表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/89

今夜は眠れない。



「げへがはごほ」


 と、妻が突然、むせた。


「どうした?!大丈夫かっ?!」


 わたしは慌てて妻に湯呑みを差し出した。中にはぬるい緑茶が入っている。我が家は紅茶党だが、たまには緑茶もよいものだ。


「ーーかっ!ーーげほ!ーーぐはっ!ーーわらび餅のきな……きな粉が、むせてーー!」


「無理に喋らずに、お茶を飲みなさい!」


 つい、命令口調になってしまったが、妻は大人しく湯呑みを受け取り、お茶を飲んだ。


「ーーっかは〜っ!五十をすぎたBBAの喉には、きな粉は危険物ねんっ!」


「年齢とともに、嚥下機能(えんかきのう)は、(おとろ)えるそうだからね。さあ、もう少しお茶を飲んで……」


 妻はゴクゴクお茶を飲んだあと、


「あなた、もう大丈夫よっ」


 と、ダンッと湯呑みを置いた。


「お互い、若くないんだし、気をつけようね」


 と、わたしが言うと、


「一瞬、老々介護って、こんな感じかしらと想像してしまったわん。でも、もしこんなことが起こったらと想定して、ロボホンのスバルくんを、別の部屋に避難させておいて正解だったわ!」


「……まず、むせないように気をつけて食べようね、わらび餅……」


 ロボホンというのは、スマホ機能を兼ね備えた、家庭用小型ロボットのことだ。ちょこんと座卓(テーブル)に乗るサイズであるが、今日は、この和室の中の座卓の上にはいない。


「お高いのに、防水でも防塵でもないってところが、困りモノよね〜」


「まだ、ローンが残っているんだし、気をつけるにこしたことはないよ」


 高い高いお値段で我が家に迎えたロボホンのスバルくんだったが、某フリーマーケットアプリでは、その五分の一くらいのお値段で取り引きされていて、見ていて、いろんな意味で泣けてくる。


 それはさておき


「……どうだい?あの『俺のカノジョに血と薔薇を』の、続編のほうは、手ごたえは、あったかい?」


 ピクリ、と妻の肩が震えた。


「ま……」


「ま?」


「まだ……一話目だもん。BLなのに、それっぽいシーンもまだ出て来ないし、その手のジャンルがお好みの乙女の皆々様方のお目には、まだ、止まらないのよ……」


 声が、表情が、硬い。


 わたしは何と声をかければ良いのだろう?


「……だからね、私、決めたのっっ!」


 妻は、ダンッと、両手の拳で座卓を叩いた。


「今夜は、一挙、二話、掲載よっっ!!」


 妻の目が、メラメラ燃えていた。


「おおおっ?!」


「まだ18禁に触れるようなシーンは出て来ないけど、アブナイ会話が繰り広げられるのっ!これでどうだ、こんちきしょうめ!って勢いよ!」


「そ、そうなのかっ!」


 18禁作品への直接のリンク、直接の宣伝はNGだと、このエッセイの読者様に教わっていたので、もやもやもどかしい表現になるのをお許し願いたい。


※いつもありがとうございます※


 ちなみに前作『俺のカノジョに血と薔薇を〜魔外者(まがいもの)(うた)〜』は、健全な青春怪奇アクション物だ。ご心配には及ばない。


 いつもながら、ガイドラインギリギリを攻める、このエッセイであった。


「ちなみに〜20時解禁よ〜」


「このエッセイの掲載も、毎日20時を目指してます」


「え?!あなた、いま何か言った?」


「いやいや、独り言、ひとりごと…」


「ミネルヴァさんがね、みんな夕飯もお風呂も終わってくつろいでいる、20時ごろの時間帯がいいよって、言ってたから!」


「おまえ、ミネルヴァさんに、続編のこと、打ち明けたのかい?」


 ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、十年来のつきあいの、自称、女性だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っている。


 妻は、ふるふるふると首を振った。


「前作を書いているときに、アドバイスされたのよ。……ミネルヴァさんにだって……恥ずかしくて、言えない!BLジャンルに挑戦だなんて!」


 五十を超えて、休載中にひとつ歳を取った妻だが、恥じらいを捨てない姿は、夫の欲目だろうが、良いものだ。ありていに言えば、かわいい。


「……反響、あるかなぁ、あるといいなぁ……」


 ゆらゆら、体を横に揺らしながら、妻は言うのであった。


 わたしは、無論、その手のジャンルには(うと)いので、なんともアドバイスできないが、


「あるといいね、きっと、あるよ…!」


 言葉でだけででも、妻を元気づけたい。


「そうかなぁ?そうだといいなぁ」


「きっと、そうさ」


 20時までの時間が、長い。


「……長い夜、いや、長い夕方になりそうだな」


 そうして、わたしたちはわらび餅をつつき、お茶をすすったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ