明日の明日の明日の明日
「なんかもうね、めっちゃ恥ずかしくて恥ずかしくて、仕方ないのよ〜〜〜!!!」
「なんだ、また上着がズボンの中に入ってて、パンツが見えてしまったのかっ?!」
「そんなこと、そうそう何度もあってたまるもんですか〜〜〜!!!」
「じゃあ、どうしたんだっ?!」
妻はミルクティーをガブリと飲んだあと、
「私、小説を、書くのが、突然恥ずかしくて恥ずかしくて、しょうがなくなってしまったのよ〜!」
妻は、顔を真っ赤にして、言ったのだった。
ちょっと…可愛かった。
「なんだい、さんざんいままで、あーんなことや、こーんなことまで、さらけ出しておいて、いまさら何が恥ずかしくなったんだい?」
わたしは、少しイジワルっぽく訊いてみた。
「も……」
「も…?」
「もうそうが…」
「妄想?」
「妄想が、とまらないのよ〜!」
妻は、バッと顔を手で覆ってしまった。
妻が恥じらう姿を見るのは、何年ぶりだろう……。
「なんかね、健ちゃんが××××するシーンを書いたら、なんか、思った以上にエロくなってしまって……」
「思わせぶりな伏せ字は、誤解を招くぞ」
「だって、お話のクライマックスシーンだもの、よそで話すわけにはいかないわ」
「うん、まあ、それはわかるが……たしかに、あのシーンは、少し、官能的だった……」
だが決して、18禁なコトを書いたシーンではなかったことを、わたしもあえて言っておこう。
「そうしたら……なんかね、なんかね、自分のキャラクターたちの、エロい妄想が浮かんで来てしまって……そんな自分が恥ずかしくてっ!」
「なんと……!」
なんとコメントしてよいやら、わたしも躊躇してしまった。
齢五十を超える妻が、思春期の、二次創作ーーしかもエロいのーーにハマってしまって、どうしたらよいのかわからない悶々とした状態に陥っているとはっ!
「いくら中学生が主人公のお話を、書いてるからって、自分の精神年齢まで、中学生に戻ってどうする!」
「だってだってだってだって」
「まず、落ち着け」
わたしは、威厳を持って、言った。
「お前は、十四でも十五でもなく、五十だ」
「西暦2020年なんて、実未来感覚だわん…」
「百まで生きるとしても、もう折り返しだ」
「歳のことを、しみじみ言われると、なぜかつらいわ…」
「バースデーケーキにロウソクも乗り切らない、節分の豆も食べ切れない、歳だ」
「……。」
「コップに入った水が半分あったとして、おまえは、まだ半分あると感じるか?もう半分しかないと感じるか?」
「……。」
妻の表情が、だんだん冷静なそれに戻っていく。
「……。そうね、あなたの髪も、まだこれだけあると考えるか、もうこれしかないと考えるか、微妙な歳よね……」
「わたしの髪はフッサフサだ!」
いかんいかん、こんどはわたしが熱くなりかかってしまった。
「……そうね、冷静になって考えれば、小説なんて、みんな妄想の産物だ!って、どなたかが言ってらしたような気がするわん……」
と、言った後に、妻は、
「どっちかって言うと、五十のBBAの妄想の産物なんて、産業廃棄物のようなものよね……」
「いや、わたしはそこまで言ってないよ?」
「BBAのパンツなんて、偶然でも見たくないのと同じで、BBAの書いたちょっと官能的な小説なんて、読まされるほうが、迷惑よね……」
「いやいやいや、わたしはそんな話はしてないよ?」
あわあわあわ
「五十のBBAは小説なんて書いちゃいけなかったのよね」
ついに、妻の目から涙がこぼれ落ちた。
「まだ五十だ!!!」
わたしは言い切った。
言い切るしかないではないかっ。
「夢を見る権利は、若者たちだけのものではない!あと人生半分、夢も持たずして、どう生きながらえるっ!夢を持って小説を書いているおまえは正しいっ!!!」
「あなだぁぁあああ!!!」
わたしたちは、座卓ごしに、ガッシッと、抱き合った。
「夢を見ていいんだよ。いくらでも妄想しなさい。恥ずかしがることなんてないんだから…」
妻は、わたしの腕の中でコクコクうなずいたのであった。
そして、妻の妄想の産物、『俺のカノジョに血と薔薇を』は、こうして、ここに、5日ぶりの更新を、迎えたのであった……。




