異次元空間
「あら、私、寝てた?」
と、突っ伏していた座卓から、顔を上げて、妻がつぶやいた。
「寝てた、ねてた」
と、座卓を挟んで差し向かいに座っていたわたしは相槌を打った。
「なんか、また寝言、言ってたぞ、呪文みたいなーー『アンノヤレバデキルジャン』ーーとか」
「あらやだ、疲れてたのね。うたた寝すると、夜眠れなくなるから、困っちゃうわん」
「何をして、そんなに疲れるんだ?小説の更新も、ここ二日ほど、休んでるしーー」
「ちょっと、昼間はお友だちと映画を観に行ったり、夜中はゲームのアプリやっていたり、なんだか、寝る時間が遅くなっちゃって……それに、最近眠りが浅くて、朝は早くに目が覚めちゃって……いやね、これが歳を取るって、ことかしらん……」
「いや、五十代のいい歳した女性が、夜中までゲームアプリって……」
「あらあら、あなたん、いまゲームアプリは、若い子よりも、自由に課金もできる中高年層が支えてるのよ!だいたい、私たちの世代は、若い頃にはもうフ◯ミコンもあったりして、ゲームに馴染んでいたもの。大人になって、自由な時間ができたら、やっぱりゲーム、やっちゃうわよ!!」
「フ◯ミコン……か……」
「そういえば、このあいだ、バスの中で、中学生らしき男の子たちが、『おまえ、スイッチ買ってもらった?!』とか、『俺、買いたくても予約できなかったんだ』とか、スイッチ、スイッチ、話してたから、なんのボタンの話してんのかと、思って聞いてたんだけど、よくよく聞いてみたら、スイッチって、ニ◯テ◯ドースイッチ、ゲーム機の話だったのよねー」
「おまえ、バスの中で、男子中学生の話に耳をそばだてるというのはだな……」
「ソーシャルディスタンス、喋るなら、小声で!の時代に、大声で話してたから、気になっただけよ!必要最低限のマナーは、守ってもらわなくちゃ!」
「そうだなぁ……わたしはあまりバスやら電車やらは乗らないが、乗るときには、気をつけたいなぁ……」
と、わたしがしみじみ言うと、
「それはそうと、今夜は小説も更新したのよ!昨日は映画を、観て、今日はゲームして、小説も書いて、さすがの私もお疲れ様気味なのよん!」
「アレか……アレやらソレやらコレやら、指示代名詞ばかりの多い、あの小説か……」
「いやん、あなた、ちゃんと読んでるのねっ!!」
「読んでる……読んでるが、アレは……あの、『俺のカノジョに血と薔薇を』の続編にして、18禁のBLであるアレは、わたしから見ると、もう異世界ファンタジー以上に異次元世界な、不可思議な世界だな……」
「乙女の絶対領域ですもの!乙女の聖域ですもの!それを簡単に五十代のオッサンに理解されたら、それはそれで困るわ!」
「その理屈は、よくわからん……だいたい、書いてるおまえだって、五十代のオバサンではないか……」
「悪かったわねぇ、オバサンで。女性は、いつまでも乙女心を失わないのよ!プリティベイビーなのよ!」
「悪い……悪いが、おまえの書いた『俺のカノジョに血と薔薇を』は、空前絶後の面白さだったと思うが、続編の今作は、何と評価していいのか、わたしにもビミョーだよ……」
「あらあら、褒められてるんだか、けなされてるんだか……」
「本編は、褒めてる。続編はビミョーだと、思ってる」
「いいですよ、これであなたにBLのほうを傑作だっ!って褒められたら、それはそれで私も気味が悪いですものっ!」
「そうか、そうなのか……」
「もとよりBLの世界は、男と男のラブロマンスでありながら、決して男性読者を意識してはいない、乙女の妄想空間ですものっ!ーー本来は、男子禁制の世界なのよっ!ーーそれを読んじゃうあなたが悪いのよっ!」
「じゃあ、ブクマも取り消して、評価も下げるかーー」
「ああっ!!それだけは勘弁してっ!!」
いまだに妻の小説には、わたしのブクマ一件だけしかついていないのである。なんともわびしいことだった。
「まだ、前作を書いてるときのほうが、ブクマも評価もあったわんーーBLの世界って、厳しいのねっ!」
「まあ、がんばってくれ……」
と、言うことしか、わたしにはできなかった。
そういうわけで、18歳以上の乙女の皆様方は、ぜひ妻の小説を、読んでやってほしい。できたら、ブクマと評価もお願いします。
……だが、18歳以下の純乙女の皆様方は、くれっぐれも、アクセスなさらないらように……!
18歳以上の男性の皆様方も、禁断の扉を開けてしまう勇気のない方は、できたらアクセスしてほしくは、ないのであった……あの、異次元空間には……きっと、後悔なさるだろうから……。くわばら、くわばら。




