妻は友だちが少ない
わたしが和室に入っていくと、
「あなた、お疲れさま!」
と、妻に嗄れた声で、声をかけられた。
「おまえ、風邪か?!」
思わず、いつものように、座卓に肘をついて、座っている妻に、声を返した。
「あら、ごめんなさい。声が嗄れてしまって……。実は、朝からひとりでカラオケに行ってたの!熱唱しすぎて、喉が痛いわん!」
と、妻は喉を押さえながら言った。
わたしは座布団の上に座りながら、
「ひとりで、カラオケに行ったのかい?」
と、訊ねた。
「ひとりよ!おひとり様よ!フリータイムでドリンクバー込み込みで、割引も効いたから、千円しないのよ!」
と、妻は誇らしげに、胸を張った。エッヘン、という擬音が、背後に張りついている。
「そうか、リーズナブルだな……いや、しかし、おひとり様かぁ……」
「なによ!どうせ私は友だちが少ないわよ!平日の昼間に、カラオケに付き合ってくれる友だちなんか、いないわよ!」
「いや、そんなことを当て擦ってはいないよ!」
わたしは、慌てて妻を宥めた。
「そうじゃなくて……久しく、おまえとわたしの二人でカラオケに行ってないなぁ、と思って……」
「あら!」
と、妻は口に手を当てて、驚いたふうに、
「ーーあなた、私と一緒にカラオケ、行きたかったの?!」
と、問うてきた。
「いや、カラオケに行ったという話を聞いたら、ちょっと羨ましくなってだなーー」
と、わたしは少々もごもごと、
「わたしも、一緒にカラオケに行くような親しい間柄の友人は、近くに住んでないし、しかし、たまには、カラオケにも行ってみたいと思ってだなーーしかし、わたしはおひとり様で行くのには抵抗があるしーー」
言い訳がましく、告白したのであった。
「新型ウイルスが流行の最中、おひとり様は、基本中の基本よ!」
と、妻は、また胸を張った。
「ーーでも、おひとり様だと、歌って、また曲を探してる間が、ロスタイムになるから、お二人様も、悪くはないわね!ーーあなた、今度一緒に行ってみる?!」
「いいな!じゃあ、来週の土日にでもーー!」
「土日は、料金が割増になるのよね……」
「それくらい、わたしがーーわたしの、小遣いから、出すよ、カラオケの料金くらい!!」
「それなら、いいわん!久しぶりに、私の喉を聴かせてあげるわん!」
「お前の歌う、◯◯◯◯ーZは、どんなユーチューバーにだって、負けないよ!」
「……マジで、時々、ユーチューバーになろうかと、思うとき、あるのよ……小説のアクセス数が芳しく、ない時とか……私の数少ないお友だちに、『ユーチューバーになろうかと思ってる』って、冗談で言うと、けっこう本気にされるのよん……」
「いけるいける」
と、わたしも素直に請け負った。
「おまえなら、10万回再生くらい、わけないよ!」
「でも、機材とか、揃えるの、大変そうだし……それに、私には、小説をバズらせるという至高の使命があるし……」
と、言いつつ、妻も満更でもない様子だった。
このまま押せ押せで押したら、押すな押すなで押されてしまいそうな勢いであった。
「……そういえば、おまえの『俺のカノジョに血と薔薇を』の続編にして、18禁のBLなお話の、主人公は、ちょっと押しに弱すぎやしないか……?」
と、わたしは率直な感想を述べてみた。
「あら、やだ、あなたったらーーちゃんと、読んでるのねん!ーーでもね、BLの主人公っていうのは、み〜〜〜んな、押しには弱いのよ!押しに押されていくとこまでいっちゃうのよ!」
「そ、そうか?!そうなのかっ?!……わたしはBL小説やら、読んだことがないから、よくわからないが、アレが、よくある展開なのかっ?!」
「アリアリのモハメド・アリよ!」
と、妻は亡き往年のプロボクサーの名をもじり、
「アレが、平常なのよ!BLって、怖いわん!」
「そうか……しかし、アレをうら若き乙女の皆様方がお読みになるというのだわな……」
「乙女の皆様方も、18歳以上なら、許されるのよ!18歳以下の乙女の皆様方は、まだ読めないから、絶対にアクセスしちゃダメよ!!」
「そうだな!18歳以下の乙女の皆様方は、続編は気になっても、本編だけお読み下さい!!だなっ!!」
「そうよっ!」
「そうかっ!」
わたしは、ウンウンと頷き、腕を組んだ。
小説の世界というのは、奥深い。
「しかし、おまえ、三日も更新休んでたら、少ない読者の皆様方も、離れて行ってしまうのではないか……?」
わたしは、恐るおそる、懸念していることを口に出してみた。
「大丈夫!もとより、ブクマは、あなたのくれた一件だけよ!!」
「そうかっ!それなら、安心だなっ!!」
あまり大丈夫でも安心でもないような気もしたが、わたしも妻に応じたのであった。
……というわけで、18歳以上の乙女の皆様方は、妻の小説のアクセス数稼ぎに、ム◯ンライトノベルズを覗きに行って欲しいので、あった。
……18歳以下の乙女の皆様方は、くれぐれも、くれっぐれも、アクセスなさらないように……なので、あった。




