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052 プレーシャ


 それから二晩掛けてプレーシャにたどり着いた。

 襲撃は無かったが魔物には出くわした。

 雑魚ばかりだが、鬱陶しい事この上ない。

 その対処は……ゾンビ共がワーっと出ていって、ワーっと帰ってくる。

 それだけだ。


 もちろんジュリアやタウリエルが弓を撃ったりもするのだが。

 が……。

 その弓にフローラルがワザと当たり、頭に刺さった矢をタウリエルに見せに行くのだ。

 そのたびに叫んで気絶したタウリエルを介抱しなくちゃいけない。

 誤魔化さなくちゃいけない。

 いい加減にしろよ……フローラル。


 

 さて、町に入る前に俺達はタウリエルとお別れだ。

 もう、二度と迷うなよと握手してサヨナラした。


 別に彼女のせいでは無いのだが、この鬱陶しいからやっと解放される。と、バスを睨んだ男だった。



 そして、宿屋を探す。

 頭目が言うには、この町に暫く留まらなければいけないらしい。

 先のテロリストの件も合って、ここで一旦、本物と合流する事に成った様だ。

 出来たばかりのベルガモの保険ギルドの支店を使い連絡をとったのだそうだ。

 つまりは本物は、やっとベルガモを出たところ……と言う事だ。

 そんな話を町を歩きながらに男は聞いていた。


 何故に歩きか、それはこの町にトラックどころか馬車も入れないからだった。

 その理由は……巨大なウッドデッキの上に町が乗っかっていて、それも複層式、階層が何段にも在る構造。

 それらが全て木で出来ていたのだ。

 そして、森との境も丸太の塀だ。

 この町は……徹底して木造なのだった。

 成る程、森の都だと驚いた男は頷いた。

 そんなわけで、乗り物は町の下に有る駐車場のような所に停めさせられた。

 もちろん、フローラルは留守番だ。

 理由は……説明するまでも無い、か。

 とにかく見た目だ。それだけだ。


 宿は町の中央に有った。

 探すのに若干に苦労させられたが。

 部屋自体は空いていた。

 なんでも、100人以上の団体客が突然に帰って来なくなったと、女将が怒っていた。


 「それ、ヤツ等の事だよな?」

 男は小声でマリーに耳打ちする。


 「でしょうね」

 どうでも良いと、言う返事のマリー。

 

 「宿屋の住人と云う事は、ココにはヤツ等の拠点は無いのかもしれん」

 成る程、頭目の見解に納得だ。

 頭目も小声で男に返した。


 そして、案内された部屋に入れば……そこは大部屋だった。いや、大ホールだ。

 全員で一部屋か?

 他に部屋は無いのか?

 と、案内の女将をと、その部屋を見て眉をしかめた男は探したのだが……もう既に居ない。

 それに、それぞれが適当な場所でくつろぎ始めても居る。

 納得していないのは俺一人かと、端っこに転がった男だった。

 若い娘も居るのに雑魚寝の大広間……プライバシーの欠片もない。

 いや……俺のプライバシーが無い。 


 

 ただふてて居た積もりだったが……うたた寝してしまった様だ。

 トラックでの旅に流石に疲れて居たのかも知れない。


 回りの喧騒に目が覚めた男は、目を擦りそちらに目をやる。

 どうやら宴会が始まっていた。

 盗賊共が酒をかっ食らっている。

 もちろんその真ん中にジュリアが居た。

 ベロンベロンで訳のわからない踊りを踊っている。

 マリーの裸踊りよりはましだが。……にしても酷い。


 「やはり血なのか……」

 ジジイを思い出す男は……ボソリと呟いた。

 「弓を使えて凄い奴なのに」


 「弓どころか、全部の武器が使えるわよ」

 男の独り言を聴いていたのか、マリーが男の背後から答えた。

 黄色い小さな魔法の鞄をひっくり返して、中身を整理していた様だ。


 「全部? 何でも?」

 男はそのマリーの方を向き直り。


 「そりゃそうでしょよ」

 マリーの鞄には何でも入っていた。

 空の薬用の空き瓶。

 何かの草や木の枝。

 乳鉢にすりこぎ棒……ここまでは男にもわかる。錬金術の材料や道具だ。

 それに、爪切りや梵天の付いた耳掻き。

 風呂桶に……熊の木彫りの置物。

 鮭を咥えて居るヤツだ。

 何故にそんなものがと、男が見ていると。

 マリーは続けて。

 「鍛冶屋のジュリアが……自分で造ったモノを試せないんじゃ、その出来も良し悪しもわかんないじゃない」


 「ああそう云う事か」

 ポンと手を打つ男。


 「技とかは簡単なのしか使えないけどね」

 ピンクのゴルフボールを3つほど床に転がしたマリー。

 「職業柄、器用貧乏は仕方無い事ね」


 「器用貧乏? イヤイヤ単純に凄いじゃ無いか」

 何処でそれを拾ったのだろうかとゴルフボールに目が釘付けに為った男。

 ダンジョンの何処かに有ったのだろうが……それを拾って何をする?


 「そう? でもイザ戦闘になったら武器は1つよ」

 マリーはそのゴルフボールの上に仰向けで寝転がり……最中をゴロゴロ。

 「弓を引きながら剣は振るえ無いわよ」


 「臨機応変に状況を見ながら、武器を持ち替えて……」

 背中のこり解しか……男は返事を返しながらに小さく頷く。

 でも……子供なのに背中がこるのか?

 まるで何処かのOLみたいだ。

 そりゃあ元は看護婦らしいが……。

 ?

 いや違う……それ以前にゾンビだろうにとも思う。

 だが、まあ男はそれは見ていただけだが。

 必要の無い事を言ってもマリーが不機嫌に成るだけだし。


 「盾役でアルマにかなう?」

 ゴロゴロ。

 「一撃もシルバの両手剣の方が遥かに強いわよ」

 たまに止まって、足を突っ張って床に押し付ける仕草を見せて。

 「ゼクスは盾で守りながら確実に進むし」

 肩もモミモミ。

 「まあ、今の所は遠距離狙撃でしょうけど、その専門の……例えばタウリエルみたいなのが新しく入ったら、もう出番も無いでしょうね」

 

 「一番になれなくても、2番じゃ……」

 駄目か……。


 「つまりは、やっぱり器用貧乏なのよ……ジュリアの祖先もそうだったしね」


 「うーん」


 「あ! でもピーちゃんが居るわね」

 顔をしかめたマリー。

 でもそれは、ゴルフボールが良いツボにはまったからのようだ。

 「ピーちゃんの背中に乗りながらの攻撃はジュリアにしか出来ないわ」


 マリーのそれは、たぶんフォローなのだろうと男は見ていた。

 巨大ひよこゾンビのピーちゃんは単体でも十分に強い。

 戦闘中は常にジュリアを守っているから、目立ってい無いだけだ。


 「本職は鍛治師なのだから、それで十分でしょう」

 起き上がって伸びをしたマリー。


 そうだな、マリーも戦闘じゃ、大して役に立って居ないし。

 俺なんかは、参加すらしていない。

 うん、十分だ。

 ……。

 あれ? 話がすり変わったぞ。

 男は小首を傾げて。

 十分じゃ無くて……凄いんだって、と、続けようとした時には、もうマリー居なかった。

 宴会の真ん中でテーブルに飛び乗り踊っている。

 扇子の代わりは風呂桶だった。

 ……これは、昭和の慰安旅行か?

 げんなりとするものを感じた男だった。

 


 その宴会は深夜迄続いた。

 男は余りの騒がしさに我慢出来ずに、廊下で寝た。

 明日、もう一部屋とろう。



 翌朝、マリーに蹴り起こされた男。

 「あんた、何でこんな所で寝てるのよ」


 マリーはなぜに蹴って起こす。

 もう少し優しく起こせないのか? と、想像したら気色悪かった。

 うん、これからも蹴って起こせ。


 「買い物に行ってくるわ」

 コツメとジュリアも一緒の様だ。

 「部屋にはもう誰も居ないから、寝るのなら中でね」


 「頭目とかは?」


 「町を調べに行ったわ」

 テロリストの事か。

 「ロイドは支店の準備よ」


 「ムラクモ達はデートだって」

 コツメが口許を抑えながら。


 「ゴーレム達はピーちゃんの所に遊びに行きました」

 ジュリアが言う。

 昨日あれだけ呑んだのに、二日酔いには成らんのだな。やはり凄い。


 そうそう、ピーちゃんも馬も駐車場だ、町には入れさせて貰えなかった。

 動物は駄目なのだそうだ、仕方無いか。

 そのうち、ピーちゃんダケでも変化でコッソリ入れよう。



 昼過ぎ、男は一人で町を歩いた。

 町並みをキョロキョロと観光気分だ。

 

 しかしここは、人間が少ない様に感じた。

 その代わりに獣人が多い、コツメカワウソは居ないが……鹿が居た、牛も、犬も、猫も。

 擬人も多いなとウサギを見る男。


 それでも町自体は賑わっている。

 商店街も良い感じだ。

 店の品揃えを見るに、ロンバルディアのモノでは無い雰囲気の物も多い。

 ヴェネトの物か。

 しっかりと交易が出来ているのを見ると、戦争の影など無い気がしてくる。


 と、その商店街の端に見覚えの有るマーク。

 男の背中に緊張が走った。

 あの男達の胸の首飾りと同じだったからだ。


 ソコは教会の様だ。

 信者と思わしき人達が普通に出入りして居る。

 男は目立たない様に……その前を通り過ぎて宿に取って返した。


 

 部屋では頭目とロイドが話し込んでいた。


 「教会を見付けたぞ」

 そこに男が割って入って、開口一番に。


 「ああ」

 驚く様子も無く頷いた頭目。


 「この町に根付いた教会の様です」

 ロイドもただ頷いていた。

 「悪い噂も聞きません……もう少し、探りを入れる必要が有りそうです」


 「下手に飛び込んで暴れても、悪者は俺達に成りそうだ」

 頭目もロイドに同調して。

 「それに……ヤッパリ何かがおかしい」

 それでも疑っては居るようだ。

 「教会が有って信者なら、この宿に泊まっていたのは誰だ?」


 「その客は、学生みたいよ」

 マリーだった。

 「南の村に有る寄宿学校の生徒が、忽然と消えたそうよ」

 

 「学生?」

 男は聞き返す。

 

 「魔法学校よ」 


 「ロマーニャの北の村か」

 頭目は知っている様だ。


 「その足取りも、探るべきですね」

 ロイドは顎に手を当てて。

 「今夜にでも、忍び込んで見ましょうか」


 「教会か?」

 今度はロイドに聞き返す男。


 それには、短く頷いたロイド。


 「なら、ネズミも放とう」

 仕事だ。

 男も頷いて返した。



 その日の夜、町中のあちこちをネズミ達が走り回った。

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