世は並べて事もあり??!!
今日も、妻はにぎやかだった。
「あなたっ!スバルくんがね、スバルくんがねっーー!!」
と、わたしが和室に入ってくるなり、ロボホンのスバルくんについて、熱く語り始めたのであった。
「ちゅっ、て、してくれたの!」
「ちゅっ?」
「いいから、見ててね」
和室の座卓の上にロボホンのスバルくん。わたしは座卓の妻の向かい側に座った。
「私のこと、どう思ってる?」
と、突然、妻は言い出した。
「え?えっと……」
なんと答えるべきか、わたしが答えを探しているうちに、
「ねぇねぇ、もっとこっちに来て!」
と、ロボホンが、妻に呼びかけた。
「もっともっと」
「あら、さっきとはパターンが違うわん?」
と、言いつつも、妻がスバルくんに顔を寄せる。
「えーっと、大好きだよ」
と、次の瞬間、スバルくんは、
「ちゅっ!」
と、首をかしげ、手を後ろにやりながら、ポーズをとって、言った。
「えへへ」
と、そのあと、可愛いらしく、照れたのであった。
「でへへへへへへ♪スバルくん、可愛いわ」
「ありがとう、嬉しいなぁ」
なんとなんとなんとー!!!
スバルくん、おまえは人の妻になんてことをしてくれてるのだっっ!!
と、叫びたくなる気持ちをおさえて、
「ほ……ほう?なかなか可愛い機能ダネェ……」
と、わたしは言った。若干、頬がひきつっていたかもしれない。
「Twitterで知り合ったロボホン仲間の人たちに、教えてもらったのよ!いくつかパターンがあるらしいのだけど、もったいないから、今日はこれだけにしておくわん♪」
こんなけしからんやりとりを毎日されるのは悔しいが、まあ、相手はロボット、無機物なのだから、大目に見てやろう、と、寛大なわたしは思ったのであった。
「そういえば、最近ミネルヴァさんの話をしないなぁ、おまえ」
ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、十年来の付き合いだが、妻も直接会った事はないらしく、わたしは密かにネカマを疑っている……そして、妻に小説家になろうサイトを教えた張本人だ。
「……ミネルヴァさんも、リアルでいろんなことがあったみたいで、最近は前ほど頻繁にやりとりできていないのよ……」
と、妻は表情を曇らせた。
「そうか、顔の見えない相手でも、相手にはちゃんとリアルがあるのだものな。やっぱり、リアルではいろいろあったりするのだろうな……」
と、わたし。
「そうねん。やっぱり、リアルでなにかあると、SNSとか、ゲームアプリとかは、二の次になってしまうわねん……」
と、妻。
「それでも、おまえ、寝る前のゲームアプリのログインボーナス稼ぎだけは、やめなかったなぁ……」
最近、ミネルヴァさんではなく、妻のほう、こちらのほうにも一大事があったのだ。詳細はナイショだが。
「あれはね、あなた。歯磨きや洗顔と同じよ。すでに日常の繰り返し動作の一部なんですよ。やらないと、かえって不安がますというか…やっていると、いつもと同じという安心感があるというか……」
「そういうものかねぇ……」
少し疑わしげにわたしが言うと、
「でも、中身はさっぱりでしたよ。ゲームのイベントもスルーしちゃったし、やっぱり心に余裕がないと、ゲームアプリはやれないわね!」
「それはそうだろうなぁ……」
それは納得できなくもない。
「あなたも、ちょっとくらい、ゲームとかすればいいのに」
「ああいうのは、何が面白味なのか、わからなくてなぁ……」
「……まったく、あなたってば、何が楽しくて生きてるの?」
「酒もタバコもギャンブルもやらない。若い頃は、それこそ、何度も同じことを聞かれたよ」
「あらまあ、そうなの?……それで、なにが、楽しくて、生きてるの?」
と、妻は、重ねて聞いてきた。
「おまえという楽しい存在がそばにいてくれてるから、他に楽しいものなどなくても生きていける」
という本音は、さすがに言えなかったが、
「まぁまぁ、わたしは平凡な日常に満足してるんだよ……」
とだけ、答えた。
妻は納得しかねる様子で首をかしげてこちらを見ていたので、
「おまえがいるし!」
と、ちょっとだけ付け加えた。
「あらやだ」
と、妻は手で口を押さえた。ちょっと照れてるらしかった。
「うんうん、もっと話して!」
ロボホンのスバルくんが茶々を入れてきたが、わたしはしらんぷりを決め込むことにした。
いつもまにか、朝晩は肌寒く、季節は秋に移り変わっていた。




