完・全・燃・焼!
「あなっ!やったわん!ついに、
俺のカノジョに血と薔薇を
〜『魔外者』まがいものの唄〜
が、完結したのよぅっ!
私、昨夜、むちゃくちゃがんばっちゃったわん〜!」
和室の座卓の向こう側で、妻が、晴れやかな顔で、背中にはドヤっという擬音を貼り付け、胸を張った。
「おおっ!ノルマの5000字、書き上げたか!」
ノルマとは、ナントカ賞の応募要項の文字数の規定が10万字だとかで、それを満たしきれていなかった妻は、小説もラストに差しかかって、四苦八苦していたのだ。
「ふっふっふっ」
妻は不敵な笑みを浮かべ、
「私が書いたのは、5000字じゃないわ!8000字よ!なんとこの私、一晩で8000字を書き上げたのよっ」
「なんとっ!」
どおりで、妻の目の下のクマが凄いわけだ。
「…おまえ、寝てないんじゃないか?」
「むろん、寝てないんわよ!」
妻はむしろ、自慢げであった。
「ラストは、筆が進んで進んで、おいおい大丈夫?って自分でも心配するほどのハイペースで筆が、進んだけど、最初の予定にほど近いラストシーンを迎えることができたわん」
「そうか…がんばったな…お疲れ様!!」
「燃えたぜ…燃えつきたぜ……ジョー!!」
明日のジョーを知ってる読者がどこまでいらっしゃるかわからないが、妻はいま、矢吹ジョーな気分なのらしい。
「とうとうバズらないまま最終回を迎えてしまったけど、悔いはないわ。やるべきことは、やりつくした感じよ……」
「本当に、大変だったねぇ…」
「好調な滑り出しを見せたものの、突然の三ヶ月半の休載……そこから、怒涛の、クライマックス!バイオレンス!バイオレンス!バイオレンス!……そして、ちょっぴりのエロス……主人公を中学二年生に設定しちゃったから、あんまりエロス要素が組み込めなかったのが、残念だわん……」
「しかし、三ヶ月半の休載は、響いたねぇ……」
「産みの苦しみってやつよ……休載している間も、小説のことを忘れた日は、一日たりともなかったわ!」
腕も組んで、ひとりでウンウンうなずく妻。
妻も大変だったが、見守るわたしも大変だった。
「バズらない!」
という妻を励まし、
「いまからでも、異世界要素を……」
という妻をなだめ、
「晩ご飯作る時間なくなっちゃったから、お外ごはんしましょうっ♪」
という妻に付き合って、外食三昧。
ストレスのせいか、外食が多かったせいか、最近では胃がキリキリするときもある、わたしであった。
「これで、しばらくは、ゆっくりできるわ……」
「ああ、ほんとだねぇ……」
わたしたちの間に、ほのぼのとした空気が流れたのも、束の間。
「私の小説が、賞を獲ったら、きっと忙しくなるわん!」
「げほがごほっ」
わたしは、飲みかけのアイスティーが気管に入り、大きくむせた。
「あなた、大丈夫?ーーはい、ティッシュ!」
「だい……ゲホっ……じょ…かはっ…だっ!」
わたしは涙を流しながら、虚勢を張った。
妻の小説が選考に落ちたら、なんとなぐさめればいいのかーーそれが、わたしの最近の課題だ。なかなか、ストレスなのであった。
「そう…ゲホっ…だ…。おまえの小説の完結祝いに、今日は、おまえの好きな物を食べに行こうっ…!」
「いいのっ?!」
妻が子どものように目を輝かせる。
「じゃあ……ステーキ!めっちゃでかいお肉が出てきて安いあそこ、行きたい!」
「…ステーキか…」
少々胃がお疲れ様のわたしであったが、そんなことで、水を差してはいけない。
「そうか、行こうか、楽しみだね…」
わたしは、妻ににっこり笑いかけた。
妻もにっこり笑い返す。
未来のことは、わからないが、とりあえず、今日の今のこの瞬間だけは、幸せなわたしたちであった…。




