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060 知恵熱を出したコツメ

 

 「しかし、何故ジュリアが……」

 ジュリア自身を狙ったのか? 

 それとも俺達が目的なのか?

 男は小首を傾げた。

 狙われる理由は一つしかないが……その大臣達一行とはもう別れた。

 もちろん繋がりは有るのだが、それは傍目からはわからない筈だ。

 俺達はエルフのリンクには繋がっては居ないのだから。

 ここでの最初の長老とのやり取りで、エルフの総てがその情報を共有している筈なのだから余計にだ。

 そこまで考えた男は気が付いた。

 今回の誘拐犯は……エルフでは無い、そのリンクには繋がっていない、と。

 だが、それでも小娘一人を拐った処で……国や大臣達の会談がどうにか成る問題でも無いとも思うが?


 「申し訳ない」

 男が考え込んでいると長老王が謝った。

 「今回の誘拐の犯人は、奴隷解放運動と言う名のテロ組織じゃ」

 小刻みに首を振った長老王。

 「既に犯行声明も出ておる」


 「俺達が狙われる理由がわからん」

 頭目が唸る。

 男の考と同じだったようだ……違うのは口に出したところ。


 「我々の国民が誘拐される等はあり得ない、それは不可能じゃ」

 

 それはそうだろう、意識が繋がっているのだ何か有れば国民全体がわかる。

 連れ去っても、犯人もその場所も被害者と同じだけの情報がだ。

 そして、今回の犯人もエルフではない。

 あり得ない。

 それはもう理解していると男は頷いた。


 「今回、あなた方はロンバルディアの大臣と一緒に現れた。それを犯行グループは、関係者と考えた様だ……我が国が招待した客人の一人だとじゃ」


 成る程、巻き込まれたのか……。

 意識の繋がりの無いエルフ以外ならそんな勘違いもするのだろう。

 男達がここに来た時の長老王との話を聞かずに、遠目で見たその通りだけをそのままに捉えればだ……見えなくもない。

 しかし……それでもジュリアなのがわからない。

 ジュリアにそんな国賓級の価値が有るようには見えん筈だ。

 見た目は可愛いがドワーフだし……人にもエルフにも脅せる材料では無いのだが。

 同じ誘拐するなら見た目が子供で人のマリーを狙った方がソレっぽい。

 見た目で判断したのなら、子供を拐う方が楽だとは考えなかったのだろうか?

 同じ様に三人で出歩いて居たのだから、そのチャンスは同じ筈だし……。

 どうにも首を捻るしかない男だった。

 それでも一つ、大臣の関係であるとのそれは……あながち見当違いでもない事は確かだ。

 大臣と男としっかり繋がってはいる。

 男の奴隷繋がりだ。


 「で、要求は?」

 声明を出したのだから、何か有るだろう……。

 なければ困る、それはジュリアの死を意味する……死んでもゾンビに為るだけの事なのだが。

 男の回りの貴重な生きた人間……大事にはしたい。


 「奴隷の解放と、テロ犯の釈放と……金じゃ」

 長老王は吐き捨てる様にだった。


 「随分と強気に出たな」

 頭目が笑う。

 「奴隷の解放はオマケだろう……本音は金だな」


 「そうじゃろうな」

 頷く長老王。


 「なら、その金の受け渡しの時にソイツ等を叩けば良い」

 頭目は懐の金貨を出して見せて。

 「金は重いからな」

 と、また笑う。


 「俺達もその場に行こう」

 男は頷き。

 「何処ですか」

 と、男の問に。


 「それには及ばん」

 手で制した長老王。 

 「もう既に娘の監禁場所は突き止めた」

 そして、男に告げる。

 「踏み込む準備も出来ておる」


 男は理解はしているのだが、それでも違和感の残る会話が続く。

 目の前で座っているだけの長老王が、次々と話を進める。

 それも、さも目の前で見てきた事のように。

 繋がった誰かと見たモノ聞いたモノを共有しているだけなのだろうが、それが出来ない者にすれば不思議な違和感としか思えない。

 そして、長老王は……こちらはそれが見えていない事を知っている筈なのに、その説明も無い……普段からコミュニケーションを取って居ないのだから慣れないのだろうか。

 男達の申し出を断ったのも、それのせいだろう。

 繋がりの無い者が邪魔に為ると考えた。

 

 「ねえ、犯行声明って……どうやって?」

 コツメは理解が出来ていない様だ。


 「犯人が、そこらを歩いていた者に告げたのね」

 マリーが教えてやる。


 「でも、長老さんは、私達以外とは話してないよ」


 「みんなが繋がってるから、誰に話をしても長老王に話をしているのと同じよ」


 首を傾げる。


 『念話のこれと同じよ!』

 苛立ちの感情も念話に乗っかってるぞ。


 「怒んなくても良いじゃん……」

 ううー。

 「いいよ、ジュリアに聞くから」

 と、携帯ヒヨコを取り出したコツメ。


 「あ!」

 その場のエルフ以外の全員がコツメを指差す。


 しかしコツメはそれを無視して。

 「ジュリア……聞こえる?」


 「むー、むう……むむぅ」

 

 「なに? わかんないよ」

 ヒヨコを掴み見て。

 「聞こえてる?」

 男の方を見て笑ったコツメ。

 「むむむう……だって、なに言ってるんだろうね」


 「猿ぐつわでもされてるんじゃないか?」

 男は少し呆れた声を出す。

 「てか、迷子の時にソイツを使えば良かったんじゃ無いのか?」


 じっと携帯ヒヨコを見つめたコツメ……。

 「あ!」


 「あ! じゃないよ」

 男は、コツメを見て。

 「マリーも気付け」

 横に立つマリーも見た。

 

 二人して、音の出ない口笛を吹き始めた。

 


 暫くしてジュリアが連れて来られた。

 無事に救出されたようだ。


 そして、再度謝る長老王。

 「済まなかった、迷惑を掛けた」


 「無事に戻ったので、お礼を言わねば成らないのは我々の方です」

 と、男は頭を下げた。

 「しかし、今回の様な事は良く有るのですか?」

 対応が早くて的確だった。


 「奴隷解放運動は我々を目の敵にしておる」


 「それは、そうかもね」

 マリーはそれには頷き。

 「これだけ沢山の奴隷が居ればね」


 「そうじゃな……そして、奴隷印を造ったのも我々の先祖で有るから余計にじゃ」


 「そうなのか?」

 男は思わず。

 でも、エルフの性質を考えれば繋がると言う部分はとても重要な部分ではある。

 奴隷印は元は疑似エルフの印だったのか、と、考えれば確かに辻褄が合う。

 奴隷での制約は、主人を殺せない位にしかないし。

 命令に絶対服従が無いのに、奴隷と言う……その言葉が独り歩きしたのかも知れない。

 それなら呼び名も元の疑似エルフ印でも良かったのに。


 イヤ、それも問題か……。

 人間の社会での疑似エルフでは、やはり駄目だろう。

 本物のエルフが納得出来ないのだろうし……それは人間側もか。


 「あの……ドール印も、エルフの祖先が?」

 男はもう一つの奴隷印、襲われた時の奴等の印を思い出した。


 「あれは違う」

 それを否定した長老王。

 「あれは、人族の発明じゃ」

 嫌な顔を見せて。

 「我らの印を邪悪に改造したのじゃ」

 

 魔改造の類いは……やっぱり人間か。

 どうもこの異世界は、悪意は人間に多い気がする……気のせいなら良いのだが。



 そして、男達は全員で宿に向かった。

 帰りは、町行く人達も何事も無かったかのように普通に戻っている。

 あの異様な光景は暫く夢に出てきそうだ。



 「でも、凄いわね」

 マリーが部屋でくつろぎながら。

 「ジュリアの誘拐を、あっという間に解決したし……この国では、事件とかは絶対に無さそうね」


 「無理だろうな、悪意を持った時点でわかってしまう」

 男もそれに答えて。

 「究極の社会主義だな」


 「良いじゃない、それ」

 マリーは大きく頷いていた。

 「平和じゃない」


 「言論の自由もないぞ」

 男は自分の耳を指差して。

 「今のこの会話も、俺達がエルフなら皆に聞かれてる」

 肩を竦めて。

 「完璧な言論統制だな」


 「……それは、イヤね」


 「それに、完璧な社会主義は、その先に滅びがセットだ。繁殖の為の生殖行動も筒抜けだし……トイレのウンチの大きさも筒抜けだ」


 「うわ……最悪」


 「そうだな」

 笑った男。

 「蟻の世界は完璧な社会主義だが、女王蟻の寿命まででその後はその国を滅ぼす……そうやって、社会主義を成立させてるんだ」

 男は少し間を開けて。

 「そして、このエルフの国も……」

 多分、そう長くは無さそうだ。町にエルフが少ないのは、もう人口の減少が進んでいるからだろう。

 

 その話を横で聞いていたコツメ。頭から湯気が出ていた。

 

 「コツメ」

 男はコツメの前に手を出し。

 「氷手裏剣をくれ」

 

 男は……その貰った氷をコツメの頭の上に乗せてやった。

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