まあまあまあ
今日も妻は元気に小説書きにいそしんでいたーーと思ったら、そうでもなかったらしい。
「なんか、だるいわぁ……夏の疲れが、一気に来たのかしら?なんかこう、乗り切れないのよねぇ……」
「大丈夫かい?おまえ。体調がすぐれないのかい?小説が進まないのかい?」
「りょーほう」
和室の座卓て、妻はぐでっと、上半身を預けた。
「なんか、ここ最近、身体の調子が悪いのよね……寝る前に、ポテチを一袋あけたり、クッキーを一箱あけちゃったりしてるせいかしらん……」
「……おまえ、それで糖尿の数値は大丈夫なのかい?」
「それがヤバいのよー。明日また検査あるんだけど、これで数値悪かったら、お薬増やされるわ……」
そう言って、妻は紅茶をすすった。
「……こうやって、紅茶はノンシュガーで飲んでるけど、その我慢したぶん、他で糖分摂取してちゃ、意味ないわよね……」
カップをじっと見つめて言う。
「…なにか、ストレスでもあるのかい?前はそんなことしなかったじゃないか」
「ストレス……ねぇ」
妻はまた紅茶を一口すすり、
「あるといえばある、ないといえば……いや、なくはないか……」
「やっぱり、なにかストレスの原因に思い当たるんだね?」
「うん……まあ、身内が緊急手術して、今も入院中ってのは、やっぱりストレスだわ……まあ、やきもきしても、新型ウイルスのせいで、見舞いにも行けないんだけどね……」
「やはり、そうか。最近、あまり眠れてないみたいだし……」
「まあ、それが一番大きなストレスではあるんだけど、まだ、問題が、あるのよ……異世界モノを、書き始めたじゃない?それが、どうも筆が乗らなくて……」
「そう言ってるわりに、文字数は、書いてるようだが……」
「なんかこうね、【俺のカノジョに血と薔薇を〜『魔外者』まがいものの唄〜】のラストシーンを書いていたころに感じた、神がかり的な、なんつーか、手が操られているみたいに動いて、物語が勝手に進む、みたいな手ごたえが、ないのよね……」
「うーん」
創作の悩みというものについては、さすがにわたしも、よくわからない。これは、書いてる妻本人にしか、わからないのだろう。
「まあまあ、【俺のカノジョに血と薔薇を】だって、三ヶ月半という休載を経て蘇ったモノだったし、そんなに急いで次作に取り掛からなくても、いいんじゃないか?」
「でも……書き始めたからには、完結させる義務が、あると思うの……作者には……」
「そう、思い詰めるのが良くないんだよ。今のおまえに必要なのは、リフレッシュだな」
「りふれっしゅ……」
ボンヤリ呟いたあと、妻は、
「そうねぇ、明日はどうせ病院に行くことだし、ちょっと羽を伸ばして、出歩いてくるわ!」
と、言った。
その「おでかけ」が、とんでもないことになるとは、今日のわたしには、知るよしもなかったのであった…。




