バズらないっ!!
「ど〜してなのっ?!
ど〜してなのっ?!」
妻が、小説家になろうサイトに投稿を始めてから、三日が経っていた。
「歌なんか歌ってのんきだな、良いことでもあったか?」
「これは歌ってるんじゃないわっ!いきなり著作権法に触れるかも知れないこと言わないでちょうだいっ!」
「お…おう、すまんかった」
結婚三十年。齢五十をすぎて、ますます妻の猛女っぷりは凄まじい。
「…で、なにがどうしたんだ?」
妻は爪を噛みながら、
「小説が…バズらないのよ…」
悔しそうに言った。
「小説って、おまえ、まだ投稿始めて三日目だろう、バズるもバズらないもないだろう?」
「それが…アクセス回数が日々減っているのよ…」
「ほう、そんなものが見れるのか、便利だな」
「…しかも、ブックマークが増えないの。ブックマーク2件。あなたとミネルヴァさんしか、ブクマしてくれてないのっ!」
妻の目には涙がたまっている。
本当に泣き出されたら、なだめるのに一苦労する。
夕ご飯を作ってくれなくなる可能性まであるのだ。
ちなみにミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、自称女性のネット通だ。
「宣伝が足りないのじゃないか?」
わたしは、慌てて思いつくまま言ってみた。
「おまえの小説の良さは、読めばきっとわかるはずだ。とっかかり、読み始めるきっかけがもっとありさえすれば良いんじゃないか?」
「やっぱり検索キーワードに『異世界』ってつけて…」
と言いだす妻に、
「それはやめなさい。どうだろう、Twitterでつぶやくとかは…おまえもTwitterやってるだろう?」
「Twitter…やだわ、私のTwitterなんかフォローしてるのお友達だけですもの。お友達に、まだバズってない小説のことなんか、知られたくないわっ!」
あくまでバズることにこだわる妻なのであった。
「そうだわ、つぶやくなら、あなたのTwitterでやってよ!『小説家になろうで大絶賛連載中』って!」
「やだよ、恥ずかしい」
思わず言ってしまってから、しまった!と思った。
「あなた…なに?…自分の妻が小説家になろうに投稿してるのが恥ずかしいっていうの?…五十過ぎたBBAが、いい歳こいて、夢見てんじゃないって、そういうのね…?」
「誰もそんなこと言っとらんがな!歳はおまえもわたしも同じだ。人生、夢見てやり直し始めるのに、いい歳も悪い歳もない、わたしはおまえのことを応援してるっ!」
「…じゃあ、あなたのTwitterでつぶやいてくれるわね…?」
般若の形相のまま、妻に詰め寄られた。怖いっ!
「それだけは勘弁してくれ、Twitterは会社の同僚もフォローしてるんだ…。Twitterでつぶやけばいいなんて、安易に言ってしまって、すみませんでした!ごめんなさい!」
妻は、ふうっ、と息を吐いた。
「わかればいいのよ。Twitterでつぶやく案は、とりあえず保留としましょう。ーーでは、代案をお願いします!」
無茶振りは、妻の十八番である。
「えっと…」
今度は私もマジで考えた。
「えっと…挿絵をつけて目立つというのはどうでしょう…?」
妻の目が、キラーンと輝いた。
「言ったわね、言ったわね、言ったからには責任とってもらいますよ!」
妻の剣幕に、気圧される私であった。
「えっ?えっ?責任?責任とれって…わたしたちはもう結婚してるじゃないかっ」
「あなた、バカぁ?」
妻は軽蔑の眼差しで、わたしを見たあと、
「あなたが、描くのよ!あなたに描いて貰いますのよ!私の小説の挿絵をっ!!!」
妻は高らかに、宣言したのであった。