記念すべき、ポチっとな
「はい、これで小説投稿完了!さあさあさあ、記念すべき大作家への第一歩よ〜!!」
「ずいぶん簡単に投稿できてしまえるんだな。どれどれ…ん?サイトに登録しないと読めないのか?読むためには、小説家になろうサイトじゃなくて、小説を読もうサイトに登録する必要があるのか?」
「あなたは焦ったいわね、そうだわ、ミネルヴァさん!ミネルヴァさんに読んでもらって、感想をもらわないと!」
妻はいそいそとLINEを開き始めた。
ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、自称女性だ。妻とは顔を合わせたことはないそうだが…
「んーなになに、行間が詰まっていて、読みにくいです。もっと読みやすくする工夫をしたほうが良いですよ、ですって…」
妻の表情が曇る。
「あらやだわー。そんなに読みづらいかしら?確かに原稿用紙に書く感覚でメモ帳に書き出したから…出版された本のように、ちゃんと文字起こしされてないかも…」
「どれどれ、やっとわたしも見れたぞ。うん、たしかに画面いっぱいに文字がぎゅうっと詰まってて読みにくいかもなぁ…」
「なんか、自動でレイアウトされると勝手に思い込んでたけど、違ったみたいね…」
妻は、シュンとしょげている。
「あら、またミネルヴァさんからLINEだわ。えっとーー私がブックマークしてる小説はこんな感じだけど、参考にしてみて♪ーーって、画像が送られてきたわ」
「あなたに転送するわね」
「おう」
送られてきた画像は、誰が書いたものなのかはわからなかったが、小説の一部を抜粋したもので、やたら行間が空いており、画面の中で数えて、10行も本文がなかった。
「薄っぺらいわー」
と、妻は言った。
「Web小説って、みんなこんなスカスカの文字起こしで画面作らないとダメなのかしら?」
「それが昨今の流行りというものなんだろう。仕方ないさ」
「ミネルヴァさんから追伸があるわ。文章は良いのだから、読みやすくして、門戸を広げないと、もったいない。文才はあるのだから、ちょっとの工夫で、良くなるわよ♪ーーですって」
妻の目が、メラメラと燃え出した。
「私、やるわ!他のWeb小説をお手本にして、読みやすい画面作りを心がけるわ!!」
「……おまえ、さっきまでWeb小説読んでWeb小説書くなかれ、みたいなことをわたしと話してなかったか?」
妻はホホホッと高笑いして、
「それは内容に関しての話よ!内容以外のテクニックは、盗めるところは盗まなくちゃ!!」
「…おまえなぁ」
「さっそくやるわ、行頭一字下げも忘れてたから、下げて下げて、セリフとセリフの間は、行間とって……ドヤァ!!」
妻はシュパシュパ作業に取り組んだ。あっという間に編集作業が終わった。
「はい、編集ポチっとな」
妻は両手で拳を作り、グッとガッツポーズをとり、
「ついてこいや読者ーー!!バズれやーー!!大作家の誕生だコラーー!!私は第一歩を踏み出したぞオラーー!!」
「改稿なんだから、第二歩だろう…」
わたしは訂正し、深くため息をついた。
しかし、妻はほどなくして、現実を知ることとなるのであった…。