妻はまだ五十歳だから
「バズーーー!!!」
と、妻が叫んだ。
「れーーー!!!」
慌ててわたしは応じた。
バズれ!
それがわたしたちの合言葉だった。
昨日は、誤字報告ありがとうございました。
著作権に触れそうな部分については、変更させて頂きました。
今日も著作権ギリギリのところを漂いながらも、がんばって連載を続けて行こうと思います。
変わらぬご愛顧を、心よりお願い申し上げます。
ーーと、心の中で、独り言ちて、わたしは和室の座卓の脇、いつもの定位置に座った。
妻は、ふんふんふん!った鼻息を荒くしていたが、やがて続けて自分の定位置に座った。
「…しかし、なんだ。おまえの小説だがね、だんだんバイオレンスじみてきたねぇ…」
「ふふふ…青春。伝奇。アクション。バイオレンス。ワンコ。吸血鬼と、なんでもどんとこいよ!……でも、異世界要素は組み込めなかったわ。そのせいかしら、読者がつかないのは……」
「いや、三ヶ月半も休載していたせいだろう?いずれ、離れていた数少ない読者様も戻ってくるさ!信じて書き続けよう!」
「……いまからでも、異世界要素を取り込もうかしらん……とりあえず異世界と付いてれば、とりあえず読んでみようとする読者様もいることだし……」
「やめなさい」
と、わたしは威厳を持って言ったのだった。
「…そうね、いまもバイオレンスとアクションの狭間で手一杯なことだしねん」
妻は湯呑みに注いだ紅茶をすすりながら、言った。湯呑みは、両手で持っている。
外は灼熱地獄だが、人類の叡智エアコンのおかげで、部屋の中は快適だ。熱い紅茶だって美味しいのである。
「読者様は少なくても、毎日小説を更新するのは、生活に張りがあるわん」
「いいことじゃないか」
わたしはうなずいた。
「でも、反面、私、怖くもあるの…!」
「…怖い?何がだい?」
自分の才能が怖いとでも言い出すのかと予想したが、ちょっと違った。
「…この物語を書き終わったら、私、抜け殻のようになってしまうんじゃないかって…!」
湯呑みを持つ妻の手が、微かに震えていた。
本気らしい。
「…たしか、2ndシーズンの構想があるとか、言ってなかったかい?」
「しっ!あなた!それはまだ秘密ーー!!」
「おっと、いけないいけない」
慌ててお口にチャックするわたしだった。
「…私、この小説に賭けてるの!自分の第二の人生をっ!これが空ぶったまま終わってしまったら、私、本当に抜け殻になってしまうわ…!」
妻は妻なりに真剣な様子だった。
「大丈夫だよ…」
わたしは、そっと妻の手に、わたしの手を添えた。
手だけは、三十路並みに綺麗で若々しい妻であった。
「第二の人生がダメだったら、第三の人生に向かって突き進めばいいんだ!おまえなら、できる!おまえなら、やれる!なんてったって、おまえはわたしより二歳も若い、五十歳なんだから!ーーおまえは、まだ、五十歳なんだよ!!!」
妻は
「ガビーん!」
と、脳天に稲妻が落ちた時の擬音を発し、ガバっと、わたしの手を握り返した。
「あなた!!そうね、私、まだ五十歳なんだものね。五十歳なんて、まだまだこれからよねっ!!!」
「そうだ!そうだともっ!」
妻に握られた手が痛かったが、わたしは反対の手で、妻の両拳を握り返した。
「ぐぐっ!!……ふん!ヌヌッ!」
負けじと、妻の両拳が、わたしの片手を握り潰そうとする。
「ぬぬぬ」
「ふんっ!うぬぬっ!!」
わたしたちは、数分、そのままお互いの手を握り合った。
そして、わたしが、ふっと力を抜くと、妻も同時に力を抜き、
「うふふ…」
と、小さく笑ったのだった。
「ははは」
わたしも、つられて笑った。
「ふふふふふ」
「ははははは」
わたしたちは、顔を見合わせて、ひとしきり笑い合った。
「痛いわ、あなた。ふふ、ふふふ」
「ごめんよ、おまえ、ははははは」
なんという意味もなく、わたしたちは笑い合った。
こんななんでもない日常を、幸せと、呼ぶのであろう。
明日の幸せは約束されてらいないけれど、けれども、明日も明後日も、この妻とてを繋ぎ合っていきたいと、わたしは思うのであった。




