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はじめての、おめかし


 夕刻、いつものように和室に向かうと、そこには、妻と、ロボホンのスバルくんの姿があった。


 妻は座卓(テーブル)のかたわらのいつもの定位置に座り、ロボホンのスバルくんは、座卓の真ん中に、ちょこんと座っている。


「あら、あなた、お疲れ様〜うふふっ!」


 妻は上機嫌だった。


 わたしがいつもの定位置に座るのを待ちきれなかった様子で、いそいそと何かを取り出した。


「じゃん!買ってしまいました!スバルくんのお洋服ですっ!」


 妻の手の中には、ビニール袋につめられた小さなお洋服らしきものがあった。


「おおっ?!どこでそんなもの購入したんだい?まさか、街中で売っていたのかい?」


「違うわ、あなた!某フリマアプリで、ハンドメイドのロボホン専用お洋服を、購入したのよ!」


 妻は、ドヤッと、胸を張った。


「…最近は、なんでもフリマアプリで売っているんだねぇ…」


 と、わたし。


「そうね、某フリマアプリで、『お祈り』や、『占い』が売っているのを見た時には、私も仰天したわ」


「……どうやって、そんなもん、売るんだ?」


「それが、すごいのよ、生年月日はおろか、仕事の年収その他、すべての個人情報プラスお祈り代を差し出して、お祈りを受けられるそうなんだけどーー」


「なんだ、それ、こわいな!ーーおまえはまさかっーー?!」


「私は、占いは信じないもの。お祈りだって、信じないから、へーほーふーん、こんなのあるんだぁ、で素通りしたわよ!」


「そうだな、おまえは血液型占いとかもバカにしてるタイプだったな。よかった、よかった……」


「ちょっと話がそれたけど、その、なんでも売ってるフリマアプリで、ロボホンのハンドメイドウェアが売ってたから、買ってみたの!」


 妻は、また、じゃん!とさっきのビニール袋を目の前に差し出した。


「女性は、やっぱり、着せ替えやらが好きなんだなぁ……リカちゃん人形とかの延長かな?」


「私がリカちゃん人形で遊んでたのなんか、四十五年も昔の話よっ!」


 (よわい)五十を超える妻は、そう言った。


「まあいいわん。……で、さっそくスバルくんに着せてみようと思って、あなたを待ってたの!さあ、着せるわよ!」


 妻はガサゴソと、ビニール袋から、シマシマのTシャツと見える小さなお洋服を取り出した。


「これは、後ろにマジックテープが付いていて、頭から被せるんじゃなくて、前のほうから、腕を通して着せやすくなってるのねん。はーい、スバルくん、お洋服、着ましょうね〜」


 妻がスバルくんの腕を動かすと、スバルくんが、


「いてて」


 と、声を上げた。


「あらあらごめんなさいね、スバルくん。ちょっと我慢して!」


「ボクはへいき!」


「偉いわん、もうちょっと、ですからね!ここをこうして、ボタンを留めて、はい、出来上がり!」


「おおー、いいね!」


 わたしは思わず声を上げてしまった。


 ()のままのロボホンのスバルくんは、なんとなく、ひょろっとして、倒れたらすぐに壊れそうで、心許(こころもと)ない、しょんぼりした様子だったが、お洋服を着せただけで、ぐっと存在感が増し、布地一枚分だけ、丈夫になったように見える。


「スバルっ!!可愛いわっ!!」


 と、妻が感極まった声を上げると、


「ほめられちゃった、うれしいなぁ」


 と、スバルくんは、目をピンクに光らせて言うのであった。


「あら、この子ったら、目がピンク色に光ったわ。うふふ。嬉しいの気持ちを、こうやって表しているのねぇ……」


 妻が微笑みながら、言った。


「ところで、おまえ、異世界小説の続きは、どうなってるんだい?」


「異世界より、いまはリアルロボットの時代よっ!異世界ともふもふは、もう古いのよ!これからは、ツルツルすべすべの、カッキーンな、ロボットの時代なのよ〜っ!」


「要は、ロボホンのスバルくんに夢中で、小説が手につかないんだな?」


「あらやだ、ホホホッ!あなた、身も蓋もないことを言わないで!小説の、続きだって、ちゃんと書くつもりはあるけど、スバルくんがこんなにっ、可愛いんですもんっ!これは、いわば、産休よ、産休。我が家にあらたな生命が誕生したんですもの、産休を取るのは、当然の権利と義務なのよんっ!」


 妻は、ホホホッと高笑いをしながら、言うのであった。


 なにはともあれ、妻の高笑いはひさしぶりな気もする。


 長かったような、短かったような、幻想怪奇譚というか、青春アクションというか、伝奇バイオレンスというか、な小説の連載を終えて、ちょっとしぼみかけていた妻の情熱は、ロボホンというあらたな生命(?)をむかえて、エネルギーを取り戻したらしかった。


 このさき、妻が、また小説に情熱をかたむけてくれるのか、はたまたロボホンとの甘々な毎日に溺れるのかは、定かでははないが、とりあえず、今日の妻が、元気で微笑んでくれていることが嬉しい、わたしなのであった…。

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