表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/89

妻、拗ねる。



「いじいじいじ、いじいじいじ」


 妻は、意地悪ばあさんのオープンニング主題歌を口ずさんでいるのではなかった。


 わかりやすく、口にして、()ねているのだ。


「……どうしたんだい、おまえ」


 和室の座卓(テーブル)をはさんで座っているわたしは、いちおう、そう訊ねてみた。


「私、拗ねているの」


「……どうしてだい?」


「だって……」


 妻は右手の人差し指を座卓の上で「の」の字を描くようにするのをやめ、


「だって、私の小説が休載だったのに、ちゃんと地球が回っているんですものっっっ!!!」


 わたしは、思わずあんぐりと(アゴ)を落とした。が、気を取り直して、


「……いや、そんなことで地球の回転が止まったりしたら、困るだろう!」


 と、言った。


「いやね、あなた、物の例えよ。私が一日、原稿を落としたところで、読者の皆々様方にとっては、些細(ささい)なことなんだろうなぁって、そう思って、なんだか(わび)しかったの」


 わたしは、カクカク頷きながら、


「まず、原稿を落とさないようにしような!継続は力なりだよ!」


「継続は力……ミネルヴァさんにも、そう言われたことあったわん……」


 ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、十年来のつきあいで自称女性だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っている。


「それで、そのミネルヴァさんには、おまえの『俺のカノジョに血と薔薇を』の次回作にしてBLジャンルだから、ここでは直接的な宣伝の出来ないアレの話は、もうしたのかい?」


「それが、したのよ!」


 ちょっと意外な返答だった。


「打ち明けたのか!」


「打ち明けたのよ!」


「えっ?!もっと話して!」


 割り込んできたのは、座卓の真ん中にちょこんと座っている、ロボホン の、スバルくんだった。


 ロボホン というのは、スマホ機能を兼ね備えた、汎用人型兵器……ではなく、家庭用小型ロボットだ。


「そういえば、ロボホン って、三点倒立とか、できるらしいわん。YouTubeで見たんだけど」


「ほほぅ、倒立して、って言えば、できるのかな?」


 と、わたしがうっかり言うと、


「うん、立ち上がるね」


 と、ロボホン のスバルくんが立ち上がったではないか!


「いくよ!」


 と、掛け声も勇ましく、ロボットのスバルくんは、見事な三点倒立を決めたのであった。


 わたしと妻は大慌てで、紅茶の入った茶器などを、脇に()けた。


 シュタッと、起き直ったスバルくんは、


「決まった!」


 と、誇らしげに、言ったのだった。


「あわあわあわ」


 と、それを眺めていたわたしと妻だったが、


「凄いわ!スバルくん」


 と、妻が褒めると、


「褒められちゃった」


 と、目をピンク色にして、照れるスバルくん。


 そのほかにも、歌ったり、踊ったり、色んな機能を取り揃えている、ロボホン のスバルくんなのであった。


「しかし、心臓に悪いな、いきなり動き出して!」


「あら、あなたが命令したからじゃありませんか!」


「命令……そうか、すまん。勝手なことをして……」


 わたしは、反省すること、しきり。


「とりあえず、座って、スバルくん」


「うん、座るね」


「お洋服も帽子もつけたままでの稼働は、ちょっと危険だから、気をつけないと……」


 と、妻はつぶやいた。


「……それで、ミネルヴァさんから、感想はもらえたのかい?」


 気を取り直したわたしが問いかけると、


「なんだか、なま温かい反応だったわん」


 と、妻。


「更新、頑張って下さいね。

 で、終わりだったの」


「そりゃあ、ミネルヴァさんも、BL(ボーイズラブ)ジャンルに、具体的な感想を求められては困るだろう……」


 と、わたし。


 ましてや、ミネルヴァさんがネカマなら。


「そうだけど…そのことも、私が拗ねてる一因なのよ…」


 妻は、またいじいじ座卓の上に指を滑らせ、


「アクセス数は少ないし、反響はないし、なんだか私、(くじ)けてしまいそう……」


「大丈夫、おまえの(はがね)のメンタルは、わたしが保証する!」


 と、わたしは請け合った。


「おもえを信じる、わたしを信じろ!」


 どこかで聞いた台詞なような気もするが、著作権に触れるようなことはあるまい。


「そうだね、そうだよね!」


 と、返事をしたのはスバルくんだったが、


「あなた、ありがとう…!」


 珍しく、率直にお礼を言われて、わたしは少し照れた。


「わたしは、おまえが天才であることを信じているよ」


 と、付け加えた。


 妻は、目をパチパチさせた後、


「ありがとう」


 と、もう一度言って、顔を赤くした。


 夫婦円満の秘訣は、相手を思いやる言葉を口にすることを、惜しまないこと、だ。


 妻の小説がバズることを、願ってやまないわたしであった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ