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懐古(かいこ)①


「あなた、昔ね、ある大作家さんが、自分の作品の中の登場人物について語ってたんだけどね…」


 と、妻は前置きしてから、


「その登場人物が、このままじゃ死んじゃう、どうしよう、どうしようって、悩むんだけど、結局話の流れには逆えず、その人気登場人物は死んでしまうのよ……」


 さみしげに言った。


「で、何が言いたいんだい?」


「話の流れには、作者と言えど、逆えないのよ〜!このままでは、あの人があーなって、こーなって、ひどい目にあってしまうと、わかっていながら、作者にはどうしようもないのよ〜〜〜!」


 と、妻は叫んで、ゼイゼイ息をした。


「まあ、落ち着いて、紅茶でも飲みなさい」


「ありがとう、あなた。あら、今夜はミルクティーなのね。ーー美味しいわ、ウバ茶ね」


「そうだよ。少しは落ち着いたかい?」


「ええ、あなた。私、最近情緒不安定でごめんなさい……」


 おまえが情緒不安定なのは、いつものことだから、気にしてないよ、なんてことは言わず、わたしは、


「小説に行き詰まってるのかい?」


 と、優しく訊いた。


「行き詰まっているというか、登場人物に感情移入しすぎて、この先の成り行きが、わたしも不安で不安で……」


「うんうん」


「ミネルヴァさんに、『バッドエンドはダメですよ、この作者はバッドエンドばかり書く作者だと思われてしまいます』って言われてるから、次回作の為にもバッドエンドは避けたいんだけど……」


 ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、自称女性だが、わたしは密かにネカマを、疑っているーー


「バッドエンドに、なってしまうのかい?」


「みながみなハッピーではないかも、しれないわん」


 と、言ったあと、妻は遠い目をして、


「昔、雑誌に載った作品も、『ラストに救いがないのが残念』みたいなことを批評されたわ」


 悲しげに呟いた。


(明日に続きます!)

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