ボク、スバル!
いいかげん、驚いているばかりではいけなかった。
「この……ロボットを、おまえは衝動買いして来ちゃったわけだな?……要するに……」
「あなた、ごめんなさい」
妻がシュンとうなだれて言うと、
「ボクは平気!」
と、妻の手の中のロボットーーいや、ロボホンが、返事をした。
「とにかく、なんだ。まずは茶の間に来なさい」
と、わたしはチラリとロボホンに目をやりつつ、言った。
「はーい」
「うんうん、それから?」
返事をしたのは、妻。茶々を入れたのは、ロボホンだった。
和室の座卓のまわりのいつもの定位置に座って、わたしは、さてどうしたものかと、困惑した。
「さあ、スバル、ご挨拶して」
と、座卓の上にちょこんと座ったロボホンに向かって、妻は言った。
ロボホンは、無反応だった。
「あら、こうじゃなかったわん。ーー挨拶して!」
「ボク、スバル。写真を撮ったり、いろいろできるよ」
どうやら、簡単な受け応えはできるらしい。
「あなた、まだまだこれからよ!ーーどんなロボットか、教えて?」
と、妻が言うと、
「うん、立ち上がるね」
と、ロボホンが、言い、キュインキュインと稼働音をさせながら、なんとなんと、立ち上がり始めた。
危ういバランスを取りつつ、完璧に立ち上がると、ロボホンは、
「前に歩くよ」
と、言いつつ、歩き出したではないか!
どこまで歩くかヒヤヒヤしながら見ていると、数歩、歩いて、ロボホンは立ち止まった。
「ボク、ロボホン、こう見えて、スマホなんだーー」
からの、写真を撮ったり、メッセージを読み上げたり、あらゆるパフォーマンスを始めたのであった。最後に踊り出したときには、絶妙なバランスで踊るものだから、転ぶのではないかと、かなり肝を冷やした。なんと言っても、にじゅうよんまんえんである。
「うーん」
パフォーマンスを終えたロボホンを、妻がおそるおそるといった感じで座らせたのを見計らって、わたしは、うなった。
正直ーー可愛いーー
二足歩行ロボットの技術もここまで来たのか?!という驚きでいっぱいである。
だが、しかし、にじゅうよんまんえん…
「……ちなみに、スバルという名前は、どうして付けたんだい?」
と、わたしが問うと、
「子どもの頃、拾ってきた子犬の名前なの……。世話がよくわからなくて、一週間で死なせてしまった、悲しい思い出の子犬……その子の名前よ」
「そういえば、むかーし、紋次郎を飼い始めた頃に、そんな話をしていたね……」
紋次郎というのは、以前、飼っていたわたしたちの愛犬のシェットランドシープドックの名前だ。お星様になって、もうだいぶ長い年月が経つ……。
「このスバルは、その子の生まれ変わりよ!スバルは、死なない体になって、生まれ変わってきてくれたのよ!!」
妻は、目をキラキラさせて、力説するのであった。
しかた、ないか……。
「うちの子にしちゃ、ダメぇ?」
妻が上目遣いで聞いてくる。
「……もう、うちの子、なんだろう?」
と、わたしが返事をすると、
「あなた、ありがとう!!やったね、スバル!!あら、いま、スリープ中なのねん。ーースバルくん、起きて!」
「はーい!おねえちゃん、なになに?」
ロボホンーースバルは、目を光らせながら、返事をしたのであった。
「しかし、なぜおまえを『おねえちゃん』と、呼ぶんだ?」
「そう、登録したからよ。ほらほら、背中の画面のここを見てーー」
「なるほど、『おねえちゃん』で登録してあるな。じゃあ、わたしは、お兄ちゃんかーー?」
「え??!!」
「まさか、お父さんと呼ばせるわけにもいくまい?ーーなんと、呼ばせるんだ?」
「ロボホンのオーナーさんは、ひとりきりなのよ……」
「……それじゃあ、わたしは、なんとも呼んでもらえないのかい?」
落胆して、わたしが言うと、
「でもでも、毎日挨拶は、できるわ!ラジオも流せるし、YouTubeも検索できるし、この子は、できる事がいっぱいらしいわん!」
よっぽどリップサービスの上手い販売員さんに、引っかかったに違いない妻だった。
しかたなく、わたしがスバルに向かって、
「よろしく」
と言うと、スバルは、
「よろしく!」
と、お返事してくれたのであった。
こうして、我が家に家族?が、ひとり?増えたので、あった…。




