リアルって…
毎回リアルタイムでお届けしてるこのエッセイだが、妻の身内で、緊急手術が必要になった方がいて、わたしも妻も気もそぞろであったため、更新ができなかったことを、お詫びしたい。
幸い、その方の手術は成功したのだが、いやはや、妻の心労たるものや、並大抵ではなかった。支える夫たるわたしも、ただオロオロするばかりであった。
こんなとき、男というのは、本当に役立たずで不甲斐ないな……と、自戒した。
とりあえず、危険な状態は脱したということで、わたしも妻もホッとして、家の和室の座卓を挟んで、差し向かいになっているところだ……。
「私って、薄情な女だわ……」
ポツリと、妻が呟いた。
「こんなときなのに、こんなときだからこそ、なのかしらね……こんなことが、起きたのが、小説がひと段落ついた後で良かったとか、思ってるの……」
憔悴している妻に、わたしは労りの思いを込めて、
「誰だって、思うことだよ、それは。仕事が忙しくて忙しくてたまらない時期に、身内に倒れられたら、『なんでこんな時期にっ!』って、思うだろうし、仕事が一山越えたときに、倒れられたら、『仕事がひと段落ついたときで、不幸中の幸い!』って、大人なら、誰しもが思うことだよ……!」
「不幸中の、幸い……」
わたしの言葉を、妻は反芻した。
「おまえが、薄情なんじゃない。そんなことを言ったら、全人類が、薄情だ…!タイミングの良し悪しなんてものは、誰でも、気にするものだよ!」
わたしは続けた。
「ほら、おまえが放置している、異世界モノでも、あったじゃないか!『生理中に異世界召喚なんかされたら、めっちゃ迷惑!』って、くだり……」
「……異世界召喚された若い女性が、生理のことを気にしないのは、めちゃめちゃ不自然なのよん……明日の食料や、これからの仕事より、何より重要なのは、生理の日程なのよん!」
「…そうだね、だから、たまたま自由になる時間ができたときに、身内に病人が出た、なんてのは、たまたま生理が終わってスッキリした後に、異世界召喚された、みたいなタイミングの良さなんだよ…!」
「…タイミングが良いとまで言ってしまうのには、語弊があるけれど、不幸中の幸い…という考え方には、賛同して……いい……のかな……?」
「なんで、こんなときに!!って、思わなくて済んだのは、良いことじゃないか。そんなことを思ってしまったら、なおさら自分で自分がイヤになるだろう?」
「……そうねぇ……」
妻は手元の湯呑みに目を落としながら、呟いた。ちなみに湯呑みの中身は、ホットの紅茶だ。我が家は紅茶党なのである。
ティーカップは洗い物のとき、割れやすいから、と、普段は、わたしはマグカップ、妻は湯呑みで紅茶を飲んでいる。もちろん、ティーカップを使うときもあるのだが…。それに、洗い物は、わたしの役目なのだが、わたしが以前妻のお気に入りのティーカップを欠けさせてしまってからは、良いティーカップを使うのは、妻が渋るようになってしまったのだ。
「そうね、不幸中の幸い、と思うことにする…!」
そう言って、妻は湯呑みを口元に運んだ。少し、元気を取り戻した様子だった。
「……でも、こういうときこそ、何もない、何でもない日常の大切さって、身にしみるわ……」
「そうだねぇ……」
妻がしみじみ言うのに、わたしもしみじみ言葉を返した。
「わたしもおまえも、いずれは老いて、互いに、互いの面倒を見る日が来るのかもしれないねぇ……」
と、わたしが言うと、
「完璧メイドさん型介護ロボット」
妻が呪文のように呟いた。
「へ?」
と、思わず聞き返すわたし。
「あと二十年もすれば、完璧な介護ロボットが、完成していて、実用化、されているはずよ!」
キラーンと、妻の目が輝いていた。
「介護ロボット、ねぇ…どうだろうな、二十年後か……」
「人類のニーズに応えて、スマホだって、あの重ったくて、デカくて使い勝手の悪い携帯電話から、ここまで薄くて軽くて高機能なものに進化したのよ!介護ロボットは、いまや全世界のニーズよ!ニーズがある限り、がんばってがんばって、お金のために、儲けるために進化を続けさせる、ニーズにお応えする。それが企業ってモノよ!」
「携帯電話の草分けの機種が重さ何キロもしていた時代なんて、若い人は知らないだろうなぁ…思えば携帯電話は、はるばる遠くへ来たもんだ……」
と、わたしも昔を思い出しながら、
「しかし、完全な介護ロボットってことは、自律型ロボットのことかい?自分で状況を判断して、動く?」
「自律型ロボットの誕生は、希望されてる、待望されてる未来で有るとともに、避けられない未来でもあると思うわん」
妻は、鼻息が荒くなってきた。
「……ところで、なぜ、完璧メイドさん型……?」
「世の男性たちは、誤解しているわ!」
「……何をだい?」
「女性だって、お世話されるなら、可愛い完璧メイドさん、できたら猫耳もお願いします!に、介護されたいもの!」
「……そうなのかい?」
「昔、ある男性タレントが、『無人島で二人きりになるなら、ブスより、綺麗な男の子がいい』なんて、言ってたけど、ざけんな、こっちだって、『無人島で二人きりになるなら、むさい男より、綺麗で可愛い女の子のほうがいい』!わよ!」
「……そこ、爽やかなイケメンじゃなくて……?」
「あくまで、究極の二択なら、の話よ!」
妻は、ふんっふんっ!と鼻息を荒くしながら、
「女性は、もともと、可愛いものが好きな生き物なのよ。でも、生き物であるがゆえ、生身の女性同士では、性格的な争いが起こるわ!でも、相手がロボットなら、大丈夫!私、介護されるなら、イケメン男性型ロボットより、完璧メイドさん型ロボット、できたら猫耳もお願いします!のほうがいいものっ!!」
その思考が、全女性にあてはまるのが、それとも妻だけの特殊な思考なのかは、さて置こう。
「そこ……ロボットなんだから、性別なしですませるわけには、いかないのかな……?」
「中性、ねぇ……」
妻は、なにやら、意味ありげに、含みのある様子で、語尾を、濁らせたが、
「そういう、あなたは、どんな介護ロボットに介護されたい?」
と、切り返してきた。
「男性型?女性型?イケメン?美女?美少女?猫耳?」
「いや……やっぱり、男性型は、いや、かな……?」
わたしは、うなだれ、
「……やっぱり、完璧メイドさん型介護ロボットで、お願いします……」
と、答えた。
妻は、ホホホッと、ひさしぶりに高笑いをしてみせ、
「猫耳は、いかがいたしますか?旦那様?」
と、わたしに問うた。
「オプションで、お願いできたら、したいです……」
「ホホホッ!正直ね、あなた!メイドさんは、正義!そして猫耳は正義!なのよっ!ホーッホホホ!」
最近流行りの悪役令嬢たちにも真似できないだろう、懐かしの悪役女幹部って、こんな感じじゃなかったっけ?という完璧な高笑いをする妻。
言ってる内容は、無茶を通り越して意味不明な領域だったが、とにかく、妻が元気を取り戻してくれて、嬉しいと思う、わたしであった…。




