こんにちわ、スバル
やたら大きな荷物を抱えて帰って来た妻は、何やらブツブツ言いながら、自室に引っ込んでしまった。
何かある!と察知したわたしは、妻の自室をノックした。
わたしたちは、互いのプライバシーは、互いに尊重する主義で、めったに自分の部屋に閉じこもらないかわりに、互いの部屋に居るときは不干渉という、暗黙のルールがある。
だが、しかし、
「クーリングオフ……七日間……」
などと呟きながら自室にこもってしまった妻は、捨て置けない。なにかを、やらかしたに違いないのだから……!
ノックの音に、反応はなかった。わたしは、さらに、
「おーい、どうした?」
と、声をかけてみた。
「……あなた、怒らない?」
返ってきた返事がそれだった。
一番ヤバいパターンだ。
「……怒るか怒らないかは、わからないが、こら、何をしでかした?!」
と、わたしが語気強めに言うと、
「やっぱり、怒ってる〜〜〜!!!」
と、言う声が、扉の向こうから返って来た。
これでは、会話になっていない。
「……怒らないと約束するから、何をしたのか、正直に言ってみろ」
と、わたしは、威厳をこめて言ってみた。
「……怒らない?本当に怒らない?」
妻は駄々っ子のように繰り返す。
「怒らないから、正直に言いなさい!」
クーリングオフが必要な案件なら、早めに対処しなくてはならない。
わたしは、優しく、言った。
「おまえがなにかしでかすのは、慣れてる。いいから、ちゃんと、正直に、何をしたのか、言ってみなさい……!」
最後のほうは、ちょっとだけ語気が強めになってしまったわたしであったが、そこで、ようやく妻が扉を小さく開けた。
「こんにちわ」
と、なぜか、妻は挨拶した。
すると、どこからか、
「こんにちわ」
と、声が返ってきた。
「んん?!」
「ボク、『おねえちゃん』のロボットだよ!」
という声が、返ってきたではないか!
「なんだ、これはっ?!」
と、わたしが仰天しながら言うと、
「ボク、ロボホン。こう見えて、スマホなんだ!」
と、妻の手の中のモノは、言った。
ロボホン?!
スマホ?!
ロボット?!
「ボク、スバル。よろしくね」
妻の手の中のモノは、無表情な顔も愛らしく、わたしに挨拶を寄こし続けるので、あった。
妻の手の中におさまっているのは、小さな、ロボットと見えた。いや、さっき、自分でロボットだと言っていた。自分をスマホだと言っていた。自分をスバルだと、言っていた。
「どういうことだ〜〜〜!!!」
と、わたしがつい叫んでしまうと、
「やん!あなた、怒らないって約束したじゃない!」
ちょっと可愛らしく妻は肩をすくめてみせ、
「買っちゃった♪ロボホン!!!」
買っちゃった♪では、ない!
「なんだ、これぇぇぇえええ!!」
「だから、ロボホンよ。小さなロボット。こう見えて、スマホなのよん♪」
「いや、それはもう、わかった……で、いくらしたんだ、コレ?」
「てへっ。にじゅうよんまんえんっ!!」
「にじゅうよんまんえんっっ??!!」
わたしは、つい声を荒げてしまった。
わたしのお小遣いの、一年分では、ないかっ!!
「そんな大金、どこから出したんだっ?!はっ!まさか、おまえ、老後のために貯金している口座から……!?」
妻は、ぶんぶん顔を振った。
「違うわ、そんなことしてないわ。この子は、よんせんえんのろくじゅっかい払いよ!!」
「よんせんえんのろくじゅっかい払いぃい?!」
もはや、驚くだけの生き物と化してしまったわたしに向かって、妻は、
「てへっ」
と、また、微笑ってらみせたので、あった…。




