064 エルフ狩りの布達
さて、今回の旅の目的地ロマーニャなのだが、その国はロンバルディアの南に位置している。
ロマーニャから見て東はヴェネトだ。
更に南は海。
西はリーグリア。
因みにリーグリアの北がビエモンテ、ロンバルディアの東の国だ。
男達は旅の準備を始めた。
盗賊ギルドからは頭目が一人だけが来る。
ロイドは今現在国中を回って銀行と保険と、新たに新聞のギルド支店作りに奔走している。
頭目が、お気に入りのフィアットを取られたと愚痴っていた。
詰まりは今はこの王都には居ないのだ。
ゾンビ盗賊達はイザ戦争の為に待機だ。
その出番がなければ良いのだが。
如何せん、盗賊ギルドだ、闇に隠れたギルドでは有るが……国の管理下に有るのは間違いない。
要請が有れば何かしらの行動は起こさねば後々に問題に成るだろう。
敗戦後にはそれも無くなるのだろうが、それが何時になるのかがわからない。
長引くと想定しておいた方が良さそうだ。
その時に初めて知ったのだが、盗賊ギルドのナンバー2はルイ家の執事をしているアランだった。
てっきりロイドだと思って居たのだが、そのロイドはナンバー3なのだと言う。
因みに気になってナンバー7を聞いてみた……新聞屋のレイモンドだそうだ、あまりボンドっぽくはなかったので少しガッカリしたが、まあそんなもんだろう。
もちろんフローラルの順列なんては、はなから聞きはしないそんなもん最下層に決まっている。
後の者は何時ものメンバーとなる。
そして大臣だ。
そうそう、タウリエルなのだが、もう居ない。
彼女のお使いとは、件のエルフ王のお迎えだったのだ、が。
そのエルフ王は死んでしまった。
それを隣村に隠れて居た見た目が人間のハーフエルフに教えられたようだ。
フードを目深に被った、とても怪しげな女だっだとジュリアが言っていた。
二人は随分と仲良く成った様だ、この街に来てからは常に一緒に居た。
故にタウリエルがこの街に居る理由も無くなったのだ。
それに、見た目エルフのタウリエルにとってこの国は居ずらく成るだろう。
いずれ目に見える弾圧も始まるかも知れない。
いや、もう始まっている様だ……。
夜な夜な、城から棺桶が運び出されている……中身は多分だが、地下牢のエルフなのだろう。
なので、お婆ちゃんの所へ行くと出ていった。
疎開ってヤツだ。
送ってやろうかと言ったのだが、それも断って一人で街を後にするタウリエル。
迷子に成らなければ良いのだが。
そして男達も出発だ。
今回の旅から、トラックは少しバージョンアップしていた、ネズミのダンジョンの工事が終わりそこでキャンピングトレーラーを見付けたのだ。
詰まり、トラック……トレーラー……荷馬車の順で繋いでいる。
三連結だ。
多少無茶かとも思ったが……良く良く考えてみればこの異世界には他に自動車は無い。
スレ違うとしても速度の遅い馬車位だ。
狭い町の中でも、曲がりと速度さえ気にすれば問題無く走れた。
しかし遅いのは確かだ。
男は最後尾に繋がった荷馬車を見て。
もういらないと思うのだが……とも思う。
それでもピーちゃんのお気に入りなのだからと、ジュリアが拘って繋いでいる。
その拘りは連結部分にも表れていて、走りながらに移動が出来る様にされていた、電車の連結を参考にしたらしい、蛇腹の幌の部分は無いが動く床が有る。
それを造り上げたジュリアは素晴らしいと思う……。
実際はどうでも良いのだが。
それは言わないで、取り敢えず誉めておいた。
南に向かい走るトラックの中で。
マリーが男に。
「今回も只働き?」
「いや、ちゃんと報酬も有る」
と、懐から魔法の証文を出し。
「保険ギルドの依頼だ」
「あらそう」
聞いた癖に素っ気ない。
「今回は、大臣の護衛だけだからややこしく無さそうね」
「なんだかトゲが有るな」
男はマリーを見て。
「国同士の政治的な話をしに行くのだ……重要だぞ」
頷き。
「難しい話をだぞ」
と、大臣を見る。
その難しいは主に大臣一人にだが。
見られた大臣。
「ロマーニャにも現在は国交が無いのです」
ため息を吐き出して。
「パピルサグ人と言う、蠍の尻尾を持つ竜人……亜人が統べる国です。性格は比較的に穏和だと聞いてはいますが……逆にそれが寄り難しくしていると思います」
詰まりは、戦争には関わりたく無いと考えられるのか。
「ふーん」
と、マリー。やはり興味は無さそうだ。
「そう言うのが得意な人を知っているわよ」
「ほう?」
男は適当な返事で返して。
「誰?」
役にたちそうなら勧誘でもしてみるか?
まあ大臣以上に経験慣れしているとも思えんが。
「あんたも知っているでしょ」
マリーは男を見て。
「骸骨よ……ルイ王朝時代の最後の皇帝」
「あ!」
そう言えばそうだ。そんな話を聞いた気がする。
「連れて行くなら、私のダンジョンに寄れば?」
マリーはその方向を指差して。
「ほんの少しの寄り道で行けるわよ」
「皇帝とは……ルイ王?」
しかし横で聞いていた大臣が驚愕の声を上げる。
「だが、大昔の伝説の王だぞ?」
そして、頭目もいぶかしむ。
「この男」
マリーは男を差し。
「ネクロマンサーでしょ。居場所さえわかれば、蹴り起こしてやれるわよ」
少し笑って。
「それに、この男とルイ王は顔見知りだし」
大臣と頭目が揃って男を見た。
そんな大物感など微塵も無いのに、と、でも言いたげの目だ。
その感じ、男にはわかる。
だって俺もそんな大物だとは思っていなかったし、第一……今言われるまで忘れていたのだから。
「もしそれが本当なら」
男に向き直った大臣は。
「是非にお願いしたい」
勢い込む。
良いのか?
大臣の支える現王家の敵だぞ?
正確には骸骨にとっての現王はカタキの子孫。
わかっているのだろうか? と、首を傾げた男。
「ムラクモ」
頭目が声を張り上げて。
「その場所へ行けるか?」
「へい、行けますよ」
アランに変化中のムラクモが即答で返す。
男に現王を倒せと頼んで来たことは……この際、黙っていよう。
どのみち愚か者の王だ、そう長くは無い。
その道中、コツメが大騒ぎをしたのは仕方ない。
骸骨は怖いから嫌いなのだそうだ。
男もそれを知っていたから黙っていたのだが、見覚えの有る道を通ったので、流石に自分で気が付いた様だ。
だからと言って、頭目も大臣も一歩も引かない。
そもそもが、コツメの騒ぎなど眼中に無い。
そして、そんなコツメを見てプププと笑うジュリア。
コツメの不幸は蜜の味……らしい。
と、そんなこんなをただ眺めていた男に、マリーが新聞をくれた。
今日の新聞だ。
街を出しなに新聞を買いに行った時にはまだ無かったのに、どうしてと見る。
そんな男にマリーが。
「ファックスを参考に造ってみたのよ」
と、新聞サイズの銀色のデッカイ板を指差す。
その板の上に紙を置くとそれだけで良いらしい。
理屈は、送信側と受信側……板の表面と裏面、の送信側に元となる新聞を乗せておけば、何時でも受信側で印刷出きるのだとか。
距離も関係無く、紙の束を置けば何枚でも大丈夫で、その通信方法は銀行のカードとか魔法の証文とかと同じ魔法原理なのだそうだ。
なんとも凄いものを造る。
そして便利だ。
これを、ロイドが作った支店に置いておけばイキナリ全国新聞だ。
そんなマリーが猫型ロボットに見える。
感心仕切りの男に、マリーが新聞の記事を指差した。
国からの布達として、エルフは見付け次第に報告せよと有る。
それを横目で見た大臣。
「とうとう……公にエルフ狩りを……」
と唸る。
戦争の一報で茹で上がった王が叫んだのだろう。
頭目も首を振っていた。




