それはそれこれはこれ
このエッセイを読んでいない方から誤字報告に落ち込んでいた、わたしであったが、ちゃーんとこのエッセイを読んで下さっている読者様から、励ましのお言葉を頂いて、気持ちが上ったのであった。
あらためて、ありがとうございました。
さて……妻の執筆中の小説であるが……
「ベキッ!バキッ!ボギボギボギッ!!今日も心折れてるわん」
和室の座卓に突っ伏し、そう言ったところを見るに、読者様は、増えていないらしい。
「終わる〜終わってしまう〜読者様不在のまま、クライマックスもいよいよ終わりに近づいてるのよ〜〜〜」
「……わたしは、面白く読ませてもらってるけどなぁ……」
「もはや、あなたとミネルヴァさんの他には、通りすがりの方が、ちょこーっと覗いてくれてるだけではないかしらん……」
「ちょこーっとでも覗いてくれれば、面白い小説だって、わかるはずなのになぁ」
ちなみにミネルヴァさんというのは、妻に小説家になろうサイトを教えた、妻のLINE友達で、自称女性だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っている。
「もはや、自信も揺らいできたわ……私の小説って、実は面白くないのかしら……」
「そんなことは、ないよ!おまえの小説は面白いよ!」
「……その、根拠は?」
妻がジト目で、わたしを見上げる。
「ーー根拠はと言われても、わたしが読んでみて、面白いと思ってるんだから、そうとしか、言えないよ。わたしの言葉が、信じられないのかい?」
「あなたのことは、信じてるわ。でもそこは、夫婦の欲目が入ってるかもしれないわん」
「欲目……いや、欲目なしに、おまえの小説は、面白いよ!」
「ホントにぃ?」
「本当さ」
「うーん」
と、妻はそれでも座卓に片頬。つけたままだった。
いつものあの、元気な妻に、早く戻って欲しい…。
少々言動が破天荒で、大言壮語なところもある妻だが、わたしは妻のそんなところこそが、好きなのである。
ここ数日来、左膝が痛むらしく、身体の不調が、心にも影響しているらしかった。
フェーニッックスッッ!
と雄叫びを上げながら、走り回っていた妻が、懐かしい。
「はぁふ……。私、心配なのよ。このままじゃ、みんなが私の小説の面白さに気づかないまま通り過ぎて行ってしまって、後からリアルタイムで読んでおけば良かったって、悔やまないかって……」
「んんん?」
「小説、終わるでしょ、ナントカ賞を取るでしょ?そのときになって、初めて作品が注目されるでしょ?読者様は、そのとき初めて、ああ、こんな面白い小説があったのかって、悔やむのよ……なんというか、残念じゃない?」
妻は、基本的に、自信を無くしてなどいないらしい。
「うんうん、ソダネー」
「なう!今読まれなくちゃ意味が無いのよ!それ、わかってる?あなた!」
「ウンウン」
「宣伝が、やっぱり足りないのかしらね。今夜からは、あなたにもTwitterで呟いてもらうわん!」
「わたしのTwitterは、友人もフォローしてるし…それは……」
「なーに?あなた、自分の妻が小説書いてることが、恥ずかしいって言うの?!」
「いや、そういう意味ではないが……」
「アドレスさえあれば、別垢も作れる!そこで、呟けばいいだけの話よ!」
「う、ううう…」
「俺のカノジョに血と薔薇を〜『魔外者』まがいものの唄〜
読まないと損をする!はい、これが今日から私たちの合言葉よ!」
なにはともあれ、妻は元気になったようであった。
それはそれで喜ばしかったが、これはこれで難儀であった。
「あなた、今夜は寝かせないわよっ!ホホホッ!」
高笑いする妻に、返す言葉のないわたしであった。




