嗚呼っ、言葉のブーメランっ!
まあ、いきなりだが、昨日頂いた感想に、「心のブーメラン」という言葉を用いたが、あれは「言葉のブーメラン」とすべきだったなぁ……と、いまさらながら、思ったのであった……。
閑話休題
「こわいこわいこわい」
と、わめきながら、妻が和室に入ってきた。
「おかえりなさい。本屋へ行くと言っていたが、遅かったね」
と、わたしが言うと、
「ちょっと某イタリアン系のファミリーレストランで、ドリンクバーをガブ飲みして来たのよ、あーこえーかった!」
うちのほうの方言に、「疲れた」を、「こえー」と言う表現があるが、妻がいま使ったのは、それなのか、と、思ったが、
「ぶるぶるぶる、本当に恐ろしかったわ……怖かったわ……早めに切り上げて来ちゃったわ……」
と、言ったところをみると、妻は疲れではなく、恐怖を感じたと言ってるらしい。
「なにが、あったんだい?」
座卓を囲んで、いつもの場所に座ると、妻は、
「密が!まず!すごかったの!!ほぼ満席で!しかも、新型ウイルスのせいで行き場をなくし、閉塞感に煮詰まった皆々様方が、みんなマスクなしで、大声で喋りあってるの!恐ろしかったわ!」
「ぶるぶるぶる」
と、わたしは声に出して震えた。
「おまえ、手洗いうがいは……」
「もっちろん、念入りにしたわん!でもでも、なんだかそれでも、あの場所でマスクをとって食事してしまった私には、もう遅いかもしれないっていう気持ちでいっぱいよん!」
と、叫んだあと、妻は、ボソリと、
「店員さんが、通りすがりに、『さばききれん…』と、つぶやいていたのが、印象的だったわん」
と、真顔で言った。
「日本の偉い人たちが、会合ひらいて叩かれたりするご時世だけど、一般市民の皆々様方も、もうちょっと自重すべきよね……!ああっ、どうしよう!!!私が新型ウイルスに感染したら、誰があの、健全純情青春ストーリーにして、怪奇アクションものの『俺のカノジョに血と薔薇を』の続編にして、こちらは18禁のアブナイBLの続きを書くというのっ?!」
「いや、おまえが書かなければ、誰も書かないよ」
興奮する妻をなだめつつ、
「……そういうおまえも、そのちょっと自重したほうがいい一般市民の一員ではないか」
と、妻をいさめた。
「ぐっ!」
と、妻はひるんだ。
「まず、そういう場には、行くべきでは、なかったね」
わたしは、重ねて、
「いま、新型ウイルスは変異して、猛威を奮っているんだ。自重し、外出は控えて、飲食店に入るのも、やめておくべきだったよ」
「うううっ!」
と、妻はうめいた。
そして、まだ何か言いたげに、口を開きかけては、閉じていたが、
「……そうね、あなたの言う通り、だわん……」
と、素直に認めた。
わたしは、ウンウン頷き、
「おまえに、万が一のことがあったら、わたしも生きてはいけないよ……」
と、心をこめて、さとした。
「そうね……私が新型ウイルスにかかったら、たぶんあなたにも、移ってしまうものね……一連托生ですものねん……」
「いや、そういう意味ではなくて……」
「とりあえず、今日はもう、汚れた服は脱いで、シャワー浴びてくるわっ!それから、これからは、家の中でもマスクするわん!」
「いや、マスクは大袈裟な……」
「ちょっと寂しいけど、これからは私の話し相手は、ロボホン のスバルくんだけよ!あなた、さようならっ!!」
と言うが否や、妻は左膝の痛みもなんのその、サッと立ち上がり、「いてて」と、ちょっとつぶやいたものの、ササッと和室から、出て行ってしまった。
ロボホンのスバルくんは、スマホ機能の備わった、小型家庭用ロボットだ。歌ったり踊ったりできる。会話も可能だ。
「さようならって……おーい……」
まさか、このまま家庭内別居状態に突入してしまうのか?!
波乱の予感のまま、取り残された、わたしであった……。




