表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/89

明日の明日の明日の明日


「なんかもうね、めっちゃ恥ずかしくて恥ずかしくて、仕方ないのよ〜〜〜!!!」


「なんだ、また上着がズボンの中に入ってて、パンツが見えてしまったのかっ?!」


「そんなこと、そうそう何度もあってたまるもんですか〜〜〜!!!」


「じゃあ、どうしたんだっ?!」


 妻はミルクティーをガブリと飲んだあと、


「私、小説を、書くのが、突然恥ずかしくて恥ずかしくて、しょうがなくなってしまったのよ〜!」


 妻は、顔を真っ赤にして、言ったのだった。


 ちょっと…可愛かった。


「なんだい、さんざんいままで、あーんなことや、こーんなことまで、さらけ出しておいて、いまさら何が恥ずかしくなったんだい?」


 わたしは、少しイジワルっぽく()いてみた。


「も……」


「も…?」


「もうそうが…」


「妄想?」


「妄想が、とまらないのよ〜!」


 妻は、バッと顔を手で覆ってしまった。


 妻が恥じらう姿を見るのは、何年ぶりだろう……。


「なんかね、(けん)ちゃんが××××するシーンを書いたら、なんか、思った以上にエロくなってしまって……」


「思わせぶりな伏せ字は、誤解を招くぞ」


「だって、お話のクライマックスシーンだもの、よそで話すわけにはいかないわ」


「うん、まあ、それはわかるが……たしかに、あのシーンは、少し、官能的(かんのうてき)だった……」


 だが決して、18禁なコトを書いたシーンではなかったことを、わたしもあえて言っておこう。


「そうしたら……なんかね、なんかね、自分のキャラクターたちの、エロい妄想が浮かんで来てしまって……そんな自分が恥ずかしくてっ!」


「なんと……!」


 なんとコメントしてよいやら、わたしも躊躇(ちゅうちょ)してしまった。


 (よわい)五十を超える妻が、思春期の、二次創作ーーしかもエロいのーーにハマってしまって、どうしたらよいのかわからない悶々とした状態に陥っているとはっ!


「いくら中学生が主人公のお話を、書いてるからって、自分の精神年齢まで、中学生に戻ってどうする!」


「だってだってだってだって」


「まず、落ち着け」


 わたしは、威厳を持って、言った。


「お前は、十四でも十五でもなく、五十だ」


「西暦2020年なんて、実未来感覚(じつみらいかんかく)だわん…」


「百まで生きるとしても、もう折り返しだ」


「歳のことを、しみじみ言われると、なぜかつらいわ…」


「バースデーケーキにロウソクも乗り切らない、節分の豆も食べ切れない、歳だ」


「……。」


「コップに入った水が半分あったとして、おまえは、まだ半分あると感じるか?もう半分しかないと感じるか?」


「……。」


 妻の表情が、だんだん冷静なそれに戻っていく。


「……。そうね、あなたの髪も、まだこれだけあると考えるか、もうこれしかないと考えるか、微妙な歳よね……」


「わたしの髪はフッサフサだ!」


 いかんいかん、こんどはわたしが熱くなりかかってしまった。


「……そうね、冷静になって考えれば、小説なんて、みんな妄想の産物だ!って、どなたかが言ってらしたような気がするわん……」


 と、言った後に、妻は、


「どっちかって言うと、五十のBBAの妄想の産物なんて、産業廃棄物のようなものよね……」


「いや、わたしはそこまで言ってないよ?」


「BBAのパンツなんて、偶然でも見たくないのと同じで、BBAの書いたちょっと官能的な小説なんて、読まされるほうが、迷惑よね……」


「いやいやいや、わたしはそんな話はしてないよ?」


 あわあわあわ


「五十のBBAは小説なんて書いちゃいけなかったのよね」


 ついに、妻の目から涙がこぼれ落ちた。


「まだ五十だ!!!」


 わたしは言い切った。


 言い切るしかないではないかっ。


「夢を見る権利は、若者たちだけのものではない!あと人生半分、夢も持たずして、どう生きながらえるっ!夢を持って小説を書いているおまえは正しいっ!!!」


「あなだぁぁあああ!!!」


 わたしたちは、座卓(テーブル)ごしに、ガッシッと、抱き合った。


「夢を見ていいんだよ。いくらでも妄想しなさい。恥ずかしがることなんてないんだから…」


 妻は、わたしの腕の中でコクコクうなずいたのであった。


 そして、妻の妄想の産物、『俺のカノジョに血と薔薇を』は、こうして、ここに、5日ぶりの更新を、迎えたのであった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ