おい、お前またそいつに仕事振ろうとしてんのか! そいつじゃ出来ないから別の奴に回せって言ってるだろ!」


 俺をゴミのように睨む先輩社員に、女性社員は必死に弁明する。


「いえ、センパイならこんな仕事簡単なはずです」


「そんなわけあるか! おい、お前できるのかこの仕事」

「無理ですね」

 

 彼女には悪いけど間髪なしに返答する。

 やったらこれからも押し付けられるし、しかも手柄はこの男の物になる。やるわけないんだよ、そんなもん。


「そらみろ! このグズはちょっと難しい仕事をさせると直ぐにミスするんだ! これだから女は、別の奴にしろ!」

 

「……分かりました」

 彼女は歯を食い縛って、言葉をふりしぼりながら頷いた。

 パワハラにモラハラ、満点だな。


「ったくどいつもこいつも使えない」


 先輩社員は嵐のようにやってきて嵐のように去っていった。


「センパイ」

「なんだよ」

「今日は飲みに付き合ってもらいますからね! 上司命令です!」

「都合のいい時だけ上司になるんだな」

「うるさい! 仕事が終わったら待っててくださいよ!」

  

 ちょっと本気で怒ってそうだな。


「はいはい」



居酒屋の個室、女性社員はカバガバ酒を飲んでいる。


「いいですか! 私はセンパイが凄いって知ってるですから! あんな小汚ない先輩社員なんか目じゃないんです! なのにセンパイときたら出来ないフリして、あんなに好き放題言われて悔しくないんですか? 私は悔しいですよ、何よりセンパイが馬鹿にされてるのが!」


「お前酔ってるだろ」


「酔ってません!」

 短く叫んだ彼女は、ガタンとジョッキをテーブルに叩きつけた。

 中身がちょっと跳ねて自分にかかってる。気にしてないみたいだけど。


「酔ってる奴は酔ってないって言うんだよ」


「そんなこといっても、センパイが俺は仕事ができるって言うまで今日は帰りませんからね!」

 昼間の先輩社員バリに鼻息が荒い。

 俺は腕の時計を確認する。


「じゃあ後1時間で明日になるから帰れるな」


「そんな揚げ足とりで私が引くと思ったら大間違いですよ!」

 女性社員は立ち上がって、俺の横にやってきてまた腰を下ろす。

 

「これで逃げられませんね」

「近いって」

「逃がしません」


 あろうことか彼女は、俺に腕を絡めてきた。


「おい、俺も男だからな」

「へー? じゃあ男らしいところ見せてくださいよ」

 彼女は更にすり寄ってきて、俺にもたれかかった。


「……お前な」


「ほらできないじゃないですか、仕事もできなければ甲斐性もないんですね?」


「……じゃあこらならどうだ?」

 俺は彼女を脅かすつもりで、抱き寄せる。


「…………」


「いや、なんかいえよ。お前が煽るから悪いんだぞ」

 酔って熱くなった彼女の体温と、吐息が直に伝わってくる。

 ──これはまずい。


 そう思って俺から離れようとしたら、離れられなかった。


「今日は帰りたくありません」


 潤んだ瞳の彼女と目が合った。

 ホントに美人だ、これ以上は本当に間違いが起こってしまう。


「っ…………来週は難しい仕事でもできる気がするな」


「ふうん。そっちを取るんですか…………ヘタレ」


 そういって彼女は俺を突き飛ばすように離れた。


「…………」

「そう何度もチャンスがあると思ったら大間違いですからね? 私がこんなに酔うのは金曜くらいなんですから!」


「けっこうチャンスあるな」

 それにやっぱり酔ってるし。


「次は仕事じゃないほうを取らせて見せます」

 彼女は野生的な目で俺を睨んだ。


「お手柔らかに」



 二週間後。

 先輩社員がクビになって、女性社員がその椅子に座った。

 なにやらパワハラの現場を撮影されていて、それが社長に届いたらしい。

 

 そしてその日、俺は社長に呼ばれる。


「男性社員くん、君は素晴らしいね、これとこれ、それにこれも君が関わった案件らしいじゃないか! すべて大幅の利益だ、君のおかげだよ」


「い、いえ、私はほんの少し手伝っただけの──」


「謙遜も過ぎるとよくないよ、女性社員が君の活躍ぶりを話してくれた、これから君は昨日まで彼女がいた椅子に座るんだ。おめでとう、出世だよ」

 ニコニコしてる社長は肩を何度か叩いた。

 うっ、なんか胃にきてるなこれ、責任が……


「あ、ありがとうございます。これからも社のため、人力を尽くしたいと思います」

 

「はっはっは、これからも頼むよ、以上だ」

 一応うまくやれたらしい。

 これだから出世はしたくないんだがな。



 週末。

 俺はまた同じ居酒屋に女性社員と来ていた。


「お前、何したんだよ」


「? 何って、バカを1人排除して、適切な場所に適切な人材を配置しただけですよ? 本来なら社長の席がふさわしいんですが……すいませんでした」


「謝る理由がおかしい……」


「はて?」

 頭をかしげた彼女の顔はわざとらしく、腹のたつ顔をしている。


「わかってやってるし」


「ふふふ、社長もようやくセンパイの有能さに気づいたんです、カンパイしましょうよ」


 悪い笑顔だ。


「お前、先輩社員の密告と、俺に仕事をやらせるタイミング計りやがったな?」


「はて?」

 同じことだが今回は目が泳いでるな。


「はあ」


 俺の溜息に諦めたのか、彼女の口から()きが崩壊したように、暴露が飛びだしてくる。


「わかりましたよ、話しますって。まあセンパイのいう通りなんですけどね。実はかなり前から先輩社員の密告動画は持っていたんです。それはもうセンパイをイビってるのから、私にセクハラしてる動画まで。でも直ぐに先輩社員を辞めさせたら、私の空いた席に座る人がセンパイじゃなくなっちゃいます。それはまずいと思いまして、この前の飲みの時に勝負を仕掛けたんです。どっちに転んでも私の勝ちだったんですけどね?」


「じゃあ俺はずっとお前の手のひらの上だったわけだ」

 とんだ食わせ者だ。


「そうでもありませんよ、結局センパイは私が本当に選んで欲しい選択をとってくれませんでしたし」


「この前仕掛けたって言うのは、俺に難しい仕事をやらせて社長の心証を上げたかったからか」

 彼女のアプローチは回りくどいようで、直球だ。こっちが恥ずかしい。


「あ、誤魔化しましたね?」


「はて?」


「む、やられると腹が立ちますね」


「はあ、これで俺も立派な上司か。後輩からの突き上げと、先輩からの叱責のサンドイッチだ」


「まだやりますか」


「普段からやられてるからな」

 少しは意趣返しができた。


「そうだ!」

「……なんだよ」

 とくな思いつきじゃなさそうだ。


「センパイは晴れて仕事ができるようになったわけですけど!」

「お前のせいでな」


「なったわけですけど!やっぱり今まではわざとミスしていたんですよね?」

 彼女は俺のツッコミをなかったように繰り返した。


「まあな、自慢じゃないけど1回したミスを重ねたことはないし、そもそもミスするような内容じゃなかった」


「おおう、カッコいい!」

 声が裏返ってる。


「煽るなよ」


「じゃあミスしないセンパイに聞きますね?」


 そういって彼女は立ち上がった。

 ちょうど2週間前とおんなじ構図だ。


「これはミスだったんですか?それともわざとミスしたんですか?」

 

 彼女は俺の隣に座って腕を絡めてそういった。


「…………だよ」


「え?聞こえませんよ」


「はあ、この前のはミス、けど俺は同じミスはしないんだ」


「……ということは」


「お前わざとだろ」


「てへ」


「もう言わない」


「あーごめんなさい! お願いしますって!」


「だから、期待して奥の席に座ったんだよ、お前が逃げ道をふさぐかもしれないってな!」


「ふふ、ふふふ。バカですねセンパイ、そこまで言えなんて言ってないのに。でも言ったでしょ、逃がさないって。」


 更に近づいた彼女は、もう抱きついていた。


「近いよ」


「……センパイ」


 目を閉じる彼女、そしてそ俺もそれに続く。

 会社の後輩に手を出すのはタブーかもしれない。でも確信したんだ、きっと彼女からは逃げられないって。






 よければこちらもよろしくお願いします。

『どう考えても、友達0ゲーマーだった俺にラブコメは難しい』という題名のラブコメです。

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