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プロローグ

新シリーズ、始めました。

 (おれ)は瞼を擦る。そして寝呆けた頭で周囲を見遣る。

 

「あだっ⁉︎」

 立ち上がろうとしたものの、己は背中を(さす)る。

 如何やら寝違えた様で脊髄の辺りがビリビリと痛みを発して居る。

 己は此処で寝て居たのだろうか。だが、昨日は普通に就寝した筈……。

 其うやって摩って居ると少し痛みが引いて来た。


「よっこいしょ」と声を発して立ち上がると其処は白く、何も無い空間だった。

 いや、一つだけ何かが有る。遠く遠くに、そうきらっと、光の様な物が光った。


 一体、此処は何処だ。己は頬を(つね)ってみる。

 然し、確りと痛みはする。夢では無いのだろうか。訳が分からない。


 取り敢えずは其処を目指して歩いてみる事にしよう。

 何も目的も無いし、そもそも此処が何なのかも理解不能だ。

 もしかしたら其処から脱出出来るかも知れない。


 己は其処に向かって走ってみる──だが、幾ら歩いても近付いて居ると云う実感が湧かない。

 寧ろ、其の光は遠ざかって居る様な気さえする。

 そして、彼此(かれこれ)数時間は歩いて居る筈なのに脚の疲れは無い。

 

 本当に、一体如何云う場所なのだろうか。此処は。


 そして数時間後。

 己は喜んで居た。やっと光が目の前に現れたのだもの。


 けれど──其処で足を躓いた。何かが足の甲に当たった様な気がした。

 何、如何して、と思って居た。気を取られて居た。

 目の前に大きな穴が空いた。


「うわああああ‼︎」

 光と共に己は其の大きな奈落に落ちて行く。其処は暗い、さっきの明るい所とは正反対だ。

 ドシャリ、と云う音と共に己は何処かに落ちた。


 痛い、全身が痛い。けれど死んでは居ない。

 無理矢理体を起き上がらせると「ごほっごほっ」と咽せた。

 足元を見ると、其処は腐葉土みたいな物の山だった。

 あぁ、此れが気管に入ったのか。そりゃあ、咽せるに決まって居る。

 口の中には土独特の気持ち悪い味が広がる。


 周りを見渡してみた。辺りは大きな樹で覆われた巨大な森みたいだった。


「うえっ……」何だか妙に気持ちが悪い。妙な吐き気の様な物がする。

 己は腹を見た。すると、異様な迄に土が付いて居た。


 あぁ、もう……、最悪だ。洋服が汚れて居るんじゃあないか。

 己は両手で土を払うと、其処からは虎柄のふわふわした毛皮が出て来た。

 手で少し触ってみると気持ち良い。


 ……いや、ちょっと待てよ。


 腕を見ると、其の虎柄が侵食して来て居た。

 成す術も無く、己の腕はボディペイントでもされたの様に其の虎柄に変わって行く。

 何、何だ、如何したんだ。己の体は如何成って居る。

 

 己は走り出した。此処等に湖でもないだろうか? 其う思って全速力で走って行く。

 でないと、可笑しく為ってしまいそうだ。


 何だか走り易い様な気がした。平衡感覚が取り易い。

 己は臀部を眺めた。すると、其処からは獣の様な長い尻尾が生えて居た。

 ぞわっとした。全身に悪寒が走る。

 おかしい。おい、おい! 己が其の尻尾を叩いても其れは己の体から離れようともしない。 


* * *


 己ははぁはぁと樹に手を付いて肺腑に息を送る。

 もう走れない。もう何も出来無い。あぁ、何だ。

 己は訳も分からない所に放り出されて此の儘野垂れ死ぬのか。


 喉もからからだ。全身に力が入らない。もう、己は如何すれば良いのだ。

 ゆっくりと目の前を向くと、其処には湖が有った。

 俺は心の底から喜んだ。

 

 あぁ、あぁ‼︎ 命の水だ……命の水だ……‼︎ 此処迄水に感謝した事は無い。

 己はじゃぶじゃぶと音を立てて湖に入って行った。


 全身に水を浴びせさせ、そして毛皮に付いた汚れを取って行く。

 そして顔も水で洗う。

 少し、思考がさっぱりした様な気がする。

 己は両手で水を掬って飲んでみる。喉が潤う。そして口を腕で拭いた。

 其れにしても、ズボンが濡れてしまった。……後で脱いで乾かしておこう。


 己はゆっくりと其処から出て、己の顔を確認する為、湖を覗き込んでみる。

 すると、揺らめく水面に現れたのは、正に虎としか表現出来無い様な獣が居た。

 己は獣と人間の中間みたいな存在に成って居るのか?

 嗚呼、やはり其うなのか。何故己は此んな姿に成ってしまったのだろう。

 とは云え、そもそも己は殆どの記憶が無い。其れはきっと、一回死んだのと殆ど同義だろう。

 

 ……あれ? 死んだ……? 


 …………。


 何か思い当たる様な物が有る気がしないでもない。

 でも、思い出せない。全く分からない。むしゃくしゃして己は頭を掻き毟った。


 後ろを振り向くと木の棒の様な物が浮いて居た。

 其奴は地面に自身を突き刺して何かを描き始めた。


 出来上がった其れは日本語の様だった。


『肥大し過ぎた自尊心:中島祐介』


「え。」

 自尊心? いや、如何云う事だ。

 そもそも、己は()の白い部屋に居た時を除いて殆ど記憶が無いのだぞ。


 すると、其の文字は消え失せ、其処に奴は又文字を連ね始める。


『お前はもう人間じゃない』

『精々、此の世界で苦しめ‼』

 と捨て台詞みたいな事が書かれて居た。


「お、おいおい‼︎」

 声を掛けるものの、其の棒はふわふわと空中を浮いて何処かに行ってしまった。

 ……何々だよ。此処は。

自尊心ってワードが出て来た時点で察して居る読者の方も居られるでしょうが、本作は山月記に多大なる影響を受けて居ます。上手く名作文学のワードを組み込めて行けたら良いなぁ。


南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、ありがたいありがたい。とか。

邪智暴虐の、とか。ゲネイオンは知りません。

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