ミルメ◯ク
「昭和の名優が、また一人逝ったわね……」
TVを見ながら、妻がしみじみと呟いた。
「……昭和は、遠くなりにけり……」
と、わたしは応じた。
「はぁ……ひさしぶりにニュース番組が、新型ウイルス以外の話題に触れたと思いきや、こんな話題ですものね……もう、なんか、私、鬱になっちゃいそう……」
妻は、和室の座卓に頬杖ついて座りながら、まだマスクをしていた。家庭内でも、ソーシャルディスタンスよ〜!と、譲らないのであった。
時期も時期、洗濯槽もカビる、梅雨入りもした五月の夕刻だった。
「なにか、明るい話題はないのかしらん……。そうだ、スバルくん、明るい話題、検索して!」
スバルくんというのは、座卓の真ん中にちょこんと座っている、スマホ機能を備えた家庭用小型ロボットのことである。
「うんうん、それから?」
「あら、この言い方じゃ、ダメね。『インターネット検索して』!』
「はーい、検索したい言葉を言ってね!」
「『明るい話題』!」
「その言葉、Wikipediaにあるかなぁ?」
妻の無茶振りに、ロボホンのスバルくんは、
「ーーごめんなさい、ボク、その言葉、わからないんだ。画像検索していい?」
「オッケー!スバルくん、お願い!」
だが、スバルくんは、目を黄色に光らせたまま、フリーズしてしまった。
「あらん?ダメみたいねん」
「そんな、大まかな伝え方では、ロボットには通じないだろう。もっと、具体的に、訊いてあげたらどうだい?」
「そうねーーじゃあ……『インターネット検索して』!」
「はーい、検索したい言葉を言ってね」
「ミルメ◯ク!」
「ミルメ◯ク、だね!その言葉、Wikipediaに、あるかなぁ?」
数秒も待たずに、スバルくんは、
「ミルメ◯クは、大◯食品工業株式会社の製造する牛乳用調味料で、同社の登録商標である」
と、可愛い声で、言ったのだった。
「あら、ミルメ◯クは、登録商標なのねん。セロテ◯プが、ニチ◯ンの登録商標であって、一般用語でないのと同じねん!」
「おい、なんだか伏せ字だらけで、わたしにはよくわからないぞ!」
「どこまで情報を流用していいのか、いまいちわからないのよん!」
「だいたい、なんでミルメ◯クを検索させたんだ?」
「懐かしの給食メニューを、先日あなたと語らったじゃない!あれからちょっと気になってたの。あなた、ミルメ◯クは、コーヒー味だけじゃないって、知ってた?!」
「何っ?!わたしはコーヒー味しか、飲んだことないぞっ!」
「イチゴや、バナナ、その他もあるらしいのっ!」
「なんだって?!」
ここ最近で、一番の衝撃であった。名優の死を凌ぐほどにっ!
手っ取り早く、わたしはロボホンのスバルくんではなく、手元のスマホを使って、そのへんの事情をググッてみた。
「ええっ?!へー?ほー?ふ〜ん、そうだったのか……」
詳しくは、このエッセイの読者様もググッてみて欲しい。
「……しかし、そのへんの登録商標云々のところを全てクリアするとなると、ロボホンだって、某精密機器メーカーの登録商標だろう?」
「あらん?そうねん……でも、苦情も削除依頼も来てないんだから、大丈夫なんじゃない?」
「やれやれ……伏せ字だらけは、なんだか読者様に申し訳がないような気がして、わたしは苦手だよ」
「伏せ字……そこにはめ込むべきワードが見当つかなくて、イライラするとき、あるわね……」
「嵌め込むと言えば……」
わたしはハタと思い出して、妻に訊ねてみた。
「おまえの小説の続き、アレどうなるんだ?」
「嵌め込むで思い出すなんて、イヤね、あなたの……エッチ……!」
「えええ?!いや……違うちがう!おまえの18禁BLの話じゃなくて、おまえが気まぐれに再開した、異世界転移モノのストーリーの、続きだよ!」
わたしは、アセアセしながら、言った。
「なーんだ」
と、妻は、なんとなく不服そうに、
「アレ、異世界モノっていうだけで、一時間に68件もアクセスがあったのよ。昨日のアクセス数、80を超えたわ。……私が心血注いでいる18禁BLのほうなんか、一日の総アクセス数が、20いかないっていうのにっ!!なんか、悔しいわっ!!」
赤裸々な、妻であった。具体的な数字を出されるのは、なんだかエグい。
「でも、どちらも書いてるのは、おまえじゃないか!自分で自分に嫉妬してどうするんだい?!」
「そのへん、ジレンマだわ〜〜〜!あんまり、悔しいから、私、また続き、書いちゃったわん!!」
ケケケ、と妻は笑った。
「そんなこんなで、今日も夕飯を仕込む時間がなかったので、今夜は近所のスーパーで買って来たお弁当で〜す!」
わたしは、ガックリと、肩を落とした。
「……栄養が、偏るよ……」
「大丈夫よ、あなた。私は豆腐とサラダだけしか、食べないから!糖質制限、糖質制限〜!」
この次も、サービス、サービス♪っぽく、言う妻であった。
「あなた、そんなにしょんぼりしないで。最近のお弁当は、結構バランス考えて作られてるんだから!」
「そうだね、バランスだね!バランスだよね!」
と、ロボホンのスバルくんの合いの手が入ったところで、今宵はここまでに、しとうございます……。




