バズるんるん♪
「バズる、るんるん、バズる、るんるん、バズるんるんるんるんる〜ん♪」
懐かしの女の子アニメの主題歌にも似た歌を口ずさみながら、妻は和室の座卓の周りを踊り歩いていた。
「バズるどころか、二日もお休みして、少ない読者も離れて行くぞ」
と、座っているわたしが言うと、
「るん♪お盆休みよ〜未来の大作家にだって、お盆休みは必要よ〜♪」
と、のたまいつつ、妻はわたしの向かい側に座った。
「それより、あなた。スコーンはお菓子のホームラン王よね♪って話、先日ミネルヴァさんにも、したらねーー」
ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、十年来のつきあいだそうだが、妻も実際に会ったことはないらしく、わたしはひそかにネカマを疑っている。
「ナ◯ナのコマーシャルがどうした?」
「意味がよくわかりませんって言われちゃって……知らなかったらしいわ、王貞治がやってたコマーシャル、『ナ◯ナはお菓子のホームラン王』って、アレ」
「…知らなかっのか。……大体ミネルヴァさんって、年はいくつだ?」
「私より若いのは確かよん。私より、ひとまわり下って言ってたわ」
「それじゃあ、王監督が現役時代にやってたコマーシャルは、知らないかもなぁ」
「月日の経つのは早いものねん。ON時代とか言ってたのが、ちょっと前のようなのに…」
「『王』『長嶋』は、ちょっと前の話じゃないだろう」
「アントニオ猪木とジャイアント馬場の試合を観てみたかったって話題も、ミネルヴァさんには通じなかったわ」
なぜか話題が野球からプロレスに急に飛ぶ妻だった。
「確実に、年下だな」
そういうわたしも妻も齢五十を超えている。
「振り返れば半世紀なんて、あっという間だったな…」
「ベルリンの壁崩壊や、ソ連の解体、月着陸成功や、ケネディ大統領暗殺が、歴史の教科書に載ってるらしいわん」
「……リアルタイムで見聞きしてきたなぁ」
「それにしても、現代は思っていたほどの未来ではないわん」
「…どういう意味だい?」
「ハネムーンを月旅行で、とか、火星に移住とか、実現できてないもの」
「宇宙開発は、確かに予見されいていたほど、進んでないなぁ…。いやしかし、宇宙ステーションなんてものが実在してるぞ?」
「お金さえあれば、月旅行にだって行けるけど、庶民に浸透していないから、ダメよ」
ダメって、どういう意味だろう?
「でもでも、驚きの未来道具は、やっぱりスマホね!!」
妻はドヤ顔で、言うのであった。
「庶民の誰もが持っていて、SNSで繋がれて、通話もできる、どこでも誰とでも繋がれる!」
「ーーまあスマホは便利だが、そのぶん怖くもあるな。個人情報流出や、未成年への犯罪行為増加やーー」
「個人情報なんて、もうっ、だだっ漏れよ、あなた!だだっ漏れ!」
力強く、妻は言った。
「どうせ個人情報なんか漏れ漏れだと思って対処してなくちゃダメよ!家電やスマホにかかってくる電話は、みんな特殊詐欺よ!何かが貰えるアンケートに答えた時点で、その情報は保存され、売り飛ばされるのよ!」
「ーーすこし極端じゃないかい?」
「他人を見たら泥棒と思って、昔から言うじゃない!」
「そんな格言もあったなぁ…格言と言えば、
『お客様は神様です』
って言葉、三波春夫の決め台詞だっただけで、格言でもなんでもないって、もう若い世代は知らないんだよなぁ」
「演歌歌手の三波春夫も、『お嬢』と呼ばれた美空ひばりも、知らない子は知らないわ」
「昭和は遠くなりにけり……」
「昭和の名優たちも、どんどん亡くなっていくしねん」
ちょっと、しんみりする妻だった。
「まあ、なんだ、それでも昭和は、いい時代だったよ。わたしたちは、いい時代を生きたよ!」
「令和もいい時代になって欲しいわん。平成は、なんだかあまり明るい話題のない時代だったから…」
「まあ、なんだ、今夜は回るお寿司でも食べに行こうか!」
妻の顔が、パッと明るくなった。
「やった!お寿司!ーーでもお盆で混んでるかもしれないわーー」
「大丈夫!ネット予約すればいいじゃないか!」
「そうね、あなた!」
妻はさっそくスマホを取り出してポチポチやり出した。
「今からだと、20時過ぎの予約しかできないけど……」
「それまで、何か軽くつまんでおこう。そうだな、たまにはアイスでも、外で食べようか!」
「やった!ナッツの入ったアイス、食べたい!」
「よし、出かけよう!」
「えっしゃおらー!」
嬉しそうに片手をかかげる妻。
わたしは何が苦手というか、見ていられないというか、そんなふうなものは、イカの塩辛と、妻のしょんぼりした姿なのだった。
そんなときは、明るい話題に切り替えるに限る。
テレビのニュースでは、昭和の名優がまたひとり亡くなった報道の続きが流れていた。
明るい話題とは無縁の昨今だが、とりあえず、今日は妻の明るい笑顔が見られて、ほっとしているわたしであった…。




