わたしの妻の小説のアクセス数が伸び悩んでいる件における弊害について語りたい②
「〜〜なんたら〜〜かんたら〜〜進め〜〜♪」
と、妻が、歌いながら、和室に入ってきた。
「あなた、これ、なんに出てくる歌だっけ?」
と、座卓の、わたしの向かい側の定位置に座る。
「さあ?」
と、わたしは空っとボケた。
世の中には、明瞭にしないほうがよい問題の答えもある。特に、著作権に関わりそうな場合。
わたしは、話題を変えた。
「おまえの小説の進行具合はどうだい?はかどってるかい?」
「あと三日で10000字、一日ノルマ約3500字なんだけど……今日の分、書き上げてみたら、2500字くらいしかなってなくて……しかたないから、また今夜か、明日の昼間、臨時にお話しをぶっこむわん!」
「……そうか、大変だなぁ」
本気で、小説家になろうのタイアップ企画の賞を狙っている妻は、月末までに、規定の文字数10万字を目指して、ハッスル中なのである。
「いざとなったら、てんてんてんを付け足しに付け足して、お話しを水増しするわん」
「……いや、まじめに、お話しを盛ろうよ?」
「さすがにクライマックスにクライマックスにクライマックスを重ねたけど、いいかげんお話しがエンディングに近づいて来たのよっ!もはよ、エンディングまっしぐらなところを、なんとかかんとか盛って盛って盛ってと、大変なのよん」
「…ハッピーエンドだといいなぁ…」
わたしは、しみじみ言った。
「ミネルヴァさんにも、バッドエンドはダメですよ。この作者は、バッドエンドばかり書く作家だと思われて、次の作品に読者がつきませんよ、って、言われてるしぃ…」
ミネルヴァさんというのは、妻に小説家になろうサイトを教えた張本人で、妻の十年来のLINE友達だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っている。
「まぁ、おまえの場合、次作の心配より、今作の心配だな。ーーなぜ、こんなにアクセス数が少ないんだろうな?」
「ほんっとーに、不思議だわん!」
妻はグラスにアイスティーをごぷごぷ注ぐと、それをがぶりと飲み、ダンッとグラスを座卓に叩きつける勢いで置いた。
「CIAの陰謀か、影で内閣官房室が、動いているのか……それとも別の組織が介入してるのかしらん?!」
妻の目は、本気だった。
「いやいやいや、ないないない」
「わっかんないわよー?」
「いやいやいや。ナスカの地上絵とか、ミステリーサークルとか、誰が何のために作ったのかって、謎だけど、おまえの小説がバズる邪魔をして、誰に何の得があるんだい?」
「謎だけど、きっと、誰かか、何処かの、組織の陰謀に違いないと思うのっ!!」
のっけからアブナイ妻であったが、今や別の意味でアブナイ……。
いや、しかし、この妄想力こそが、創造力の原動力となっているのかも、しれない。
「ーーっ、なーんてね、そんなこと、5%くらいしか、思ってないわ
ん!」
「そっ、そうかっ!!」
ホッと、胸を撫で下ろすわたしであった。
んん?しかし、5%は、本気なのかっ?!
「……検索ワードが、足りないかしらん?……それとも、題名の長さ?……やっぱ異世界要素?あ、でも、いまからそれ盛り込むのは、やっぱ無理あるし……」
と、呟く妻を横目に、わたしもアイスティーをごくごく飲んだ。
「心配するな!CIAの陰謀も、内閣官房室の暗躍も、時勢が悪いのも、運が悪いのも、これまでだ!ナントカ賞を獲れば、全てが変わるさ!」
わたしは、やけくそで言った。
「そうねっ!あなたっ!私を信じる、あなたを信じるわっ!!」
妻は、ガバっと身を乗り出し、私の手を取って、ギュッと握った。
「そうだよっ!それでいいんだよっ!」
と、わたしも両手で握り返しつつ、
もし妻の小説が賞を獲れなかった場合、どのようにして慰めたらいいだろう…
なんてことを、チラリと考えかけ、チクリと胃が痛むのを感じた。
(いかんいかんいかん)
妻を信じるわたしを信じている妻を信じなくて、どうする?!
しかし、わたしの胃は、チクチクチクと痛んで止まないのであった…。




