嘘を吐いてはいけません
ふわり、ほわり。
頭上の白い花が、また地面に咲きました。
それは以前のように、紅の池に浮かぶことなく、ただ、腐葉土を褥としました。
あなたが眠ってから、時は龍の身体のように、長く長く延びました。
今は冬。
あなたは寒くないかしら。
私はあなたが眠ってから、あなたと共にずっと在るようになってから、不思議と暑さ寒さを感じないのです。
ふわり、ほわり。
あなたを銀色の冷涼で切り裂いた時の、赤い洪水が忘れられません。今でも思い出そうとすると背筋がぞくぞくしてしまう。
あなたが私を愛していないなどという、ありもしない嘘を吐くから、私はその嘘を正す為に、あなたを眠らせなければなりませんでした。眠ったあなたは安らかな顔で、口元には仄かな微笑が浮かんでいました。
ね?
あなたもそれで満足だったのでしょう?
私のこと、好きだったわよね。
ふわり、ほわり。
ああ、白い花弁が、私の回想と階層に降り注ぐ。
蒼穹に両手を伸べると、そこにも白が降って来る。神に祝福された結婚式。
ライスシャワーみたい。
私は、今は冷たく硬く白くなったあなたを抱き締めます。肉は、いつの間に消えたのかしら。肉などどこかに行ってしまえば良い血液など一滴残さず絞り切ってしまえば良い他の女を見る眼玉など腐り落ちてしまえば良い私を抱擁しない腕など千切れてしまえば良い私を愛していないなどと嘘を吐く舌は引っこ抜いてしまえば良い裂いて裂いて裂いて咲いて五臓六腑をぶちまけて。
「嘘を吐いてはいけません」
私の呟きのあとを、また白い花が、追って来ました。
ふわり、ほわりと。
写真提供:空乃千尋さん
この作品を音叉に捧ぐ。