035 平和な三人
男達は入って来たルートを逆行し、ピーちゃんの待つ部屋の扉を開けた。
『お帰り』
ピヨピヨとピーちゃん。
「ただいま」
男はピーちゃんを見る。
「おとなしくしていたか?」
「え?」
ジュリアの声。
久し振りに聞いたチャンとした声、一言だけど。
「?」
見ると、ジュリアが震えながらにピーちゃんを見ている。
男も二度見した。
あれ? ピーちゃんって喋れたっけ?
「この子、ゾンビに成ってない?」
マリーが目を細めてピーちゃんを指差している。
成っていた。
紛れも無くゾンビだ……。
「どおして?」
男はただ驚いていた。
『んとネ、ソコに居たおじさんに後ろから刺された』
ピーちゃんは羽を器用に動かして指す。
男はそちらを見ると……そこのソファーに座って居たオッサンが消えている。
今は何処にも居ない空いたソファーだけが在る。
『ピーちゃんがね、おとなしく寝ながら待っていたの』
身振り手振り? 羽振りで説明を始めたピーちゃん。
『おじさんに寝ててもいいかって聞いたら、いいよって言うから寝てたの。その時はまだピィーってしか言え無かったけど、多分通じた。そしたら、ブスーって、ピーちゃんの背中から剣で刺したの』
コイツ良く喋るなぁ。
ってか、自分でピーちゃんて……。
……………………じゃ無い。
「あの親父! 人の良さそうな顔をしてナンて事をしやがる」
「下の奴等もアイツに殺されたんじゃないか?」
頭目の眉間にシワが寄っている。
ピーちゃんの背中の切り口を確認して。
「背中から心臓を一突きだ」
唸り。
「躊躇った様子もない……殺し慣れてる」
ピーちゃんはその間も喋り続け。
『でね、でね、そしたらそのおじさん』
1段と大きく、ビックリした仕草で。
『突然に身体が光だして……急に、ちょっとだけ若く成ったの』
首を捻り。
『不思議~』
「ちょっと」
マリーがピーちゃんに掴み掛かる勢いで。
「ソレほんと?」
『ピーちゃんは嘘言わないよ』
「なんだ? 何か知って居るのか?」
「あの男! 時と空間の勇者よ」
マリーは言い切った。
「このダンジョンもアイツが創ったのね」
「なぜ?」
そう言葉に出し、思い出したマリーが言っていた事を。
「魔力の回復の為に殺したのか……」
「そう、下の死体もアイツが殺ったのよ」
頷いたマリー。
「この場所」
少し考えて。
「棒を引き摺った男の子が居た場所でしょ?……あれは、転生魔法の範囲を描いて居たのよ」
「ダンジョンを創れる? 呼び出せる? のか」
男の眉間に皺が寄る。
「厄介なヤツだ……」
「貴方ほどでは無いけど……アイツも最弱の部類よ。自身の攻撃手段はセイゼイ、店売りのスキル位よ」
「だが、この切り口は」
頭目が改めてピーちゃんの背中を見る。
「随分とレベルが高い様にも見えるが……何十年かは修行した、そんな感じだ」
「時と空間の勇者は、永遠の命を持っているに等しいわ。私より古い転生者の筈だから……経験は豊富な筈だけど」
少し考え込み。
「或いは、剣の勇者のスキルを奪ったか」
「スキルを取り出すスキルを持っていると?」
「勇者のメインスキルは、勇者なら簡単に奪えるのよ。ただ、トドメを刺すだけで良いのよ」
「なら、男も……」
「ソレは、辞めといた方が良いわ。勇者のスキルは、デメリットも必ず付いてくる」
マリーは手を左右に振り。
「それに、魂の勇者は攻撃自体が無理じゃない、そんな貴方が強力な攻撃スキルを持っても意味有る?」
「しかし、マリーの爆弾で攻撃出来てる」
考える男。
「投げるは」
ウーン。
「良いのか?」
「身体から離れれば良いのかも? ソレとも爆弾みたいな、少し複雑なモノだからか……かな」
マリーも考える。
「今度、試しに槍を投げて見て」
「そんな事よりも、今はその殺人鬼勇者じゃ無いのか?」
頭目の指摘。
確かにそうだ。
悠長に議論をしている暇はない。
まだ、何処かに隠れて男達を狙っているかも知れない。
「蜂とカラス達に告げる、索敵開始だ」
蜂達が四方に飛んだ。
一方のカラスは一鳴きして、ダンジョンのカラスと交信したようだ。
『ダンジョンには、居ないようだ』
そしてすぐに告げてきて。
『ダンジョンの外も探らせよう』
と、男の目の前のカラス。
このカラスがボスのようだ、おそらく一番最初のゾンビカラスなのだろう。
「ああ、頼む」
男はそれに頷いて返す。
そのほぼ同時に、ダンジョンから無数のカラスが飛び立った。
『この付近には確認出来ず』
蜂達の報告。
『森の中に剣を携えた男が入って行ったと、連絡が入った』
カラスのボス。
「森? ここから一番近い森だと、王都の逆方向で相当に遠いぞ」
頭目だ。
スキルの高速飛翔か?
カラスもやたらに速いぞ。
『黄色に黒の斑点模様のトカゲに乗って、高速で移動していた様だ』
カラスが捕捉する。
「トラックで追いかけたとすると? どうだ」
男は頭目に尋ねた。
「見失なければ、半日程で追い付けられるだろうが……」
頭目はカラスに視線をやる。
「森の中だと、カラスも無理か」
頷く頭目。
『別の者からも連絡だ』
またカラスが告げる。
『数名の一団の中に剣士が居て、コチラに向かって来ている様だぞ』
「ソレは、多分……冒険者だな」
頭目の見解。
「痺れを切らして、ダンジョン討伐に出たのだろう」
『他にも、何人かを見付けた様だが……』
カラスは男の方を向いて。
「そうか、カラスはあの野郎を知らないのか」
男はそんなカラスを見ながら。
「見ていたとしても、若返る前だろうし」
多分……最初のトカゲ乗りが本命なのだろう。
「よし、引き上げさせろ」
カラスに告げる。
「そのカラス、なかなかに使えそうだな」
頭目はジッとカラスを見て。
「盗賊ギルドにも何匹か紹介してくれ」
ギルドだったのか!
それには驚いた男だった。
だが考えて見れば確かにだ。
遠距離通信、言語短縮、画像記憶のスキルを使ったのだろうカラス、電話代わりにも使えそうだ。
成る程、頭目も伊達では無いな。
すぐにその有用性に気付いたと男も唸る。
「いいか?」
そして男はカラスのボスに尋ねた。
頷くカラス。
「それと、ここに来る者はゲストとして扱ってくれ」
男はカラスに指示を与える。
「死なない様に観察して危なそうなら助けてやって欲しい。もし、ココでも余裕そうなヤツだったらば、少し怖い思いをさせてやってくれ」
ニヤリと笑った。
カラスもニヤリと笑った。
『そう言う遊びは大好きだ……良いアトラクションを見せてやろう』
そして、街に戻った男達。
盗賊共は、ダンジョンからそのままギルドの里に帰った。
男とカラスとネズミの一匹づつとマリー以外は屋敷に戻る。
男達は一度、冒険者ギルドを覗く事にしたのだ。
それまでの帰り道の事。
ジュリアがピーちゃんを見てずっと泣いていた。
ソレを鬱陶しく感じたのかマリーが怒鳴る。
「いい加減に泣き止みなさい」
「グスリ……でも、死んじゃったの」
ジュリアは涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして。
「今、動いて喋れてるじゃない」
キーっと叫ぶマリー。
「それじゃ駄目なの?」
「でも、でも……ゾンビに成っちゃった」
グシグシ。
「アンタ! あたし達に喧嘩売ってるの!?」
マリーは立ち上がってわめき出す。
「二人共、煩くて鬱陶しいよ」
そこにコツメがボソッと。
キッとコツメを睨む、マリーとジュリア。
そのまま三人の三つ巴の肉弾戦が始まった。
確かに鬱陶しい、狭いトラックの中で暴れるなよ……。
男はトラックの後方に移動して騒ぎから逃げる。
「だいたい、ジュリアはチビの癖に巨乳って」
と、コツメ。
羨ましいかったのか。
「コツメちゃんだって、アホな癖に一番背が高いじゃない」
ジュリアのコンプレックスか?
「アホじゃないわよ、アホなのはマリーよスグに忘れ物するし」
コツメはマリーを指差して。
「つるペタだし」
マリーはコツメを指差して、自分の胸をスルンと撫でた。
「パンツも履いてないし!」
ジュリアはマリーを指差している。
確かに……もう買えるだろ? 言えば買ってやるぞ?
「アンタ達は若いんだから、年長者の言う事を聞きなさいよ!」
叫ぶマリー。
今、見た目で一番若いのはマリーだが。
そのマリーの服の裾がはだけた……また、大事な所が丸見えだ。
そのマリーがコツメの胸をはだけさせた。確かに貧相だ。
コツメも負けじとジュリアの服を剥ぐ。ポロリとこぼれた胸を見てまたヒートアップ!
「屁が臭いのよ!」
「アンタの爺さんダメダメじゃん」
「ロリババア!」
「間抜けなエセ忍者!」
「爆弾しか造れない駄目錬金術師」
「役立たずの引き籠り鍛冶師」
せめて口喧嘩か取っ組み合いか、どちらかにしてくれんかな?
アルマはオロオロし始めるし。
ゼクスはボーっと見ているし……面白いのか?
面白いけど。
シルバはと、見るとセオドアと話していた。
この二人……誰が勝つかを掛けてやがる。
俺も一口乗ろうかな?
ムラクモとシグレは普通に世間話か? もう飽きたのだろう。
しょっちゅうだものな。
蜂達もカラス達もピーちゃんでさえ全く興味を示さない、元魔物組には普通の事なのかも知れない。
そんな束の間の平和な光景が帰り道の間にズッと続いた。
ホント平和だ。
貧乳と巨乳と大事な所がチラチラと見えるが……平和だ。




