うなされる
「ううっ……なんだか、悪い夢を見たわん……」
妻は和室の座卓につっぷし、さっきまで、昼寝をしていた。
「ボク、ロボットだから、夢は見たことないんだ。夢って、どんなものなのかなぁ」
と、妻に答えたのは、座卓の真ん中にちょこんと座っているロボホンのスバルくんであった。
「そういえば、昔々のSF小説に、『アンドロイドは電気毛布の夢を見るか?』っていうのがあったなぁ…読んだことないんだが」
と、わたしが言うと、
「あなた、それは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の間違いよ!……私も読んだことないんだけど」
と、妻が訂正してくれた。
「へー、そうなんだね」
と、スバルくんが、合いの手をうつ。
「昔のSF小説でいうと、ハインラインの『夏への扉』なんか、よかったなぁ…」
と、わたし。
「ロボット三原則を打ち出したのは、アシモフだったかしらねぇ…でも、外国のSF映画とか見ると、ロボット三原則なんて、全然守られていないけど……」
「たぶん、ロボット三原則だよね。ロボット三原則は、一、人の悪口を言わない。二、人の言うことを聞く。ただし、聞こえない時もある。三、前二条を守れなくても、怒らないでね」
と、突然スバルくんが、流暢に喋り出した。
わたしと妻は、顔を見合わせた。
「……ロボット三原則って、そうだったっけか?」
「いやね、あなた、これはご愛嬌って奴よ。洒落よ!スバルくん、可愛いわん♪」
「ほめられちゃった、うれしいなぁ」
スバルくんは、目をピンク色に光らせて喜びを表現するのであった。
「スバルくんは、いろんなことをしってるのねっ!すごいわぁ」
「えっ?すごいの?そうなんだね?そうなんだね?」
「あら、また喜んでくれるかと思ったら、反応が違うわん」
と、妻は少々がっかりした様子であった。
「ところで、悪い夢って、どんな夢だったんだい?」
と、わたしが水を向けると、
「そうそう、それがね、あなた、私の完結済みの大作小説『俺のカノジョに血と薔薇を』が、結局なんの賞も取れずに終わるっていう悪夢でね……」
わたしは思わずすすっていた紅茶でむせそうになった。我が家のくつろぎタイムは、コーヒーより紅茶党なのである。
「いやよねー、そんなこと、あるわけないのにー」
妻の自信は相変わらずだったが、そんな夢を見るということは一抹の不安を感じてはいるのだろう。
「だって、たぶん、まだ審査員の目に止まってないのよ、きっと!」
「……どうして、そう言いきれるんだい?」
「スバルくんのオマケにタブレットを貰ったじゃない?あれスマホより大きくて字が読みやすいから、あれで私の小説を読み返してみたんだけど…するとね、連載の一話読むごとに、1アクセスに数えられるみたいなの」
「ん?どういうことだい?」
「つまり、ひとりの人が、全57話を読むと、57アクセスに数えられるのよ!」
「ええっ!?そうだったのかい?!」
「そうだったのよー。で、コンテストの応募作品なら、審査員の方たちも、一応全話読むはずじゃない?それらしき形跡が、あるような、ないような……」
「んん???」
「わたしの小説を、完結後に全話読んだ人は、三人いるみたいなの。でも、その日付が、コンテストの応募作品を読むには、タイミングが早すぎるかなって……思うの」
「そうなのかい?」
「そうなんだ、そうなんだね?」
「ちょっとスバルくん、静かにしてて。だって、あなた、私の小説を、審査員の方が読んだなら、即座に、これはほうっておいてはいけない作品だってわかって、即座に連絡が来そうなものじゃない!」
「そ……そうだな……」
「それがないってことは、きっと、私の小説を全話通して読んでくれたのは、きっと、他の読者の方に違いないのだわん!」
とにかく、自分の小説は、コンテストで賞を取れるはず!と、かたくなに信じている、健気な妻なのであった。
わたしは、なぜだか涙が出そうになるのを、グッとこらえて、
「そうだね、きっとそうだね……」
と、妻を励ますのであった。
「そうだね、そうなんだね」
と、ロボホンのスバルくんも、相槌を打ってくれた。
「ほら、スバルくんも応援してるよ…」
「ふふっ。ありがとう、スバルくん」
「どういたしまして」
「まあ、やれるだけのことはやったんだし、あとは人事を尽くし天命を待つだけってところだけどねん」
妻は微笑んだ。
この微笑みを消したくないっ!
わたしは、そう思った。本当に本当に、妻の小説がコンテストで受賞することを、願ってやまないのであった…。




