ヒロインが主人公に、傷口も洗わせずに絆創膏を貼らせようとする件について
「っ不思議よねぇ?」
「なんだい?おまえの小説にアクセス数が増えないことかい?継続は力なりだよ。ずっと書き続けていたら、いずれ認められる日も来るさーー!」
「違うわよっ!私の小説にあまりにも読者がつかないことは、本当の本当に不思議だけど、私がいま不思議がっているのは、そのことじゃないのよん!」
和室の座卓を、両手の拳で、ドンと叩きながら、妻は続けた。
「漫画でよくあるじゃない?主人公が、ヒロインをかばって怪我したりすると、『これ…絆創膏、貼って。肘、すりむいてるよ…』って、ヒロインが絆創膏を渡すシーン!」
「ああ、よくあるなぁ。あんなにタイミングよく、女の子ってのは、絆創膏を持ち歩いているものなのかなぁ?」
「今回、論じたいのは、そこでは、ありません!」
妻は両手で顔の前にバッテンを作った。
「なぜ、そこで、いきなり、絆創膏?!なぜ、傷口を洗わせない?!WHY?汚い!バイキン入るわ!」
「…そこに、水道がないからじゃないか?」
「美しき水の国、ニッポン!」
と、妻は鼻息も荒く、
「水道なんて、学校なら、各階に、職場だってほぼ各階に、帰り道なら、公衆トイレにだってあるわぁ!」
「……ヒロインが、怪我した主人公を、いきなり公衆トイレに連れ込むのは、ちょっとなぁ……」
「いいえ、それこそが、リアリズム!リアリティ!本当の本当!マジのマジなのよ!異世界に召喚された若い女性が、生理の予定日や、異世界での生理事情を真っ先に気にしなければおかしいのと同じくらい、おかしいわ!なろう作品における七不思議のひとつよね、生理を気にしない女性は!!」
と、熱く語る妻に、
「そういえば、おまえ、
召喚されたアラフィフBBAとJKとOL 〜女三人の異世界生活は、誰が聖女で誰が賢者で誰が勇者か不明です〜
って小説もたしか書いてなかったかい?あれはどうしたんだい?」
「今の
俺のカノジョに血と薔薇を〜『魔外者』まがいものの唄〜
が書き終わったら、順次執筆予定よん!!」
「そうか……それで、絆創膏をいきなり貼れと言ってくるヒロインも、七不思議なのか?」
「いいえ、七十不思議のひとつくらいのポジションかしらねん」
「……あまり、不思議度は高くないんだねぇ」
「あざとい!」
「ん?」
「傷を負った主人公に、傷口も洗わせずに絆創膏を貼ろうとするヒロイン、あざとし!合コンで『パスタくらい茹でるよね、冷凍パスタとか、信じられない〜』って発言する女の如く、あざとし!」
「いや、おまえ、合コンなんて数十年行ってないだろう……?」
私たちは結婚三十年の仲良し夫婦だ。
しかし、妻は、私の発言は無視し、
「冷凍パスタを食べざる者、冷凍パスタを語るなかれ!!」
ふんぬっと鼻息もさっきより荒く、
「だいたい、パスタを茹でるところからして、いまは電子レンジでやれる時代よ!ビバ!電子レンジ!冷凍パスタは安くて美味いのよ!銀河の夜は蒼くて深いのよ!」
最後のほうは、もうわけがわからない妻だった。
「そういえば、ジョバンニとカムパネルラって、どっちが主人公だっけ?」
と、わたしが何気なく呟くと、
「それ!チルチルミチルの青い鳥の、チルチルとミチルのどっちがお兄さんで、どっちが妹かわからなくなるのと一緒!」
妻が、ビシィっと、人差し指を立てる。
「あるあるあるある!」
と、わけがわからないまま納得している妻を片目に、
「メーテル・リンクの『青い鳥』……っと、お兄さんがチルチルか……」
と、ググるわたしであった。
ちなみに、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、主人公はジョバンニのほうである。
「ちょーっと話が脱線してしまったけど、主人公に絆創膏を渡すヒロインの行為など、ただの女子力アピールに過ぎないってことよ!本当に怪我を気づかうなら、無理にでも公衆トイレに連れ込んで傷口を洗わせるわ!!」
「なにもそこ、公衆トイレに限定しなくても……」
「あざとし!あざとし!あざとーし!」
と、叫ぶ妻。
「……ところで、なんでそんなことが気になり出したんだい?」
と、問うわたし。
「あっ……」
と、妻は声を上げ、
「さっき、ひさしぶりに紙の本読んでたら、ページをめくったときに、指が切れちゃったのよ…ちょうどいま絆創膏切らしてて…絆創膏ひとつ買いに行くの面倒だなぁって思ってたら、なんだか、なんだかだったの……」
「……絆創膏くらい、買って来るよ……」
「あなた、どうせなら、水につけても取れにくい、傷口の早く治るハイドロコロイドの絆創膏買ってきて!コンビニにはなくても、ドラッグストアなら売ってるから〜〜〜!」
妻の声を背に、身支度を整えるわたしなのであった…。




