ネカフェにGO!①
わたしは慣れない液タブに苦労しながらも、なんとか三枚のイラストを描き上げた。
そういえば十五年くらい前までは、
上質紙に墨汁で描いたイラストをスキャナーで取り込んで、
スキャナーに付属されていたお試しデジタルイラストソフトを使ってパソコンで色づけして、
完成したイラストを、わたしの熱愛していた作家さんのサイトに投稿していたっけ
…などと余計なことを思い出しつつ、
液晶画面に専用のペンで直接イラストを書き込んで、
レイヤーを、重ねてという面倒な作業を繰り返しつつ、
私のイラストは完成したのであった。
「なんか…あまりデジタルっぽくない仕上がりねぇ…」
完成したイラストを見て、妻はのたまった。
「なんかこう、アニメから抜け出してきたみたいに、キラキラ〜のきゅる〜んとした感じを期待してたのに…なんかこれ、普通に水彩絵の具で塗ったみたいなカンジ〜」
グハッと、わたしは30万ポイントくらいのダメージを受けた。
「……実際、水彩絵の具でそのまま塗ったのと同じなんだよ……ブラシの選択に、水彩絵の具風を選んだから……」
「それって、キラキラ〜のきゅる〜んなアニメ風の色塗りは、選べなかったの?」
今日の妻は、いつにもまして横柄なのだった。
だが、そんな態度に逆ギレしていては、夫婦生活は三十年ももたなかっただろう。
わたしは、寛大な夫なのだ。
「選べなくはなかったけど…そのアニメ塗りは、まだよくやり方がよくわからなくて…次からは、もっとおまえの希望に添えるよう、勉強しておくよ…!」
「まあ、いいわ。とりあえず、さっさと小説に挿入して」
「それが…できないんだ」
わたしは表情に苦汁をにじませながら、
「小説家になろうへの挿し絵の挿入は、
まず画像投稿サイトの『みてみん』に画像をUPして、
その画像へのリンクを小説本文の中に挿入することで、
やっと小説家になろうの小説本文に表示されるようになるんだが」
妻は、ふむふむと聞いていた。
どのくらい理解できているのかは不明だった。
「……それで、いったい何が問題で、画像投稿ができないの?あなたの液タブ、通信機能がないの?」
惜しい!妻は結構いいところまで理解してくれていた。
「通信機能は、もちろんある。Windows10が搭載されているからな。だが…通信するには、Wi-Fiが必要なんだ…」
私は続けた。
「去年おまえとわたしがナンバーポータビリィで通信会社を乗り換えたとき、
『これだけギガのあるプランにするなら、もう光回線はいらないわね〜ホホホッ!』
って、光回線は乗り換えずに撤去しただろう?
あのときから、我が家は宅Wi-Fiの環境を、失ったわけで…」
妻は通信会社乗り換えのときに生じたイザコザを思い出したのか、苦い顔で
「◯◯タヒね!」
と、伏せ字が必須で、毒づいたあと、
「要はWi-Fiがないから、あなたの液タブからは『みてみん』に画像投稿ができない、そう言うのね?」
妻は性格は悪いが察しは良かった。
「うんうん、そーなんだ」
「だったらフリーWi-Fiエリアに行って、そこでWi-Fiに繋げて投稿すればいいじゃない!」
と、言ったあと、
「…いえ、フリーWi-Fiエリアは怖いって、ミネルヴァさんが言ってたわね…なんか情報を盗まれるかも知れないから、危ないって…」
ミネルヴァさんと言うのは、妻のネット友達でLINEも頻繁にしている、自称、女性である。十年以上の付き合いらしいが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしはひそかにネカマを疑っている。
「…なら、あそこに行くしかないわね!!」
妻は、高らかに宣言した。
「私たち、ネットカフェに行ってみましょう!!」